034 魔法局大臣の苦難①(ダイヤード5歳)
楽しんでいただけると幸いです。
王都の貴族街にある大きな屋敷の一室である男が疲れた顔で椅子に腰かけている。この男は名前をハーミット・ハイルランドといい、魔法局の大臣を務めている。また、代々魔法局に務める宮廷貴族であり伯爵位についている。
ハーミットは一人で目を閉じていると、この数日のことが頭を走馬灯のようによぎってくる。
付属式当日、ハーミットはいつものように副大臣と共に書類整理を行っていた。
「そろそろ終わったころですかね?」
副大臣の突然の言葉に一瞬何のことか分からず、呆けた表情をしてしまう。
「うん? ……あぁ。王子の付属式か。そろそろ報告が来るんじゃないか? まぁー、何も問題は起こらんだろう」
「ダイヤード王子は魔力操作もままならないと聞きますし、無事に終わればよいのですがね」
ハーミットは会話を終わらせたつもりであったが、会話を続ける副大臣に少し驚いたが、書類の山を見てこのまま付き合おう事に決めた。
「そんな話もあったが、噂の域を出んだろう。それに魔力操作と付属は何ら関係ないよ」
「しかし、『森で音が聞こえたら、ゴブリンがいる』という諺もありますし、噂が立てばその根拠はあるものですよ」
「そうだな。…… ふむ。しかし、魔力操作は言葉通り魔法を起動させるために魔力を操作する技術。付属とは、魔力そのものを変化させる儀式。やはり関連性はないと思うがな。魔法の使えない雷魔法師という、前代未聞の魔法師が誕生するだけだろう」
「ですが、魔力操作と魔法の因果関係も解明されていません。となれば、何が起こるのか分からないのではないでしょうか?」
「それでは、付属式が終わった暁には、ダイヤード王子殿下に検査をさせてもらうようにお願いをしないといかんな」
ハーミットは王族への皮肉に思わず笑ってしまう。
「フフフッ。ご子息がユークリッド王子殿下の側近に選ばれた方は豪胆ですね」
「いやいや、人がいないからこそ言える言葉だよ。王族方と同じ建物にいると分かれば何も言えんよ。それに息子のセオパールも殿下と話が合っただけで、私の力ではないよ」
ハーミットはやんわりと否定をする。ハーミットは王族への敬愛を持っているが、仲間内でたまに言う皮肉ぐらいは許されるだろうと思っている。高位貴族の中で王族を揶揄しない者にハーミットは出会ったことがないからだ。
「それこそ何を言われますか。普通は王族方と顔を合わせるのさえ難しいのですから。大臣の力があってこそだと思いますよ」
ハーミットが雑談に興じていると、激しくノックをする音が聞こえた。
「入れ」
ハーミットが短く言うと、一人の魔法師が慌てたように入室した。
「どうした? 大事か?」
「は、はい。こ、ここ、こちらに、ロ、ロクウォール軍務大臣を筆頭に10名を超える軍人が、お、おし、押し寄せています」
「何?」
ハーミットは突然の報告に思わず立ち上がる。
「と、と、突然、ハイルランド魔法大臣に用があると言われ、と、取り次ぐと言ったのですが…… そ、それで報告と思いまして、慌てて先回りして……」
報告にきた魔法師が言い終わる前に扉が開いた。
「…… これはどういったことか説明してもらいますぞ。ロクウォール軍務大臣!」
魔法局と軍務局は性質上、同じ任務に就くこともあり大臣同士も仲が良い。ロクウォール軍務大臣の性格をよく知るハーミットからすると、彼の理不尽な暴挙は許せるものではなかった。
「もちろんだ。今現在、魔法局全体に反逆罪の容疑が課せられている。関係者を拘束し、尋問するように軍務が言い渡された。反抗するようなら実力行使に出ても構わないとの指示も下されている。大人しく魔封じの首輪を受け入れ大人しく付いて来てもらおう」
ロクウォールは無表情のまま言い放った。
「…… 何?」
ハーミットは突然のことに、ロクウォールが何を言っているのか理解できなかった。
「大臣、副大臣を含む将官を一先ず拘束させていただく。容疑が晴れたら順次解放されるだろうが、約束はできない」
ロクウォールは再度端的に繰り返した。
「は、反逆罪? 拘束? 何故だ? 理由は?」
ロクウォールに掴みかかろうとしたハーミットは共に連れてきた兵士に取り押さえられる。
「今現在、私の口からは理由を述べることは許可されていない。ただ、これは王陛下からの指示であることは付け加えておこう」
そう言うと、その場にいたハーミットと副大臣に魔封じの首輪がつけられ、軍務局にある貴族牢へと連行された。
意味が分からず為すがままにされるハーミットだったが、同じように項垂れている副大臣が悔しそうな表情を浮かべていた。
レミ「質問がありますの」
ダイ「あっ、復活したんだね」
レミ「魔法局と軍務局ってどうして別なんですの?」
ダイ「どういうこと?」
レミ「いえ。魔法って魔物を倒したり、戦争で使われるものですわね?」
ダイ「そうだね」
レミ「ならそれって、軍事ではありませんの?」
ダイ「そうだね」
レミ「ダード様…… 『そうだね』しか言っていませんわよ」
ダイ「それを語るには国の成り立ちから話さないといけないんだよ」
レミ「ああ。面倒なのですね」
ダイ「簡単に言うと、配慮だね」
レミ「配慮ですか?」
ダイ「うん。凄腕の戦士と魔法師に配慮した結果だよ」
レミ「なるほどですわ」




