031 覚醒(ダイヤード5歳)
楽しんでいただけると幸いです。
「ハッ。ハッ。ハッ」
子供を抱えて森の中を走るのは相当にきつく、タランは木の枝や葉で傷が出来ていた。
「ハー。ハー。ハー」
一歩も歩けないほど疲れ果ててしまい、ダイヤードを木の根を枕に横たわらせると、大きな木を背に呼吸を整える。
「ハー。どうしたら…… フー。いいんだ。ハー。あいつらが魔物にでも襲われてくれねーかな」
軽く休憩をし、タランがダイヤードを抱えようとした瞬間、背後から声が掛かった。
「もう少し休憩していけよ」
剣を抜いた体格の良い冒険者を先頭に、同じく剣を抜いた髭面の冒険者と杖をかまえた魔法師がその両脇を固めていた。
声を掛けたのは髭面の冒険者だったようで、続けて言った。
「俺たちは探索のプロだぜ。逃げきれやしないから諦めな」
小馬鹿にするような笑みを浮かべた。
「おい」
タランは呼ばれたほうを振り返ると、回り込んでいた背の低い冒険者に殴られた。
「グフッ」
足の怪我のせいで大して力がこもっていなかったが、突然のことでその場に尻もちをついた。
「クソが! これくらいじゃ許さねーからな…… チッ」
蹴ろうとした瞬間に痛みだしたのか、顔を歪めたと思ったら足を静かに下した。
剣をおもむろに抜くと剣先を尻もちのついているタランに向けた。
「わ、分かってるのか。お、俺を殺すのはまだしも… お、王子殿下まで殺してどうなるのか。必ず犯人を見つけ出すぞ! お、お前らが外国に逃げたとしても必ず追いつめられるぞ!」
タランは剣先を見ながら、叫んだ。
「安心しろ。王子殺しの犯人はお前ってことで話はついてるからな」
髭面の冒険者が言った。
ここでタランは自分がまきこまれた理由がはっきりと分かった。
「俺一人を生贄にして片付く問題だと本気で思ってるのか? お前らも殺されない保証でもあるのか? お前ら騙されてるんじゃないのか?」
タランは叫びながら何か使えそうなものや隙がないかを伺っている。
「俺たちの心配までしてくれるのかよ。嬉しすぎて涙が出るぜ。安心しろ、俺たちに何かあったら、待機している仲間が証拠を元に暴露する予定だ」
そう言って笑いながら首をすくめる冒険者に対して、魔法師は無表情だ。
タランは考え付く限りに抵抗してみたが、どれも空振りに終わる。
「やっと理解できたよーだな! 簡単には殺さねーからな! お前が殺してくれって泣き叫ぶまで切り刻んでやる」
そう言うと、背の低い冒険者は剣を振り上げた。
タランはダイヤードを背に庇ったまま目を閉じた。
「何だ? その【テンプレ】発言は?」
タランは言葉が誰から発せられたのか分からなかった。そして、その内容も理解できなかった。ただ、背後で何かが動いたのを感じた。
「『掌雷』…… 「ボゲッ」ってところか」
タランは恐る恐る目を開けると、ダイヤードが掌を冒険者に打ち込んだであろう姿と、白目をむいて仰向けに倒れた背の低い冒険者だった。
「え?」
タランの声と共にダイヤードは右足を上げ、地面に叩きつけた。
「『蹴雷波』…… かな?」
タランはダイヤードの言葉の意味が分からず、目の前の子供に声を掛けようとした瞬間、前方から何かが倒れる音がした。
そこには体格の良い冒険者と魔法師が倒れており、髭面の冒険者は片膝をつき剣で体を支えていた。
「おい。お前、何て名前だ?」
「え? おれ?…… いや、私ですか?」
タランは現状に頭がついていかず、思わず聞き返した。
「ハハッ。この場で俺が名前を聞くのは、お前しかいないだろう?」
「え? あっ、わ、私はタラン・ラ、ランジェットと申します」
タランは即座に膝をつき答えた。
「タランラか。珍しい名前だな」
「い、いえ。今のは単に噛ん……」
「タランラ。気絶してる奴らの捕獲は任せたぞ」
「え? は、はい。…… え? 王子殿下?」
タランの言葉を聞かないうちにダイヤードは髭面の冒険者に向かって歩いて行った。
髭面の冒険者は迎え撃つために剣を握ろうとするが、手が痺れて上手く握れないようだ。
「クソ! クソ! クソ! …… クソがー!」
冒険者は剣を掴むのを諦めて、握れてない拳を振り上げた。
一瞬のうちに冒険者の懐に移動したダイヤードは右手を冒険者の腹にめり込ませた。
「ゲホッ」
そのまま髭面の冒険者は顔から地面に突っ伏した。
「タランラ。後は任せたぞ。…… もー無理」
そう言うとダイヤードは仰向けに倒れた。
レミ「キャーーーー!」
ダイ「ど、どうしたの? 突然」
レミ「ダード様、カッコいいー!」
ダイ「え? そ、そう?」
レミ「はい!」
ダイ「何だか照れるな」
レミ「でも、何で技名を叫ぶ必要がありますの? 無言でも魔法は発動しますわよね?」
ダイ「それは様式美でしょう」
レミ「え?」
ダイ「え?」




