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030 誘拐②(ダイヤード5歳)

楽しんでいただけると幸いです。

 日が昇ると共に皆動き出し、早々に出発をした。

 タランは昨夜のことが頭を離れず、魔法師や冒険者に話しかける余裕はなかった。


(王子ってことは、マクダーラン王国の王子だよな)


 乱暴に動いている馬車の揺れは、すでに気にならなくなっていた。


(てことは、ダイヤード王子殿下かユークリッド王子殿下のどっちかだよな)


 タランは、自分が粘りのある汗をかいていることに気が付かない。


(魔法局が絡んでるってことは…… ダイヤード王子殿下か)


 タランは、未だ呼吸が乱れている子供を見つめた。


「…… おい!」


 髭面の冒険者に突然肩を掴まれた。


「え? お、俺? ど、ど、どうかしたか?」


「ったく。分かりやすく動揺しやがって。何度声を掛けたと思ってやがる」


「ど、動揺って、な、何が? お、俺は別に、ダイヤード王子殿下のことは……」


「チッ。おい! そこのロープを持ってこい」


 タランは抵抗する暇もなく縛られて、荷台の端に転がされた。

 猿轡(さるぐつわ)まで()まされてしまっては、もう何もすることが出来なかった。


「おい! この場では傷をつけるなよ。後々が面倒だからな」


「うぅぅぅぅーーー!」


 久しぶりに喋った魔法師の言葉には叫ばずにはいられなかった。




 その日の夜、森に入る手前で野営を行った。

 翌朝からタランは、ダイヤードを背負い森の奥深くへと歩かされていた。時折、ダイヤードの汗を拭い、食事時はスープや水を口に含ませていたが、ダイヤードの連日から続く痙攣(けいれん)は止まらなかった。


「魔法師の旦那。これ以上奥に行くのは危険ですぜ。慎重に進まないと、そろそろ魔物が出てきます」


 昼を過ぎたころ髭面の冒険者が魔法師に声を掛ける。


「念のため、もう少し奥に行く。野営の用意はしてきているのだろう?」


「そりゃーもちろん。念のため四人で三日分を用意してやすよ」


「よ、四人?」


 ダイヤードとタランの数が入っていないことに、思わず声が出た。


「うすうす感づいていたことだろ?」


 タランは自分の命がもう間もなく尽きるのだと、思い知らされた。

 気力はもう尽きているのだが、背中のダイヤードの重みがタランの足をどうにか動かしていた。


「辛気臭い顔を見せるんじゃねーよ。こっちまで気が滅入るぜ」


 背の低い冒険者が無茶を言い始めた。いつまで進ませるのか分からないことへの八つ当たりだろう。


「それを俺に言われてもどうしようもないんだがな」


 タランはやけくそ気味に言った。


「うっせぇ! お前は黙って頷いてればいいだよ」


 そう言うと、背の低い冒険者はタランの尻を蹴った。気が抜けていたタランはバランスを崩して勢いよく倒れてしまった。その拍子にダイヤードの体は宙に浮き、五メートル先まで転げていった。

 痙攣していたダイヤードの体が大きく跳ねたと思ったら、静かになった。


「ダイヤード王子殿下!」


 タランは慌ててダイヤードに近づき、呼吸や怪我がないかを確かめた。


「ったく。手間まで掛けさせやがって。旦那! もうそろそろいいんじゃないですか?」


 タランに近づいていた背の低い冒険者が後ろにいる魔法師に振り返った。


「そうだな。確かに……」


 魔法師が言葉を発したことで、残りの二人の冒険者も注目した。

 その瞬間にタランは隙を見てダイヤードの服に隠していた木の枝を背の低い冒険者の太ももに差し込んだ。


「いってぇーーーー」


 叫び声を聞くと同時にタランはダイヤードを抱えて走り出した。


レミ「質問がありますの」

ダイ「おっ。何だい?」

レミ「前に敬称の種類は聞きましたが、継承の変化はどうなってますの?」

ダイ「変化?」

レミ「ダード様なら、王子殿下、王子、殿下、様があると思いますわ」

ダイ「なるほど。大雑把に言えばあまり気にしなくてもいいかな。その場の雰囲気だね」

レミ「そうなんですの?」

ダイ「公式の場なら下位の者は必ず『王子殿下』と呼ばないとダメだけどね」

レミ「それは当然ですわね」

ダイ「例えば、仲間内しかいないのであれば『様』で十分だね」

レミ「そうですわね。わざわざ王子と呼ぶ必要性はないですね」

ダイ「後は、非公式の場で他に王族がいるのであれば『王子』を付けたりするね」

レミ「なるほどですわ。ちなみに愚作者は使い分けてると思います?」

ダイ「…… 雰囲気だね」

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