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029 誘拐①(ダイヤード5歳)

楽しんでいただけると幸いです。

 教会はレンガと見た目の良い鉄格子の柵に囲まれており、大きく格式の高い正門と裏には小さな門がある。


「はぁー。何で俺たちが教会の裏口で待つ必要があるんだ? 俺なんも聞かされてないんだが、何の仕事なんだ? 突然宿舎から呼び出されたと思ったら、休日を返上して仕事なんておかしくないか?」


 朝から長時間待たされているタランは、黒いローブの魔法師に話しかけた。


「…… 待つのが仕事だ」


 魔法師はチラッとタランを見ると、一言だけ(つぶや)いた。


「何でこんなに辛気臭いかなー」


 タランと魔法師のほかに胡散臭い冒険者が3名ほどいた。


「それに二頭立ての馬車まで用意してるし、どっかに行くのか?」


 誰もタランと話す気はないようで、口を開く者はいなかった。




 しばらくするとタランは教会が騒がしい事に気が付いた。遠目から見ても人の行き来が激しくなったように感じる。

 すると、どこかに姿を消していた魔法師がずた袋を抱えて戻ってきた。


「おいおい。何だ、何だ。ハハッ。教皇の孫でも(さら)って来たのか?」


「御託はいい! 早く馬車に乗りこめ!」


 タランの質問に答えず、魔法師は荷台にずた袋をのせる。体格の良い冒険者が御者を務め、王都の門に向けて馬の手綱を振るった。

 タランはこの雰囲気がどんどん怖くなった。


「な、なあ。どこに行くんだ? こ、このずた袋の中って何なんだ?」


 何を聞いても誰も答えてくれない状況にタランも徐々に口数が少なくなる。

 冒険者が鋭い目で見てくるのも恐怖に拍車をかけていた。


 馬車が止まったのは日が沈みかけ、これ以上馬車を走らせるのが難しくなった時だった。

 冒険者が野営の準備をする中、タランは現実味を感じられず、黙って様子を見ていた。


「おい! これの面倒を見ろ」


 魔法師が馬車の荷台から降ろしたずた袋を顎で指しながら、タランに指示をした。


「え? これって子供が入ってるんだろ?」


 タランは馬車の中でずた袋から聞こえる苦しそうな息遣いを聞いていた。

 魔法師が何も答えないだろうと予測していたタランはゆっくりとずた袋の口を開いた。


「え? 誰? 貴族?」


 ダイヤードの顔を知らないタランは、中身は教皇の子供だと思っていた。

 しかし、服装が予想より(きら)びやかだったことに混乱した。


「魔法局が誘拐するなんて…… お前何したんだよ。それで、俺はこれからどうなるんだよ」


 ダイヤードの汗を拭いながら、タランは呟いた。

 タランの認識では魔法局は国の機関であり、理由もなく犯罪をする組織ではない。

 それなら、苦しんでいる子供には攫われるだけの理由があるはずである。

 ただ、それなら何で魔術局の下っ端であるタランが何故呼ばれたのか分からなかった。


 冒険者たちが見張りを行う中、タランは眠れない夜を過ごしていた。


「なあ。この仕事が終わったらどうする?」


 見張り交代のさい、背の低い冒険者の声が聞こえてきた。


「そうだなー。とりあえずこの国にはいられないからな。ドレスラン帝国に行って、しばらくはゆっくりするか」


 髭面の冒険者がそれに答えた。タランはこの髭面がリーダだと当たりを付けていた。


「えー。俺、ドレスランの言葉って苦手なんだよなー。このままこの国に居続けるのって無理なん?」


「お前…… 俺らがどんだけ危ない橋を渡ってんのか分かって言ってんの? この国から出ていくのは決定事項だって言ったろ!」


 徐々に二人の声が大きくなっていく。


「わ、分かってるって。ちょっと愚痴を言っただけじゃん。流石に王子を誘拐して、このままって訳にはいかないってことぐらい分かってるって」


 慌てて宥めにかかる。


「お、お前! バカ! 声がデカいって!」


 王子の単語が出たことで冷静になったようで、急に周囲を確認する。


「す、すまん。もう変なこと言わねーから、勘弁してくれ」


「うるさい! 黙れ!」


 男は短く言うと、寝ているタランを注意深く観察する。

 タランはというと、急に静かになったことが不気味で必死に寝たふりをしていた。


レミ「ダード様はこの時のことは覚えていませんの?」

ダイ「うん。全く覚えてないね」

レミ「少しも意識はなかったのですの?」

ダイ「夢も見てなかったよ。それがどうかしたの?」

レミ「トイレとかはどうしたのかと思いまして……」

ダイ「それは…… パンドラの箱だよ」

レミ「パンドラ?」

ダイ「追及したらダメってことだよ」

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