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026 付属式(ダイヤード5歳)

少し長くなりましたが、楽しんでいただけると幸いです。

 ダイヤードは、馬車の中から教会を見上げた。

 石材で作られた教会は二つの塔が高くそびえたち、(おごそ)かな佇まいをしていた。数多くの窓を取り入れており、採光を考えた造りとなっている。教会の正面には丸盾と二本の長剣が十字に組み合わされたシンボルが掲げられている。


 正面入り口から二階にある貴賓室に案内されたダイヤード達はゆっくりとお茶を飲んでユークリッドたちの到着を待っていた。


「母上、王族という者は時間に遅れてくれて当たり前なのでしょうか?」


「誰と待ち合わせているかによりますね」


「誰と…… ですか?」


「臣下や国民の場合はいくら待たせても問題ないでしょう。ただ、教会の司教以上や他国の高官を待たせ過ぎてしまうと問題でしょう。ようは私たちに対する嫌がらせですよ」


 オリヴィアは予想していたようで、平然と言った。

 そうこうしているとノックの後に「失礼いたします」と声が掛かり、司祭が入室した。


「お待たせいたしました。タターニア正妃陛下とユークリッド王子殿下が到着されました。直ぐにでも付属式を行うとのご意向です。ダイヤード王子殿下の準備は整いましたでしょうか?」


「ええ。問題ありません。では母上、行ってまいります」


 ダイヤードは椅子から立ち上がるとオリヴィアに微笑んだ。




 ダイヤードが案内をされたのは、小聖堂と呼ばれる3人座り用の木の長椅子が10脚と高砂があり、高砂には白のローブに包まれた大司教と黒のローブの男性が2人、計三名が待ち構えていた。

 長椅子に座ってしばらくすると、ユークリッドも姿を現した。案内されたユークリッドは反対側の長椅子に座る瞬間にダイヤードを睨んだ。


(え? 何で俺、ユークリッドに睨まれてんの? 何かしたっけ?)


 会うのは今日で三回目、しかも直接会話をしたことのないダイヤードは不思議で仕方がなかった。


「え~っと、俺何かした? 直接喋ったことすらないと思うんだけど?」


 ダイヤードは直接聞くことにした。


「……フンッ! ナディア王女は渡さないからな」


「え~~。何でナディア王女?」


「あんなにか、可愛い王女だから、みんな好きになるはずだ! それに俺より会話もは、弾んでいたじゃないか!」


 ユークリッドの目つきがますます鋭くなる。


「いやいやいや。別に俺はナディア王女のこと好きじゃないし。それに弾んだ会話はあったけど、長く話をしてたのはユークリッドの方じゃないか」


 ダイヤードは慌てて否定した。


「そんなのは信じないぞ。は、恥ずかしくて俺はあまり喋れなかったし……」


 恥ずかしいようで、ユークリッドの声は徐々に小さくなっていった。


「それなら、婚約でも申し込めばいいじゃん。とにかく! 俺はナディア王女に興味なんてないから!」


「コホン! お楽しみのところ申し訳ないですが、そろそろ式に移りたいのじゃがよろしいですかの」


 大司教の一言で、ダイヤードは我に返った。人の目がある場所で行う王子同士の会話ではないことに気付いた。大司教もこれ以上は不味いと思い、止めに入ったのだろうと察した。


「はい。お騒がせしてすみません」


「ああ。騒がせて済まなかった」


 ユークリッドも同様に思ったのか素直に二人同時に謝罪をした。


「では、始めさせてもらおうかの」


 好々爺を崩さない大司教がそう言うと、大司教は黒のローブの男たちに目配せをする。


「魔法局が用意したのは、二つの雷属性を持つ魔石ですじゃ」


(てことは、黒ローブの二人が魔法局員か。何で黒いローブ姿って怪しく見えるんだろう?)


「スチン洞窟で一年前に倒されたリトールの魔石で、つがいを運よく倒せたそうですじゃ」


「質問です。リトールってどんな魔物なんですか? 運良くって言うことは強い魔物なんですか?」


「うむ。(いかずち)を操る魔物での、相当強いですぞ。二匹を正面からまともに相手にしようと思ったら、軍は一個分隊を用意せんといかんですじゃろ。そもそも……」


(大司教は語尾に『です』を付けたら敬語になると思ってるのかな? それより、リトールって、引っかかるな。【リトル】……小さい? 【トール】……神様? 地球の言葉に引っ張られ過ぎかな)


「…… と言うことですじゃ。分かりましたかの?」


「はい。良く分かりました」


「では、ダイヤード殿下から始めますかの」


 大司教はそう言うと黄色く輝く、宝石のような丸い魔石を取ろうとした。


「いえ、先にユークリッド王子殿下からお願いします」


 黒ローブがそれをさえぎった。


「? 何故じゃ?」


 大司教は不快感を言葉に込めた。


「ユークリッド王子殿下は第一継承権を持っておられるため」


 黒ローブも大司教に負けないように気迫を込めて言った。

 沈黙が小聖堂を支配した。


「あ、あの。僕はどちらでも構いませんので、ユークリッドを先にしてください。付属式もよく見たいですし、丁度いいです」


 ダイヤードは、気まずい空気を破った。


「フゥ。…… 子供に気を遣わせてはいかんの。分かりましたじゃ。ユークリッド殿下から先に式を行うとしましょう。ダイヤード王子殿下は気軽に見ていてくだされ」


 大司教はダイヤードにだけ『王子』を付けて名を呼んだ。

 黒ローブから受け取った魔石を台座にある首飾りの中央にある石座(いしざ)にはめ込んだ。すると、石座から出ていた爪が宝石を掴んだ。


「え?」


 ダイヤードは思わず声を出してしまった。


「フォッフォッフォ。初めて見ましたかの。これは聖術具といって古代の英知で作られた魔術具ですじゃよ。今の技術では再現できないので、慎重に扱わないといけないのですじゃ」


「では、相当貴重な品なんですね」


「いや、量は沢山あるため、そこまで貴重でもないですぞ」


 そう言うと、大司教はウインクをした。


「え? え? 揶揄(からか)ってます?」


 ダイヤードはジト目で大司教を見た。


「フォッフォ。さて、どうでしょうかの? 付属式が終了したら、手に取ってみても良いですぞ」


「本当ですか? すっごく興味があります」


 ダイヤードと大司教が話し込んでいると、黒ローブから咳払いをした。


「まったく。年寄りを急かしてはいかんと教わらなかったのかの。では王子殿下、また後で詳しく解説しましょう」


「はい。よろしくお願いします」


 大司教は首飾りをユークリッドにかけると魔石に手をかざした。

 徐々に魔石は薄くなり、最後には透明となった。


「ふむ。ユークリッド殿下終わりましたぞ」


 あっけなくユークリッドの付属式は終了した。


「は、はい。ふむ。これが付属した感覚か」


 ユークリッドは目を閉じて自分の感覚を確かめながら言った。


「ユークリッド王子殿下、タターニア正妃陛下もお待ちになられていますから戻りましょう」


 黒ローブの一人が言った。


「いや、俺も最後まで見る」


 そう言ったユークリッドに対して、尚も食い下がろうとした。


「そんなに時間もかからんじゃろ。ユークリッド殿下も座って見学なされるのが良いですじゃ」


 大司教にまでそう言われると、黒ローブはこれ以上抵抗できないと察したようだった。


「承知いたしました。それでは、タターニア正妃陛下に報告してまいります」


 そう言うと、黒ローブの一人は素早く部屋を出ていった。


「なんじゃ? 大して時間もかからんと言っとるのに……では、ダイヤード王子殿下はこちらにお越しくだされ」


 言われるままユークリッドと同様の手順で付属式は進んでいく。

 大司教が手をかざし、黄色く輝いていた魔石が徐々に薄くなっていく。

 その瞬間、魔石が白く輝き、また徐々に透明になった。


「なんじゃと? これは? まさか!」


 大司教の叫ぶ声が聞こえた。

 その瞬間、ダイヤードは自身の心臓が大きく跳ねたように感じた。


「うっ!」


 ダイヤードは胸を抑えると、膝から崩れ落ちた。

床に突っ伏しと思ったら痙攣(けいれん)が始まり、口からはだらしなく涎が垂れた。


「クソ! この魔石は子持ちじゃ! 殿下をすぐに医療室に運ぶんじゃ」


 大司教の怒鳴り声がどんどん小さくなり、ダイヤードは気を失った。


 その日ダイヤードは教会から忽然と姿を消した。


レミ「質問がありますの」

ダイ「はい。何でしょうか?」

レミ「ユークリッド王子は本当に優秀ですの?」

ダイ「え? 何で?」

レミ「いえ。五歳児にしてはしっかりとされているとは思いますが、優秀かと問われますと……」

ダイ「タターニア妃が当たり散らかしてるから、その反動で臣下に優しいだけで優秀と判断されるんだよ」

レミ「そういうものですの?」

ダイ「優しい王子が5歳なのにしっかり受け答えが出来ているってだけで、優秀ですねと言いふらすんじゃない? 心酔してたら余計に」

レミ「なるほど。ヤンキーが猫を拾うようなもんですわね」

ダイ「…… そうかな?」

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