019 お披露目会(ダイヤード5歳)
楽しんでいただけると幸いです。
ユークリッドの誕生日が一週間ほど過ぎ、いよいよお披露目会の当日となった。
ここまでの間ダイヤードも勉強のほかローマン道路についての進捗報告やコークス、農業改革をオリヴィアと話し合っていた。
「さぁ。行きますか」
王城の大広間に集まった貴族の前にアースウィッド陛下を筆頭に姿を現した。
社交を楽しんでいた貴族も両王子に特に注目をした。
「諸君。我が子らの祝いに良く集まってくれた。恙なくこのような場を開けたことを感謝する。諸君らの忠誠が引き続きマクダーラン王国の未来を明るく照らしてくれるであろう」
ダイヤードは父親の挨拶を聞き流しながら、集まった貴族の顔に注目していた。
流石に貴族ということもあり、表情で内心を悟らせてくれるような者はいなかった。アースウィッドやオリヴィアの前であからさまな表情を作る貴族はいなかったが、ダイヤードはまずは上位貴族の顔と名前だけでも覚えようと思っていた。
「私がダイヤード・コール・カットイングです。五歳の御披露目という祝いの場で諸兄らの顔を見ることが出来て嬉しく思います。今後の貴君らの発展と共にマクダーラン王国の栄光を願うことで返礼とします」
「同じく私がユークリッド・コール・カットイングだ。私の祝いということで多くの者が集まってくれたことをありがたく思う。父上を見習い国の発展に貢献していく所存であるため、しっかりと支えてくれると嬉しい」
定型の言葉で挨拶を行ったダイヤードに対して、ユークリッドはあたかも王太子であるかのような挨拶を行った。
「うむ。これを機にユークリッドには第一継承権を与え、ダイヤードに対しては第二継承権を与えるものとする。まだこれからの成長が楽しみな二人ではあるため、諸君らから教わることも多いだろう。そのため、しっかりと支えてやって欲しい」
ダイヤードの予想通りタターニアは上機嫌のまま御披露目会は進んでいった。ダイヤードが驚いたのは、タターニアは派閥の分け隔てなく社交を行っていることだった。
また、アースウィッドはダイヤードに近づくこともなかったため、タターニア派や中立派の貴族が近づいてくることもなくダイヤードは一安心していた。
「これはオリヴィア妃陛下、王子殿下にご挨拶をしてもよろしいでしょうか?」
右手を背中に回した白髪の混じった髪の貴族がオリヴィアに話しかけた。
「ええ。構いませんよ」
そう言うと、オリヴィアは人一人分ほど距離、ほんのわずかな距離を取ってダイヤードを促した。
これだけでダイヤードに要警戒のサインは伝わった。
「ありがとうございます。私はこの国で宰相の職に就いており、シーバッカル公爵でありますキルリック・シーバッガルと申します」
「ダイヤード・コール・カットイングです。よろしくお願いします」
ダイヤードは子供らしくにっこりと笑った。
「ダイヤード殿下はいつもそのような口調で話をされているのですか?」
「? 何かおかしかったでしょうか? 話し方は母上に教えてもらってます」
ダイヤードは小首をかしげながら眉をひそめてみた。
「いえ、丁寧で人に好感を与えると思いますよ」
「好感?…… ですか?」
「はい。人に好かれると言う意味です。次男のサファイヤットは手が掛かるようで、ユークリッド殿下にご迷惑をおかけしてないと良いのですが……」
わざとらしく困った表情を浮かべるキルリックであったが、ダイヤードの前でわざわざユークリッドと交流があることを言う必要がない。ダイヤードは何が目的なのかを考えていた。
「ありがとうございます」
ただ、ダイヤードもユークリッドと宰相の次男や近衛騎士団長の長男、魔法局大臣の長男と交流を持っていることは把握していたため、何も言わなかった。
「いえ。ただ、あまり臣下に対して丁寧すぎる対応をされないほうが良いかと思いますよ。殿下が軽んじられる可能性がありますからね」
「? 軽んじられる?」
「殿下にご迷惑をかける者がいるという意味です」
「どうして、好かれるのに迷惑が掛かるのですか?」
ダイヤードはキルリックの真意が分からず揺さぶりを掛けていくことにした。キルリックの言葉はこの場で王子に対する会話として相応しいものではなかったからだ。
「丁寧すぎると、と申しました」
「丁寧すぎるというのは、どういったところでしょうか? 僕のどこが丁寧すぎるのですか?」
「い、いえ。殿下の話され方は丁寧すぎるということはないですよ」
キルリックは子供だと思っていたダイヤードに油断をしていた。まさか、子供特有の『どうして・何で』攻撃がくるとは思っていなかった。
「僕は丁寧すぎないのに、何で丁寧すぎる注意をされたのですか?」
ダイヤードは臣下としての忠告を注意と置き換えた。
「いえいえ。注意というわけではありません」
普段の大人同士の会話であれば引けを取るとこのないキルリックであったが、油断と子育てを乳母任せにしていたことにより子供の扱いが慣れていないことが重なって、後手に回っていた。
ただ、それをダイヤードが意図的に行っていることには気付いていなかった。
「いえ、軽んじられると注意をされました。僕のどこが間違っていたのでしょうか? 母上が教えてくれたことの何が間違っていたのでしょうか?」
ダイヤードは悲しそうな顔をして、オリヴィアを見た。オリヴィアからは制止する声は発せられなかった。
逆にオリヴィアは目を細め、問い詰めるような眼差しでキルリックを見つめた。
「いえ、決してオリヴィア妃陛下を貶めるような発言をしたわけではなく、子供特有のか……」
「あっ! 先ほど言われていたサファイヤットが軽んじるということですか? ユークリッドに迷惑を掛けると言ってましたね。どうしてそんな意地悪なことをするんですか?」
今にも泣きそうな表情を浮かべ、再度オリヴィアを見る。そろそろ代わって欲しいという意味を込めて。
「ダイヤード。シーバッカル公爵家は、そんな意地悪なことをしませんから安心なさい」
オリヴィアは優しく話しかける。
「そうなのですね。母上は宰相という職は優秀で国のために尽くせる方でないと務まらないと言われてましたが、本当なんですか?」
ダイヤードは恐る恐るキルリックに質問をしてみる。
「も、もちろんです。シーバッカル家は皆、国に尽くす気持ちは誰にも負けていません」
キルリックはオリヴィアが口を挿んできたことで、ダイヤードが強調したことを気付いていなかった。
「そうですよ。宰相は国に尽くす者ですから、誰かにだけ肩入れするような意地悪はしませんわよ。ねぇ、宰相閣下?」
オリヴィアは意味あり気にキルリックに話を振った。
「も、もちろんでございます。サファイヤットも殿下方に意地悪をするような子ではありませんよ」
この時、キルリックはオリヴィアに子供使ってハメられたと思った。
「聞きましたね。これで安心したでしょう? ダイヤード。もしサファイヤットに何か言われたら直ぐに言いに来なさい。宰相閣下が責任をもって対処してくださるそうですから」
「はい。安心しました。宰相ありがとうございます。責任を持つと約束してくださって、嬉しいです」
キルリックはダイヤードの一言で、周囲を確認し大勢に聞かれていることを認識した。
「…… はい。何かありましたら、遠慮なくおっしゃってください。それでは失礼いたします」
肩を落とすキルリックに対して、遠くから何も言うことなく見つめてくるアースウィッドがダイヤードにとっては印象的だった。
レミ「質問があります!」
ダイ「おっ。話題提供ありがとう」
レミ「敬称の付け方ってどうなってますの?」
ダイ「王、正妃、妃には『陛下』が敬称になるね。その他の王族は『殿下』かな」
レミ「妃とはいわゆる『側妃』の認識で良いですの?」
ダイ「そうだね。ちなみに愛妾は公式の場で会うことないし、平民なんで呼び捨てでオッケー」
レミ「よく分かりましたわ」




