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真実を知ってしまった

 さて、いよいよ生徒総会になる訳だが、この学校ではただの発表会だから、誰も気負わず事前に決めた内容を発表するだけだ。ここでは生徒会長のツッコミも無いからな。講堂内はざわざわとするが各クラスとも楽しげだ。


「角屋。お前告白して無いのか?」

「する訳無いだろ」

「いや、それだと賭けの成立が」

「お前が告白して来い。完膚なきまでに玉砕する方に、俺の小遣い一年分賭けてやる」


 ちなみにチャレンジングカップ開催中、幾度か男子に告白される吉ケ崎を見た。

 断り方までは知らないが、肩を落とす男子連中を見る限りでは、事務的に処理したと思われる。


 あ、やべ。目が合っちまった。


「どうした?」

「会長と目が合った」

「なんだよ。意気投合してんのか?」

「してる訳無いだろ。あんなのこっちからお断りだ」


 クラスでも浮いた存在になってるみたいだ。周りに誰も居ないし、孤立してきたんだろうな。まあ、何度でも言ってやろう。自業自得だと。


「それにしても、こんな発表会で駆り出さないで欲しいよな」

「全くだ。委員会会議で内容を決めてあるし、各クラスで詳細も詰めたとなれば、一堂に会して報告ごっこなんてのは、時間の無駄だし効率も悪いし、その分、勉強した方が余程いいだろ」


 ああそうか。こういうのを提案しても良かったかもしれない。

 学校もまた日本社会の縮図だ。無駄が多くて生産性が低い理由のひとつが、こうした無駄な発表会とやらだ。会社で言えば無意味な会議だな。

 今どきであればホームぺージとかメールで周知すればいい。読まない奴の事を考えるから、無駄が生じるのであって、読まない奴は自業自得で、自らが不利益を被るだけの話だしな。


「なんだ? どうした?」

「あ? ちょっとな」

「吉ケ崎が気になるのか? だったら告白しろよ」

「バカ抜かせ。あんなの気にしてどうする」


 個を尊重する代わりに自己責任も付き纏う。

 それこそが自立した個になる訳で、結果責任もまた自らが被る。だから周知に関してもこんな無駄な儀式は不要に出来る。


 凡そ半日を使っての発表会は終わり、再び周囲を見回すとまたかよ……。

 なんで俺を見てる? いや、俺の視界に入って来る?

 それとも俺が意識せずに見るから気付かれてるのか? 実に鬱陶しい奴だ。


 講堂からぞろぞろと生徒たちが引き上げる中、教師に囲まれ何やら話す吉ケ崎だ。

 教師からの信頼は厚いだろうからな。頼りにされてるだろうし。


 生徒総会が終わると今度は体育祭か。体育祭実行委員会が立ち上げられ、生徒会も勿論一丁噛みだからな。いちいち絡まなくてもと思うが。

 それに委員会の連中も吉ケ崎には絡みたくないだろ。


 でだ、生徒会が招集された。議題は体育祭の円滑な進行について、だ。

 体育祭実行委員会の面々も居る。


「自由闊達な意見交換をお願いしたいと思います」


 無理だ。

 何か言えば怒涛のツッコミが待っている、となれば誰も積極的に発言する気にはなれない。

 暫く待っても時折互いに顔を見合わせるだけで、誰一人として発言する者が居ないじゃないか。

 誰か喋れ。じゃないと。


「角屋君。何かあればぜひお願いしたのですが」


 俺に来るじゃねーか。

 こいつ、俺を目の敵にしてるんじゃないのか?


「その前に会長がどうぞ。何某か誰も突っ込みようが無い、とても優れた素晴らしい意見を披露して貰えれば、他の生徒も多少は発言出来るでしょうから」


 何を言われても無表情だな。

 今日はデスクの下に手があるんだろう。手の状態も足の状態も分からない。つまり感情を知る事も出来ない訳だ。


「私はあくまでみなさんの意見の取り纏め役です。みなさんからアイデアを出して貰わないと」

「いえいえ。会長様は高尚な考えをお持ちでしょうから、我々有象無象の凡人にその道しるべとなって頂ければと」


 相変わらず表情に変化はない。

 感情はあるんだろうが、それを表に出せば対処もし易いのに。


「役割分担と体育祭を安全に実行する為の方策を、皆さんに考えて頂きたいのです。私が示す事で単純にそこに乗ってしまうと、生徒の自主性が損なわれてしまいます」


 あくまで自分からは何も出さないってか?


「自覚が無いようなんで、はっきり言いましょうか? 会長様の前で何かしら意見を出すと、怒涛の責め苦が待っている訳です。それに耐えられる生徒は早々居ませんよ。学年首席の生徒会長さまの言は正しい。となれば物申せる奴は居ないんですよ。分かって貰えませんかねえ? 生徒会長さま」

「そんな言い方はやめて!」


 びっくりしたー。

 急に大声出すから全員飛び上がったぞ。


「角屋君。私が気に食わないのは分かりました。ですが、揶揄うような言い方はやめてください。私は偉くも何ともありません。ただの一生徒です。ですが、全体の取り纏め役なので、みなさんの意見を纏める事が私の仕事なんです」


 感情的な会長は始めた見たかもしれない。

 悔しいのか知らんが、口をきつく結んで紅潮してるし、目付きもきつくなってて涙まで流してるし。


「えっと、まあ、会長を揶揄いたくて言った訳じゃなくて、都度反論されると意見が言い辛いのは確かでしょう。だから、もう少し何とかね?」


 さすがに泣かれると俺が悪くなってしまう。

 言い過ぎたことに関しては謝罪しておこう。


「少々言い過ぎた感じはあるので、謝罪はしておきます。すみませんでした」


 さて、感情的な会長を見る事が出来た所為か、俺の方が少しスッキリした感じになった。

 だが、会議は進行しなくなり滞っているのも確かだ。仕方ない。


「一旦全員席を外して各々アイデアを用意してください。会長からの反論は俺が引き受けるので二十分後にまた集まってください」


 で、教室内から会長と俺を除く全員が退室した。


「角屋君」

「なんでしょう?」

「私の事、本気で嫌いなんでしょう? 無理して生徒会副会長も引き受けて」

「そうですね。大嫌いです。有無を言わさず相手をやり込めて、それでいて飄々としている。そんな姿を見せ付けられたら、みんな劣等感しか抱けないですからね」


 涙を拭いながら俺を見る目は悲しげだ。

 表情まで情けない感じになってるじゃないか。とても凛とした生徒会長の姿じゃない。そこまで堪えたのか?


「生徒会長に選ばれて、頑張らないとって、ずっと気を張ってた」

「そうは見えなかったけど? むしろ言葉責めで喜ぶ感じが」

「そんな訳無い。角屋君に言っておきたいって、前に言った」

「なんだっけ?」


 誤解していると。

 その誤解を解いておかないと、生徒会がギスギスしてしまう。だから副会長であり会長の右腕たる俺には、誤解を解いておく必要があったと。


「私は反論も否定もしてない。詳細を詰める必要があるのは、きちんと形にする為。だからあやふやな点を指摘する必要がある。それを角屋君なら理解してくれるって、ずっと思ってた」

「俺、エスパーじゃないんでそんなの汲み取れないな」

「そう。だから私の勝手な思い。でも理解して欲しかった」


 で、そこでなんで泣く?


「泣く程悔しい?」

「悔しい。角屋君に理解して貰えなかった事が、こんなにも悔しいなんて」


 えーっと、これはどう言った悔しいなんだ?


「俺、学年二位とは言ってもバカなんだけど」

「そんな事無い。ちゃんと私を見て、向き合ってくれれば、きっと理解してくれる」


 そんな無茶な。

 会長の変化のない表情を見てもさっぱり分からなかった。


「角屋君。よく私の手元を見てる」

「あ? ああ、そうだな。そこに感情が現れるから」

「だから隠すようにしてた。人の手元に感情が現れる事を知ってる。そして知る事が出来る角屋君だから、隠してた」


 なんで?


「顔の表情は隠せるようになったけど、手元は隠せなくて、だから必死になって自分を守る為に隠してた」

「なにから守るんだ?」

「角屋君に知られないようにする為」


 えっと、訳分からん。


「角屋君を好きだから」

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