会議は踊らず雰囲気悪い
「待って!」
「なんだよ! 腕放せって!」
「あ、ごめんなさい」
いきなり帰ろうとする俺の腕を取りやがって、まだなんか文句が言いたいのか?
「こっちは用が無い。そっちは誤解だとか言ってるが、誤解される態度なんだから、甘んじて受け入れろ。あとは知らん」
無表情で見つめるなよ。怖いんだよ。
目を逸らして背を向けてさっさと校門に向かうが、今度は呼び止める事も無かった。
なんなんだよ。
見た目はともかく性格最悪じゃねーか。あれのどこが良くてどいつもこいつも入れあげたんだ?
生徒会を辞める事は出来ない。となれば、あれと顔を合わせる必要がある。
なんの拷問だよ。俺が何かしたのか?
家に帰っても腹の虫が治まらない。
「あーくそ! イライラする」
あんな奴を気にしてどうする? これ以上気にしなけりゃ済む話だ。
今後は面倒だから発言を控えて、聞かれてもシカト決定だな。いちいち事細かに突っ込まれたら気分が悪過ぎる。
そして翌日は生徒会委員会会議だ。
場所は視聴覚室。
ここまでの経緯を知らない連中は、会長にせっせと挨拶しご機嫌伺いをしてやがる。あとで迂闊な事を言えば確実に吊し上げを食らうのだ。そして思い知るがいい。
お前らの担ぎ上げた会長殿は、他人を見下し上から目線でモノを言うのだと。
「では、これより生徒会役員による委員会会議を始めます」
各委員会から活動方針が提示される。
ここでは生徒総会前に各委員会が大まかな方針を決めるらしい。生徒総会は単なる発表会って奴だな。まあ全校生徒集めての事だから、そんなとこで会議なんて出来る訳がない。
「風紀委員会からどうぞ」
吊し上げ第一号となるか?
「来月より挨拶月間として、校門前でチェックと指導を行う予定です。また、服装に関しても二年生、三年生と徐々に乱れが出てくるので、同時にチェックするようにします。それと交通指導により自転車通学の生徒を対象に、ルールの徹底を図る事とし、駐輪場の整理を積極的に行います」
まあ、言っている内容は妥当と言えば妥当か。
これで文句を言われようものなら、風紀委員長もブチ切れるんじゃないか?
「ひとつだけいいですか?」
「はい、会長」
「自転車通学の生徒だけがルールの徹底とありますが、徒歩でもルールはあるので、そちらも併せて指導する事は無いのですか?」
出たよ。歩き組なんて放っておけよ。チャリが安全に走行してれば、凡そ事故なんて起こらないだろ。
「えっとですね、人員に限りがあるので全ては無理かと思います」
「自転車通学でのルール違反は道路交通法違反でもあるので、そこを重点的に行うのは理解します。ですが、徒歩通学の生徒もまた、道一杯に広がって歩く、他の歩行者の歩行の妨げになる、車道に出てしまう、など目に余る行為は後を絶ちません。それらはどうするのでしょう?」
マジクソめんどくせー。
一発目から人員に無理があるって言ってるのに、要求だけは押し通そうとするんだな。
「人員が」
「それは各クラスで考えるべき事だと思いますよ。生徒会が強制するのは筋違いですし、では教師に校則として定めさせる、と言うのであれば、生徒会も風紀委員も不要ですから」
「はあ……」
風紀委員会もご苦労さんだ。
「次は環境美化委員会どうぞ」
一瞬躊躇した感じだな。
「え、と、まず一部目に着くペットボトルなどのゴミ問題の解決と、クリーン月間としたキャンペーンの実施を行いたいと思います。他には清掃用具の過不足が無いようにチェックします」
「クリーン月間の内容は?」
出たよ。いいじゃん、この場でいちいち突っ込まなくても。
「えっと、ゴミを落とさない、散らかさない、自分達の教室内は常に清潔を保つ、とかです」
「それは誰がチェックするのですか?」
「あ、えと、委員会で」
「常に監視態勢を取る事は不可能ですよね? 他の方法は?」
えげつないな。
狼狽えてるし、どうしていいか分からなくなってないか?
「あ、あの、考えて来ます……」
まあそうなるよな。
「それでは図書委員会どうぞ」
何か言いたく無さそうだな。まあ、ここまでで、何か言えば何かしら返ってくる訳で。
「あ、はい。えっと、今年度予算の範囲内で要望の高い書籍の充実と、未返却の書籍に対する対応を強化したい、と考えています。また、今年度よりビブリオバトルへの参加も、検討して行こうと思っています」
「未返却本の対応に関して具体的には何をするのですか?」
ここでもか。
そんな即効性のある案があるなら、誰も苦労しないだろ。
「貸出名簿を基に個別に催促したり、先生に報告して対処をお願いするとかです」
「個別対応での効果はどの程度見込んでいるのですか? それによるトラブルなどの対策は?」
「あ、え、と。半分程度は……。トラブルはその……」
「全部返却は無理なのは理解しますが、効率的な手段を考えてみてください。トラブルは可能な限り避けるような方法を考えてください」
うっわー。
可哀想に。ちっさくなっちゃったじゃん。どうすんだこれ?
その後も何か言う度に突っ込まれて、みんな委縮し捲ってるじゃねーか。
過去にここまで雰囲気の悪い委員会会議なんてあったのか? 会長一人に振り回される委員会ってなんだよ。
だが、これで吉ケ崎の本当の姿を知った訳で、抜け抜けと告白するバカも減るんだろうな。むしろ幻滅したんじゃないか?
まあ、俺にとってはどうでもいいが。いずれ孤立するのは吉ケ崎であって、誰も口を利こうとも思わなくなるだろう。
これも自業自得って奴だ。
最悪の雰囲気の中、生徒会委員会会議は終わった。
吉ケ崎の態度の所為もあってか、私語は無かったものの、全員凹んでるじゃねーか。ご愁傷さまって奴だな。
各自視聴覚室を後にするが、ぼそぼそと聞こえてくるのは、会長が厳し過ぎるだの文句が多いだの、やはり不満が多数漏れてくる。
でだ、当の会長様はと言えば、やはり無表情で今回の会議内容を纏めてるようだ。
それは書記の仕事じゃないのか? と思って書記を見ると既に帰り支度してやがる。
「角屋君」
なんだよ! 俺を呼ぶな。
無視しようと思ったがさすがに大人げないから、吉ケ崎を見ると。
「申し訳ないんだけど、各委員長が詳細を詰め切れなかった時に、角屋君からこのノートの内容を提案して欲しいの」
は? なんで俺?
そんなのもう一人いる副委員長でも、自分ででもやればいいじゃないか。
「俺?」
「そう。私が言うと角が立つから、角屋君からそれとなくアドバイス、っていう形で伝えて欲しい」
またしても俺が貧乏くじを引くのかよ。
でだ、自覚はあるんだな。だがしかし、断る、って言ってやろうか。
「青村副委員長にやらせればいいでしょ」
「彼女には別の仕事を頼みたいから」
「じゃあ、暇を持て余してそうな庶務とか広報とか」
「それなら角屋君も大差ないと思うんだけど」
俺は暇じゃねえ。
受験勉強もしなけりゃならないし、予備校だって行く必要がある。家の手伝いだって、まあちょっとだがやる事もあるし、部活はそろそろ無理があるけど、時々顔出すし。
「忙しいんだが? 人に頼まず自分でやったらどうなんだ?」
「だから、角が立つからって言ったと思うんだけど」
「いいじゃないか。どうせ今日で全員あんたを嫌いになっただろうからな」
また手を握り締めてるな。格下の俺に言われるとそこまで腹立つのか?
こんな奴に、なんて思ってるんだろうけど、プライドの塊だな。
「たのめ……。分かった。私が自分でやるから角屋君には頼まない」
背を向けて視聴覚室を出るが、振り返るとデスクに書類を広げて、固まってんのかあれは?
じっとしてるだけで動かねえじゃん。何がしたいんだか。
吉ケ崎一人残し全員退室し廊下に出ると、他の生徒からやっぱりきついとか聴こえてくる。
まあ、文句も出るよな。
学年トップの成績だからって、他人を見下し過ぎだろ。