攻略はいきなり頓挫した
眼中に無い存在から脱却しない事には、お断りの文言がその他大勢と同じになる。
それでは俺のプライドが許さん。
家に帰り策を練るのだが、あれだけの存在だと少々の事では、意に介されないだろう事は想像に難くない。と言う事は余程の功績を上げるか、吉ケ崎にとって必要不可欠な存在になる必要がある。
極めて難題だな。
あいつの前にどれだけの男子が散ったか。
机を前に椅子に腰かけ思案するが。
「現時点での勝率は皆無だ」
生徒会の活動でアピールしていくのが常道だが、これからだと何がある?
学校行事で生徒会が関わるもの、そして俺が陣頭指揮を取れそうなもの。
「無いな」
と言うか面倒臭すぎる。
相手が悪過ぎるんだ。
そうなると優秀なブレーンが欲しい所だが、生憎俺が学年二位に居て、その上はあいつだけ。下は山ほど居るが下では意味が無い。
バカは不要なのだから。
「これを無理ゲーと言わずして何を無理ゲーとするのか」
あとは、体育祭実行委員会会議に賭けるしかない。
そこであっと言わせるだけのネタを用意すれば、多少は気に掛けるかもしれないが、それでも確実ではないな。
「無理難題を押し付けやがって」
多くの男子が玉砕したと言う事は、理想が高過ぎるか既に男が居るか、最悪のケースでは男に興味がない、それも想定する必要がある。
そもそも大学生以上の男が居たとしたら、高校生如きが勝てる訳もない。財力知力自由の度合い、全てで劣るのだから、同じ土俵にすら立つ事が出来ないのだ。
「バカどもめ。そこまで考えて開催したのか? どうせ何も考えていまい」
バカだからな。
仕方ない。少しずつ情報を得るべく接するしか無いか。
フラれる為の攻略がこんなにも虚しいものとは。
翌日の放課後、生徒会室に役員が集まった。
「さっそくだけど、今年度の生徒会の活動方針を決めたいので、積極的に意見を出して貰えますか?」
吉ケ崎が全体を見回すと各自考える振りはしているようだ。
副会長は俺ともう一人女子が居て、青村とか言ってたな。成績は上位らしいが特に目立つ部分も無い、ちょいガリ勉入った普通の女子と言えよう。
書記は女子でこっちは二年生だった。どんな子なのかなんて勿論知らん。
会計も女子で同じく二年生だったな。知らんし興味無いし普通過ぎるし。
庶務は男子。これまた二年生だが知らん。
広報も居るが、やはり二年生の男子でどうでもいい。
会長を除き男女半々になっているのは、一方の意見だけが優先されないようにとの、学校側の気遣いでもある。
今は男女平等に煩い社会であり、男子の意見が押し通されるようだと、保護者からクレームが入るからな。必ず女子の意見とすり合わせろとなっている。いちいち面倒臭いのは時代が時代だからか。
「角屋君。何か意見はありませんか?」
おい。いきなり俺に振るな。
とは言え、多少でもアピールする必要があるからな。ここは無理やりでも意見を捻り出す必要がある。
「では、簡単に。昨年までの校風は維持しながらも、より個を活かすべく集団の概念から、個の概念への移行を進めるのはどうでしょう?」
「言ってる意味が抽象的過ぎて分からないのだけど?」
は?
なんだか面倒臭いぞ。
「じゃあ、前提として、学校とは集団生活の場である事は周知の事実でしょう。ですが、今後集団での行動は世界に目を向けた時に、不利になる訳です。それを鑑み個の確立を目指し一人一人が、己の自由意思に基づき行動する、それが求められる人物像では無いかと」
首傾げるな!
なんか癪に障る奴だな。
「世界ねえ……。自由意思と言うのは学校の規律を無視する、と言う事ではないのですよね?」
「当然です。規律は規律。そこは遵守しその上で個人が、最大限力を発揮出来れば、それがベストであろうと考えます」
「最大限力を発揮と言うけれど、では現状発揮出来ていないと?」
マジめんどくせー。
思い付きで出たんだから、練り込まれてないのは当然だろ? うぜえ。
おい、他の連中も少しは発言しろよ。なんで俺とだけやり取りしてるんだよ。
「た、例えば、球技大会となると、多くの競技はチームプレーが要求されます。この競技構成比率を個人プレー競技を多く取り入れる事で、個人の頑張りが反映されるようにするなどです」
「それは例え話なのですよね?」
「例え話ではありますが、一つの事例としてでもあります」
「個人競技を多く取り入れるメリットが、個の確立?」
なんだよこいつ。さっきから。
そんなに俺の言ってる事が気に食わないのか? だったらお前一人で好きにやりゃいいだろ。
「個人競技はあくまで自分との戦いです。逃げるも向かうも自分次第。ならば、それを成し遂げれば個を確立できる、だけに留まらずメンタルも鍛えられます」
「メンタルに異論はないけど、個の確立がどう結びつくのか、説明が不足してないですか?」
うっわ、うっわー。マジうぜえ。
なんだこいつ? 見た目と違ってすっげー絡むし、さっきから文句ばっかりじゃねーか。
だったら自分で意見出して従わせればいいだろ? 気に食わないってんなら。
滅茶むかついた。
「あのさ、さっきから俺の言う事を否定してるだけで、だったらあんたが全部アイデア出して、好きにすればいいだろ? なんで俺だけがネタ出し強制されてるんだよ?」
くっそ腹立つ。自分より頭の悪い奴は認めないってか? 無表情で文句垂れやがって。
「えっと、何か勘違いしてない? 私は否定では無くて確認しているだけなのだけど」
「知らねーよ! 俺じゃなく他を当たれ」
あーもう既に面倒臭すぎて、チャレンジングカップだの、なんだのどうでもいいわ。
こいつとまともに付き合える奴なんて、どう考えても東大卒の役人くらいだろ。
で、他の連中全員だんまりかよ。
まあ、俺に対するツッコミを見ていれば、迂闊に物も言えないだろうよ。
「角屋君。何か気に障る事があったのであれば、謝罪も厭わないけれど、一つ言っておくとすれば、角屋君の意見を否定したつもりは毛頭ありません」
知らん。無視だ無視。
何か言えば倍どころか何十倍にもなって返って来そうだからな。
視線を逸らして壁を見つめる……くっそ。締まらねえ。窓の外ならまだしも、俺の座っている位置じゃ壁しか見えん。窓の外を見ようとすると会長が目に入るからだ。
「ちょっと雰囲気が悪くなってしまったので、一旦休憩に入りたいと思います。少し気分転換してください。十五分後にもう一度みなさん集まって頂ければと思います」
吉ケ崎がそう言うと、全員席を立ち生徒会室から出て行った。
俺もと思ったら声を掛けられたぞ。いい加減にしてくれよ。
「角屋君。ちょっと待って貰える?」
振り向く事なく出ようとしたら、何かがひっくり返る音と同時に、悲鳴に似た声も聞こえて来た。
振り向いたら膝擦ってるし。机の脚に膝ぶつけたのか? 口は達者だが運動神経は悪そうだ。
「角屋君。私はちょっと待ってって言ったのに……」
痛そうにして擦ってるが、ここで同情してもこいつには無意味だろう。
「用なら休憩後で充分でしょ?」
さっきまでは机の下に手を置いていた所為で、感情を見る事が出来なかったが、今は指先もしっかり見える所為で、手が握り締められている事も分かる。つまりだ、悔しさがあるのか? 中断した事で俺に苛立ってるとか。
「みんなの前だと言い難い事だから」
言い難いって、あれだけコケにしてまだ言い足りないのか? マジで勘弁してくれ。生徒会副会長を辞めたくなる。
「少しは手加減してくれませんかね? 俺は学年二位と言っても、会長とは点数で百点近く離されてるんです。そのくらい差がある訳で、会長の優秀さを見せ付けられても、対処しきれないんですよ」
早く出たいんだよ。そんでこの後は他の生徒を吊るし上げればいいだろ。なんで俺に構う?
表情は変わらないが手は硬く握られたままだな。
「じゃ、じゃあ、休憩して……ください」
やっと解放してくれたか。
生徒会室を出ると当たり前だけど、廊下には誰も居ない。
完全に吉ケ崎に関わり合いたくないってのが見えてるぞ。
あれを見せられて、他の誰がまともに意見を出そうと思うのかって話しだよな。今年度の生徒会はトップが優秀過ぎて、他が付いて来れないようだ。
「先生に言って生徒会辞めさせて貰うか。俺にはあれの相手は無理だ」