泣かせないために
夢での神からの依頼を断って数日、アクセル関係の事件はこれといった発生しておらず表面上は平和であった。
「静かだ……」
僕は誰からか言われたわけではないが街中をパトロールを兼ねて歩いていた。表面上は何も起きてないが街はアクセルがいつ襲ってくるか分からない恐怖からなのかすっかり静まり返っている。今までは平日でも街を歩けば元気な掛け声や話し声が聞こえていたのでそれが聞こえないのは寂しい。
「てかどこからバレたんだ、カインさん達が敗走したことが」
カインさん達、騎士団が敗走したことは当初僕達一部の人間だけに知らされていたはずだった。それが何故か次の日には王国中に広まっていたのである。この時の混乱は国王陛下と父さん達が事実だと認めたうえで現在対策を考えているところであり、必ずアクセル・フォンを逮捕すると約束させて、とりあえずは鎮圧させた。
「ーーお~い、坊ちゃん」
「あれ、アル?」
声のした方を見ると向こう側からアルがこちらに向かって走ってきた。
「どうしたのさ?」
「いや~学生寮にいろって言われたんだけどさ暇で、何か坊ちゃんが1人でパトロールしているって聞いたから来ちまった」
「暇って……危ないよアル」
学園側は学生寮にいる生徒には学生寮で自習するようにと通知を出していた。僕も生徒会長として学園側の決定を知っていたのだが、まぁ守らない生徒がいるだろうと薄々思っていた。まさかそれが生徒会の役員だとは想像してなかったが。だが僕の心配をよそにアルは呆れた様子で僕に告げた。
「それを言うなら坊ちゃんもだろ。それに坊ちゃんはアクセル個人から恨み持たれているんだから尚更だろ」
「……まさかのアルに注意されるとは」
「まっ、手伝うさ。俺達が組めば負けねぇだろ」
「ハハッ、だね。アルがいれば本当に何とかなりそうだ」
「うしっ、そうと決まればパトロールだ。久しぶりに“問題児コンビ”復活といくぜ」
「……そのコンビ名久しぶりに聞いたよ僕」
こうしてアルと一緒に街中をパトロールしていた。一応アクセルと一緒に脱獄した囚人は既に再度収監されているので特に問題は発生せず、ただただ歩いている状況である。
「にしても静かだな」
「まぁねカインさんが負けたのがかなり衝撃的だったんだろうね」
「あの人が負けるなんて未だに信じられねぇな。アクセルってあんなに強かったか?」
「分からない……」
本当は神からあいつが強くなった理由を聞いたので知っているがアルに話しても理解してもらえないだろうと思うので誤魔化しておく。結局この後も特に問題は起きずに夕方になってアルと別れた。
「ふぅ……」
家に帰り、ベットに倒れ込む僕。
「はぁ……」
アクセルが脱獄したことで街どころか国全体に元気がない。父さん達が“対策を考えているから大丈夫”だと説明してその場は収まったが皆は本当は分かっているのだろう。本来なら事件が起きても“騎士団の人達がいるから大丈夫だ”と安心していつもの日常を過ごせる。だが今回はその騎士団がまさかの敗走。
「そりゃ不安になるよなぁ……」
この国の最強戦力の騎士団が負けた現在、彼に勝てる人物はこの国にいるのだろうか。あのクソ神は何かあって僕に声をかけてきたのか不明だが、現状どうすればいいのか全く分からない。
コンコン!!
「は、はい!?」
「レイ!! 今すぐフローレンスさんの家に向かいなさい!!」
と母さんから言われて跳ね起きる僕。
「えっ、何で!?」
そして母さんの口から驚愕の事を告げられる。
「フローレンスのお父様が怪我をされたようです」
「くそっ!! 一体
屋敷を出て、僕は全力疾走でフローレンスの屋敷に向かった。いつものように門番の方には顔パスで通過してフローレンスの部屋に向かい、彼女の部屋の目の前に立つと扉を開ける。
「フローレンス!!」
扉を開けると、そこにはベットに腰かけていた憔悴した顔のフローレンス。扉を開けた音で気づいたのか僕を見ると一瞬驚いた顔をした。
「レイ……? どうしてここに?」
「母さんから聞いた。アルクさんが怪我したって……!! 本当なの……?」
「れ、レイぃぃぃ……!!」
そう言うと僕に抱き着いてきた。そして抱き着いた状態で泣き始めるフローレンス。何があったのか聞きたかったがとりあえず彼女が泣き止むまで抱きしめることにした。頭が良い人ならこの場合で彼女を上手く慰める言葉が出てくるのだろうが僕はとても苦手なのでこういうことしか出来ないのである。
「ありがとうございます、レイ。もう少しこのままでもいいですか」
しばらくして泣き止んだフローレンスは僕に抱き着いたままそう言った。
「いいよ、僕は君の彼氏だからね。これぐらいならいくらでも喜んで。
ーーで、何があったの?」
僕が尋ねると彼女は抱き着いたまま教えてくれた。
「どうやらアクセルが事件を起こした場所に視察した際にアクセルが出現したらしく防御魔法で皆を守ろうと思ったのですが思いのほか彼が撃った魔法が強かったらしく防ぎきれず怪我をしてしまったらしいです」
アルクさんもフローレンスほどではないが防御魔法が得意であり、大半の魔法なら無傷でやり過ごせる。そのアルクさんが防ぎきれないとなるとこの国で彼と対等に対戦出来る相手はいないだろう。状況は予想以上にマズいことになっている。
「なるほど……」
「大けがではなかったようなので明日にでも復帰できるみたいだけど……私は心配で……」
「フローレンス……」
フローレンスが珍しく敬語ではなく、同年代の女子の口調になっていることに驚くが、彼女にとってそれどころではないのだろう。
「つい先日はルネフさんのお父様が、今日はお父様が怪我して……身近な人が怪我をどんどん怪我していくのが辛くて……それに何も出来ない私が情けないのが嫌で……」
「フローレンスはよくやっているよ。フローレンスは無事ってだけでもこの屋敷の人や僕は安心するからさ、それに僕が来るまで泣かなかったんでしょ?」
「うん」
「なら凄いよ、僕ならフローレンスと同じ立場なら絶対泣いちゃうからさ」
と言いながら彼女を頭を撫でる。彼女は自分で“何も出来ない”と言っているが彼女は充分頑張っているのだ。アルクさんが怪我をして慌てている屋敷の人達のまでは心配かけないように我慢して、僕が来てからは溜まっていた感情が溢れて泣いてしまったのはしょうがない。
(それを言うなら僕こそ何も出来ていない……親しい人たちが傷ついているのを見ても何も出来ないのだからね)
「レイは……」
「うん?」
「レイは怪我しないよね? 私貴方が怪我したらもう……!!」
「ち、ちょっとまた泣かないでよ!? 僕は怪我しないって、ほらカインさんの部下の人が僕の護衛にいるからさ」
「でも今いない……」
「ギクッ」
そう言えば護衛の人に声をかけずに来ちゃったことを今思い出す。確かに説得力ない。
「だ、大丈夫だよね……?」
「うん、僕は大丈夫だって流石にフローレンスを泣かすことをしないよ」
「本当かな……貴方昔から無茶しちゃうから心配です」
「……たまには僕の事を信頼して欲しいなぁ」
なんて言いながら今までの行いを振り返り、信頼度は皆無だと理解して悲しくなってしまう僕であった。
「すぅ……」
「寝ちゃったか……まぁしょうがないよね」
フローレンスは泣きつかれたのか今までの緊張の糸が切れたのか椅子に座ると僕に寄りかかり、寝息を立て始めた。彼女が起きるまではしばらく立てないがフローレンスから信頼されている感じがして嬉しい。そんな嬉しい感情とともに僕はこれからのことに対して1つ決心をした。
「ふぅ……誰かがやらないといけないんだよね……なら僕がやろう
ーーこれ以上、誰も泣かせないために」





