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「何故か分からないが……今日カインと一緒に見に行ったら、奴がいる牢屋はもぬけの殻だったんだ。カインはそのまま足で部下を伴って捜索しにいった」


 父さんからの報告を受けて、その場が静まり返る。僕以外の皆はまさかアクセル・フォンが本当に脱獄しているとは思わなかったのだろう。


「他の凶悪犯は脱獄してなかったの?」


「それが最悪なことにアクセル以外の何人かも脱獄していた。今回の脱獄は王国始まって以来の失態だよ、私とカインの2人で始末書で済む問題じゃなくなったな」


 ハッハッハと笑う父さんだが目は笑っていない。ゲームの中での父さんは目が笑っていない時の笑いは結構イライラしている時のことであり、この世界でもその特徴は変わらないようである。


「とりあえず、みんなは私達が家まで送ろう。そして先ほど決まったのだが学園の休みは延長になった。

ーー生徒会長のレイちゃんはここの学園長と私の3人で話すことがあるから残ってね」


「僕?」


「そうそう、一応学生の中ではレイちゃんが代表だからね。これからの学園の対応を考えないといけないから学生代表として参加するんだ」


「分かった」


「ーーレイのお父様、でしたら私も一緒に参加しても宜しいでしょうか?」


 と隣に立っていたフローレンスは突如手を挙げ、自分も会議に参加しだすと言い出した。父さんはそんな彼女を不思議そうに見る。


「フローレンスさんもかい?」


「はい、元生徒会長としてレイの助けになれると思ったのですが、駄目でしょうか?」


「まぁフローレンスさんは経験豊富で教師・学生ともに信頼厚いからいてくれた方が助かるか……。

ーー分かった、フローレンスさんの参加を認めよう」



 この後、僕とフローレンス以外の生徒会メンバーは父さんの部下の方々の護衛を伴って帰っていった。そして先に学園長の様子を見てくると言って父さんが去ったのを見て僕はフローレンスの方を見る。


「どうしたのフローレンス?」


「どうしたと言うと?」


「いや何でいきなり参加するって言ったのかなと思って」


 2人きりの時はわがままを言うが、他の人がいればわがままを言わず、素直に応じる性格なのだが今回に至っては父さんに“自分も残っていいか?”と聞いていたのが個人的に気になった。僕がその様に聞くとフローレンスは心配そうな表情を浮かべる。


「レイ、自分の手を強く握りすぎです。

ーーその手で何か紙を触ったら血が付いてしまってみんな心配してしまいますよ」


 そう言われたので自分の手を見てみた。すると手の平には爪が強く食い込んでいたのだろうか少し血が出ている。今更ながら手の平が少し痛む。無意識のうちに自分を落ち着かせるために手を強く握っていたのだろう。


「本当だ」


「多分、貴方はみんなを心配させないように表面上は出さない様に無意識にしていたんだと思います。だけどそんな貴方を見てしまったらこのまま帰る事が私には出来ないです」


「ごめん……」


 さっきまでみんなに“頑張ろう”と息巻いていた本人がこの体たらくとはとても情けない。自分でも少しは成長したと思っていたのだがどうやらあまり成長はしてない様である。なんて思っているとフローレンスは僕の両手を優しく包んで握った。


「いえいいのですよ。誰も気づかなかった貴方の様子に私だけが気づけたことが不謹慎ですが嬉しいのです」


「フローレンス……」


 いつもはわがままなところばかりに目がいってしまうが、たまに見せる彼女の年上らしいところは反則である。その言葉を聞いた僕はこの瞬間、本当にこの子を好きになってよかったと心から思えた。僕が今の感情を上手く言葉に表せないでいるとフローレンスは続ける。


「勿論、みんなに頼るのはとても良い事です、みんなレイの事が大好きですから。でも私にはもっと頼ってください。貴方の努力する姿を貴方のご両親と同じぐらい見てきたのですから、そんな貴方を私は助けたいのです」


「うん……」


 相変わらず言葉は出てこないが、とりあえず彼女の手を握り返すことは出来た。握り返すとフローレンスは穏やかに微笑んだ。


「言葉に言えないのなら行動で表すのは良い事です。何かが出来ないのであれば別の事で行う事はとても良いことなのですよ。貴方は私ほどではありませんが、悩みを自分だけで解決しようとする癖がありそうなので、本当誰に似たのでしょうね」


「ハハッ……誰だろうね、その人」


 やっと言葉が出せたと思ったら、口から出たのはこの一言だった。我ながら何でこのセリフなのかは分からない。


「あの……ここは“尊敬する私”ていうところですよね?」


「うん、本当誰だろうね」


 なんて言っているとフローレンスはさっきまでの穏やかな表情からジト目に変わった。


「レイ……貴方分かってやってませんか?」


「バレた?」


「もう、元気になったのなら1人で参加してください」


 と握っていた手を乱暴に払い落して、その場を去ろうとするフローレンス。


「ごめんごめん、許して」


「貴方は本当に調子がいいんだから……ほら、行きますよ」


 フローレンスは軽くため息とつきながらも、一緒に参加してくれるみたいである。やっぱり彼女は優しい。


(ありがとう、フローレンス。君のおかげで僕はまた頑張れる)


 心の中で、そう彼女に感謝を告げるのであった。



 ーー学園長の部屋


「--とりあえずアクセル・フォンが捕まるまで学園は臨時休学ですね。でもまさかあのアクセル・フォンが脱獄するとは……」


 学園長の部屋で僕、フローレンス、父さん、学園長の4人で会議が始まった。学園長もアクセルが脱獄したことに驚きを隠せない様子だった。ちなみにだがこの学園長は父さんが学生の頃教わっていた先生とのことで、まさかの父さんと教え子と教師の関係である。


「えぇ、今回の出来事は私どもにも不可解な事が多いのですが、私は今日この目で彼がいたはずの牢屋が空だったことを確認したのです」


「アーク君……いやこの場合はハーストン政務官と呼んだ方が宜しいかな」


「いえ呼び方は先生……学園長のお好きな呼び方で」


「分かりました、ではアーク君で。君がこういう場で嘘をつく人間ではないことは分かっているので学園側も用意を進めましょう。出来るだけ早く解決させて学生達を安心させたいものです」


「それは私も同じです。現在、アクセル一同はカイン達、騎士団で捜索中ですね」


「カイン君か……彼ならすぐ捕まえてくれるでしょう。学園側はアクセルの件があって以降、警備には力を入れていましたが、更に力を入れないといけませんね」


「レイ君、とりあえず学生達には私から手紙を出しておこう。君は自分の身を守りなさい」


「僕ですか?」


「えぇ君は前の事件から彼から何故か変な執着心を抱かれているようだからね。今回も君の元に来たんだろ、夏祭りの日に」


「え、えぇ……」


 彼が僕に固執する理由は僕が同じ転生者だからであろう。本来なら僕は数か月前に生徒会の皆から糾弾され学園を追放、そのまま死亡するキャラである。だが実際はアクセルが糾弾されて牢屋に入れられた。彼からしてみれば本来僕の立場にいるはずなので許せないのだろうと思う。


「そうそう、レイちゃん。私からも1つ言おうと思ったんだ。今回レイちゃんは狙われる可能性高いからカインから護衛を付けるってさ」


「僕に? 僕1人なら大丈夫だって」


「レイ、確かに貴方は強いですが、相手はあの地下牢から脱獄した人です。私達が知らない能力を持っていてもおかしくないです。こういう時は素直に応じておきなさい」


「フローレンスさんの言う通りです、貴方はこの学園の学生の代表。その代表に何かあったら学生の皆さんが悲しみます。貴方が強いのは私も重々承知していますが、今回の相手は不明点が多すぎますね」


「そうだよレイちゃん。ここはカインの厚意を受け取っておいて」


 と三者からそう言われて渋々従うことにする僕。


「まぁカイン達ならすぐ捕まえるさ、だから護衛の人がいるのも数日で終わる」


「だといいけど……」



なんて思っていた数日後、驚愕の報告が舞い込んできた


ーーアクセル・フォン追走の王国騎士団、返り討ちに遭い重傷



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