夏祭り 終
今回で夏祭り編はおしまいです。
音の正体が花火ではなく爆発だと分かると会場は一気に混乱に陥った。先ほどまでの楽しい雰囲気から一転し会場から慌てて逃げ出そうとする人々で更に会場は混沌としてきた。
「逃げるよフローレンス!!」
「は、はい!!」
僕達も会場から逃げることにした。会場からだとフローレンスの屋敷に行くよりも僕の屋敷の方が近い。頭の中で屋敷までの最短の道のりを考えた。
「い、一体何が起きたんですか!?」
「分からない!! でも誰かが何か所で爆発させたのは分かる、フローレンスは僕の手を絶対離さないでね!!」
「は、はい!!」
と僕の手を強く握るフローレンス。僕もこの手を絶対離すものかと強く握り返した。沢山の人々が我先にと走っている中で手を離そうものなら危ない目に合う。せっかく命の危機を乗り越えて付き合った大事な彼女を危険な目に合わせるものかと心に決める。
「ーー坊ちゃん!! 会長!!」
「アル!!」
声のした方を見るとそこには慌てた様子のアルとミラがいた。そう言えば2人とも会場のパトロールに来ていたのを思い出す。2人を見ると特に怪我はなさそうだ。
「レイと会長は無事だったんだな……良かった……!! 2人が花火を見ている方面で爆発があったから気が気でなかった」
「まぁ近くだったけど、そこまで近くではなかったから被害はないよ。とりあえずアルとミラも無事でよかった」
「2人とも怪我はなさそうですね、あとはアルマンダさんだけ……」
なんて話をしていると遠くから声が聞こえてきた。
「ーーレイーー!! 会長ーー!! みんな~~!!」
「あれは……チャスだ」
そこにはチャスが自分の店の前で大きく手を振っていた。どうやら彼女は自分の店に避難していたみたいである。
「こっち来てーー!!」
「おっ、チャスも無事だったか!! とりあえずあっち行くか!!」
「だね」
アルの提案に同意した僕達はチャスが手を振る方に向かうのであった。確かに僕の屋敷に向かうよりもチャスの店に向かう方が近いのでそこで一度これからを考えることにした。
チャスに誘われるがまま、僕達が彼女に家に逃げ込むとそこには彼女の料理道具が乱雑に置かれていた。多分逃げるのに必死だったのだろうと思う。
「みんな怪我ない?」
「僕達は大丈夫だよ、チャスのご家族は?」
「みんな怪我ないよ。私達は花火が打ちあがっている途中で店じまいしていて、あとはお鍋とかを持って帰ればというところで爆発が起きて……って感じだね」
「ふぅ……とりあえずお祭りに来ていた知り合いは全員無事みたいだ」
知り合いに怪我がないことに安心して胸をなでおろす。外ではまだ人々が逃げ惑う声や怒号で騒がしい。さっきまで賑やかな声が溢れかえっていたのに、まさか数分後にはこんな地獄絵図になるとは誰も予想付かなかっただろう。
「皆さん、ご無事ですか……?」
と奥の方からチャスのお母さんが心配そうに尋ねてきた。
「僕達は大丈夫です。それよりも急に駆け込む形になってしまい申し訳ございません」
「いえいえ!! 私どもの娘がお世話になっているご学友さんなら大丈夫ですよ」
「ありがとうございます……でもどうしたもんかね……」
「どうした坊ちゃん?」
「いやさっきの爆発のことだよ、一体誰がしたんだろうって」
「そんなの俺達が分かる訳ねぇだろ、第一俺達はガキだから大人に任せておけって」
「そうなんだけどね、何か危険な集団いたら少しぐらいは噂になっていてもおかしくないのに何も噂になってないのも変というか……」
まぁ国から危険視されている集団がテロ計画を企てていることがバレていたら国から事前に取り締まりというか乗り込みをくらうだろう。だから僕達のところに噂すら来なかったのは当たり前なのだが、なんか妙な気が止まらない。
「チャスは何か知っている?」
「ううん、全く分からない。というか私が知っていたら王国の上の人達は知っているんじゃない? そして知っていたら事前に潰しに行くと思うんだよね~私は」
「だよね……」
情報通のチャスがお手上げとなれば分かる訳がない。
「ーー誰か助けて!!」
外で誰かの大声が聞こえた。
「今の声は!?」
僕は思わず扉を開けると、そこには浴衣を着ている女性が屈強な男性から逃げていた。女性の服が浴衣なのに対して、男性側の服は浴衣ではなくかといって私服ではなく、兵が着るような戦闘用の服である。
「あの女性が危ない!!」
「ち、ちょっとレイ!?」
後ろでフローレンスが言っているが身体が勝手に動いていた。そのまま女性の方に向かって走り
「てめぇ何してんだっ!!」
走った勢いのまま女性を襲うとしていた男に向かって飛び蹴りを繰り出した。
「ッ!?」
男は少し攻撃に対しての反応が遅れたもの、僕の蹴りを寸でのところで躱して、お返しにと左手のブローが僕の脇腹に向かって放ってきた。それを僕は身体をひねって躱す。
「おっと」
「もらった!!」
相手は僕が躱した瞬間、後ろに下がって魔法の詠唱をし始める。相手からしてみれば大ぶりな攻撃を躱せて攻撃のチャンスだと思ったのだろう、少し顔がにやけたのが見えた。だが……。
「だからどうしたのさっ!!」
僕は地面に足を付けると同時に地面をけり、相手の男に向かって突撃した。相手は僕の予想外の動きに少し面食らったようだが、そのまま魔法を放ってきた。
「アイスアロー!!」
「なら“キャンセル”!!」
と僕はその氷の矢に対して手を向けて、お決まりの言葉を言う。すると氷の矢は僕の手に当たった瞬間、跡形もなく消えた。
「魔法が消えた!?」
「ーー無防備は駄目だと思うんだ」
「し、しまっ」
目の前で起きた事に理解出来ないで無防備になっている相手の腹目掛けて膝蹴りを放つ。勿論相手は躱せないでそのままみぞおちに僕の膝が入り、男の身体は大きく吹き飛んだ。
「うごっ……がはっ……!!」
地面に倒れた男は苦しそうに身体を曲げる。あの苦しみ具合だとしばらく動けないだろう。動けない内に何かで縛って行動不能にしたいがさてどうしたものか。
「レイ!!」
「ミラか」
チャスの店からミラが出てきた。倒れている男を一瞥したあと、僕の方を見て呟く。
「レイは凄いんだな……大の大人をまさか戦闘不能にさせるなんて。見ていて惚れ惚れする身体の動かし方に技術……是非騎士団に欲しい人材だ」
「ハハッ、ありがとう。それに今回はたまたまさ、相手は僕をただの子供だと思い込んで油断していたからね」
多分相手が油断してなかったらこんなに上手くいかなかっただろう。今回は僕が子供だったこと、魔法無効化が使えたことが今回の勝因だ。
「ねぇミラ、何か縛るもの持ってる? こいつを突き出す」
目の前で倒れている男が今回の事件でどういう立場なのか分からないが、少しでも事件の真相が判明するかもしれない。
「すまない、今は持ってない。ちょっとアルマンダ殿のお店で聞いてくる」
「お願いね」
とミラは再度チャスの店に向かって走り出した。その間にこの男に逃げられては困るので僕はこの男に対して寝技をかけようとしたところ……
「ーーレイ、逃げて!!」
「へっ?」
フローレンスの叫び声が聞こえ、ふと正面に向けてみると、突如目の前に火の球が飛んできていた。
「危っ!!」
間一髪のところで躱す僕。どうやら近くに男の味方がいたようだが今の一発は味方であろうと男に当たるのも構わず撃ってきた。ちなみに倒れていた男は僕が首を掴んで一緒に回避。改めて正面を見直すとそこには衝撃的な光景が目に入った。
「嘘だろ……」
そこにはもう見る事はないだろうと思っていた赤い短髪に整った顔の男子が立っていた。だが僕はその光景が信じられない、目では分かっていても頭で理解したくない。そんな僕の表情をみて、その男子はニヤァと笑い、口を開いた。
「ーーよぉ久しいなぁレイ・ハーストン。幸せそうに生きてんじゃねぇか悪役の分際でよぉ」
「お、お前はアクセル・フォン……!?」
そこには数か月前に僕と対決して捕まったはずのこの物語の本来の主人公、アクセル・フォンが立っていた。
「どうしてここにお前がいるんだ!? 確かお前は捕まったはずじゃ!!」
「まぁそんな事どうでもいいだろ? 今日はお前の顔を見に来てやったんだ感謝しろよ」
「まさか今日の事件はそれだけのために起こしたのか!!」
「あぁ爆発はお前に会うついでだよ。メインヒロイン付き合う事が出来て幸せなレイ・ハーストンの顔を見に行くついでに、どうだ俺特性の花火は? 気に入ってくれたか?」
「てめぇ……!!」
「まぁ今日はお前の顔を見れただけ良しするか
ーーじゃあな生徒会長」
そう言うと彼は家の屋根にジャンプした。
「ま、待て!!」
と僕が叫ぶものの、彼はそのまま屋根伝いに遠ざかっていった。
「な、何であいつがここにいるんだ……?」
僕は今、目の前で起きた事に驚きを隠せず、その場に立ち尽くす。
ーー僕と彼女にとって楽しい思い出になるはずだった夏祭りは最後に予想外の人物の出現によって、ある意味忘れる事が出来ない思い出になった。
次回からこのルートは佳境に入っていきます。





