夏祭り 5
僕達が座り、しばらくすると花火が打ちあがり始めた。
ドンッ、ドンッ
少し離れた場所で打ちあがっているであろう花火の音は僕の胸に響く。そうして一輪の火花が空に打ち上げられて儚く消え、また打ちあがりは消えてを繰り返すのであった。個人的に花火のこういう打ちあがって綺麗に咲いたあと、すぐ消え、夜空が暗くなったかと思うと再び花火があがる、この流れが好きなのである。上手く言葉に出来ないがずっと夜空を照らすのではなく、一瞬だけ夜空を明るくするというのが良いのだ。
「綺麗ですね」
「うん」
隣で座っている彼女を見ると、花火を見ることに夢中になっているようで、その整った顔に打ちあがった花火の色が代わり代わり写っている。さっきまでお菓子に目をキラキラさせていたのにと思いながらも僕も再びは花火の方に目を移す。
パンッ、パンッ、パンッ
先ほどまでは大きな花火が一発ずつ上がっていたのが今度は少し小さめの花火が連続して打ちあがる形式に変わっていた。音は少し小さいがそれでも先ほどの大きな花火と同じように胸に響く。それと同時に周りにいる花火を見に来ている人たちの歓声も耳に聞こえる。
(ふぅ……もう夏は終わりか……)
この祭りの花火を見ると、その年の夏の終わりを実感する。いつもなら宿題が残っていたりするのだが今年はフローレンスの助けもあり、既に完了済み。あとは休み前のリズムに身体を戻すぐらいだ。学校が始まるとまず学園祭がある。普通学園祭となると夏休みも返上で行ったりするが、この学園は貴族の子息・子女が通っていることもあり、皆実家に帰省するので学園祭の準備は夏休みが終わってからだ。
(今年の僕はクラスよりも生徒会の会長として皆を見ないとなぁ……)
昨年までは副会長ということもあり、生徒会とクラスは半々の割合で参加していた。まぁクラスの方は昨年までの僕の印象もあり、参加していたというよりもただその場所にいただけに近いが。今年は昨年までのフローレンスが行っていた事を行う。
学園祭前日までは
・各クラスの予算確認
・出し物が風紀に反してないかの確認 (なお今まで出し物が反していたことはあまりないらしい)
・各クラスの出し物の場所の把握
そして当日の仕事は
・校内の巡回
・有事が発生した場合は解決しにいく
(もしもの場合があるので巡回以外のメンバーはクラスの出し物手伝い以外は生徒会室でスタンバイ)
例年そこまで問題はあまり起きないが、突発的な問題が発生した場合は生徒会がまず現場にいき解決しようとする。今まではフローレンスだったのでそこまで問題が起きずに終了したが今年は僕なので交渉で何とかなるかぁと今から不安だ。
ドンッ
「わっ」
急に花火の音が大きくなったので現実世界に戻された僕。ふと花火の方に目を向けると大きな花火に切り替わっていた。さっきまで考え事をしていたので変わったことに気づかなかったようである。
「どうしたんですかレイ? 急に驚いて」
「あ、あぁちょっと考え事をしていて」
「もしかして学園祭のことですか?」
「正解、よく分かったね」
僕がそう言うと彼女は少し照れくさそうに微笑む。
「貴方の彼女ですからね。それにこの時期悩むとしたら学園祭の事だろうなと思いました」
「うん、夏休みが終わったら学園祭の準備をしないといけないぁと思って……なんて考えたら頭が痛くなってきた……」
「ちょっと生徒会長がこの時期から弱気でどうするんですか……もぅ、貴方には頼りになるお友達と後輩たちがいるんですから頼りましょうよ。貴方には私にはない不思議な魅力があるんですから」
「フローレンスに無くて、僕にある魅力……?
ーー強いて言うなら“あの生徒会長頼りねぇから俺らでやるか”みたいな感じかな」
「……自分で言いますか、確かにその魅力は間違ってませんでしょうけど」
「よし、学園祭はみんなをこき使おう!!」
そう考えるとさっきまであった頭の痛みが少し和らいでいった。この瞬間、僕は生徒会の皆から文句を言われてもこき使うことにしたのである。なんていう僕のしょうもない宣言にフローレンスは呆れながらも笑ってくれた。
「あまり上に立つ人から聞きたくないセリフですが、レイの場合はそう言っておきながら結局一番働きそうなのが目に浮かびます」
「いや僕はとことんサボるね、なんなら生徒会室の自分の机で寝る」
「本当ですか? 貴方は私以上に周りに気を遣うので結局寝れないと思います。周りが働いていたら貴方、絶対“手伝おうか?”と言う性格なので」
「……違うと言えない僕がいる」
「ほら、貴方はそういう性格なのです。お父様の跡を継ごうと思うならある程度人に任せる事を覚えないといけませんよ?」
「へぃ……」
「でも貴方のその性格は私は好きですよ。貴方がいてくれたおかげで私がどれだけ助かったか」
「そうなの?」
「えぇ、前に貴方からの告白の際にも言いましたが私は人に頼るのが苦手です。でも貴方は何も言わずにさりげなく私の事を助けてくれたじゃないですか。それはみんなが出来ることではありません。貴方の立派な長所です」
「フローレンス……」
「だから貴方はそのまま頑張ればいいんですよ。それで困ったら周りの信頼できる方に助けてもらいましょう」
と僕に優しく微笑むフローレンス。花火の逆光で少し見えにくいが顔が赤いように見える。
「うん、分かった。ありがとうね」
「ダメな時は注意しますが、良いところは褒めます。で、少し提案なのですが……」
「分かった」
「あの……私まだ内容話していないと思うのですが?」
「可愛い彼女の願いを僕が聞き入れない訳ないでしょ」
「嬉しい言葉ですが、少し心配になります。
ーーもうお祭り終わりますよね?」
「だね、あと花火が数発上がったらおしまいかな」
丁度花火も最後の連続で大きな花火を打ち上げるのに入ったところなので数分後には終わりだろう。その後は彼女を屋敷まで送っておしまいだ。
「で、ですよね? 少し寂しくないですか?」
「まぁ寂しいね」
「ですよね!! なので……その……」
さっきまでは勢いで話していたのに急に歯切れが悪くなるフローレンス。一体何に遠慮しているのだろうか分からないが彼女にとってはあまり言えないことなのだろうか。
「どうしたんだい?」
「その……この後に……」
「この後に?」
「レイのお屋敷に行ってもいいでしょうか……?」
「えっ、僕の家!?」
まさかの発言に驚く僕。多分だが僕の顔は一気に赤くなったに違いない。そんな僕の様子を見てなのか少し不安げな表情を浮かべるフローレンス。
「だ、ダメでしょうか?」
「ぼ、僕はいいけど……フローレンスのご両親は大丈夫なの?」
「私の両親からは事前に許可をもらってきました……そ、それにですね……浴衣の着方はしっかりと覚えたので……」
「え、えっと……それってまさか……」
彼女の家のレベルとなると浴衣の着方を覚えずとも家の人がやってくれる。それなのに浴衣の着方を覚えたとなると脱いでも自分で着付けることが出来るということだ。まさかの発言に僕が再び驚いていると彼女は恥ずかしそうに言う。
「言わせないで欲しいです……わ、私だって恥ずかしいんですから……でも貴方となら……」
「あ、あぁ……じ、じゃあさ
ーーこのあと僕の屋敷の離れにくる……? と、父さんから離れの鍵預かっているんだ……」
「……ッ!? い、いきますね……」
「う、うん……」
と恥ずかしいのでお互い顔をそっぽに向く。そうしているうちにも打ち上げ花火もそろそろ終わりを迎えようとしていた。
“次の一発で最後となります”
なんていうアナウンスが聞こえてきたので僕達は正面に顔を向ける。そしてどちらからという訳ではかうほぼ同じタイミングで手を相手の方に伸ばしていた。
「「あっ……」」
お互いそんな声を上げたがそのまま相手の手を握った。握った彼女の手は温かく、なんか穏やかな気持ちになる。
ドォン!!
「あれ……?」
「どうしたんですかレイ?」
「いや音がしたのに花火があがってない」
「確かに言われてみれば……おかしいですね」
さっき確かに大きな音がしたはずなのに目の前には花火があがってこない。それに気づいたのだろう周りの人達も騒ぎ出した。
(音はしたのに……花火が無い……なんだこの嫌な感じ。それになんか匂いが花火の匂いとは違う気がする……まさか!!)
「フローレンス!!」
頭の中で嫌な予感がしたの僕はフローレンスを僕の方に強く引き寄せた。
「きゃっ、ちょっとレイ!?」
ドォン、ドォン!!
丁度引き寄せたタイミングぐらいで先ほど同じような音が連発した。その音がした方を見ると1つの屋台から火があがっている。その様子を見て僕の悪い予感は的中した。
「これは花火じゃない!! 爆発だ!!」
そろそろ夏祭り編おしまいになってフローレンスルートの佳境に入ります





