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祭りの前日

 アセンタムに来てからは特に問題は起きず、フローレンスがいない寂しさがありながらも久しぶりに穏やかな日々が過ごせた。ただ終始ラウラは不機嫌だったので毎日差し入れのお菓子を持っていき、不機嫌な表情を浮かべながら、両手でクッキーを持ちながら食べていた。



 そして夏休みも終盤になった頃、僕達は避暑地のアセンタムから首都のアスフェルトに戻ってきた。余裕を見て祭りの前日に戻ってきたのだが街中お祭りの準備で賑やかな喧騒に包まれている。僕は屋敷に戻ったあと、1人で祭りの準備をしている町を歩くことにした。別に特段と用事があるわけではないが、ただ祭りの準備している様子を見たいと思ったからである。


「お兄様、顔がにやけてます」


 なんてラウラに言われたが、明日が楽しみなんだから仕方ない。まぁ実際家でじっとしているのが無理だったので気晴らしに歩くことにしたのだが。そう思いながら歩いていると見慣れた顔を見つけた。


「お~いチャス」


「あれレイじゃ~ん久しぶり~」


 そこには同じ生徒会で悪友のチャスが店の準備をしていた。そう言えば昨年もチャスの実家は屋台を出していたことを思い出して、今年も準備に取り掛かっているのだろう。


「いつ帰ってきていたんだい?」


「今日だよ、明日の祭りに余裕を持って帰ってきたんだ」


 と僕が答えるとチャスはニヤニヤした表情を浮かべ始めた。


「なるほど……会長とのデートが楽しみで前日に帰ってきたと……。

ーー恋人がいない私にわざわざ自慢しにきたの? 暇だねぇレイ」


「んな訳ないでしょ……。ただ祭りの自分を見てみたいと思ったからだよ」


「へぇ~そうなんですかぁ~つまんないの」


「悪かったな、つまらない返事で

ーー明日、ここ寄らないから」


 チャスに背を向けて去ろうとすると服を引っ張られた。


「ごめんごめん機嫌直してよ~

ーーほらチョコバナナあげるから許して」


 とチョコバナナを渡される僕。この子、僕がチョコバナナで釣れると思っているのだろうか? まぁもらうんだけどさ。もらったチョコバナナを食べてみると流石チャスの店が出しているだけあって結構美味しかった。だからと言って彼女を許すつもりはないが。


「ったく……君は僕をなんだと思っているんだ」


「悪友で問題児でなんやかんやで頼りになる会長だね」


「うわっ……素直に喜べない印象」


「あっ、そう言えばさっきトリスケール君やミラを見たんだよ。なんなら2人に会ってきたら?」


「へぇアル達がいるんだ……会ってこようかな」


 2人とも夏休み前に会ったのが最後だったので久しぶりに会って話がしたいと思った僕はチャスに別れを告げ、さっき彼女が2人を見かけた場所に行ってみた。すると2人は何かを話しているようである。僕が近づくと2人ともこっちに手を振ってきた。


「おっ、坊ちゃんじゃねぇか久しぶりだな!!」


「レイ、久しいな」


「アルにミラ、久しぶりだね。2人は何を話していたの?」


「あぁ私は明日この祭りで問題が起きないかを見守る係なのだが、父上に増やせるなら人員を増やして欲しいと言われてな、私の知り合いの中で向いてそうな人物で思いついたのが彼だったわけだ」


「いや~明日坊ちゃんは会長とデートだからよ。独り身の俺としては何をしようかと思っていたらよ、丁度お声がかかったわけだ」


 毎年祭りのパトロールは騎士団の人達がしている。ミラはまだ騎士団に入ってないが経験を積むには良い経験だろう。


「最初はレイも誘おうと思ったんだが……会長とのデートと聞いたので止めておいた」


「あ、あぁ……お気遣いありがとう……てか誰が言っていたのさ」


 2人に最後に会ったのは夏休みに入る前だ。そしてフローレンスと祭りを回ることに決めたのは彼女の別荘地にいた時である。それなのに何で2人が知っているのだろうか?


「いや聞いてないんだが、せっかく付き合い始めたんだし2人で行きたいだろうなと思っただけだ。せっかく恋人になってからの初めての祭りなんだからよ、楽しんでくれって」


「トリスケール殿に言われて、思わず私もハッとなってな。いつも助けてもらっている2人には感謝しているのでそのお礼……というのも変だが楽しんでくれ」


 えっ、この2人優しすぎない? 思わず泣きそうになる。さっきの人をチョコバナナで懐柔しようとしていた同期とは大違いだ。


「まぁ坊ちゃんは会長とのデート楽しめよ~

ーーデートの時間は俺達が守ってやるぜ!!」


「あぁ2人の大切な時間は私達が守ろう。

ーーこの剣に誓って」


 と腰に帯刀しているサーベルを触るミラ。


「ありがとうね2人とも」


「ところで坊ちゃん」


「ん? 何かな?」


「会長とどこまでいったんだ?」


「ブッ!?」


「トリスケール殿!? 一体何を聞いているんだ!!」


「いやだってよ、彼女の家に数日間の泊まりだろ?

ーー若い2人が同じ屋根の下……何も起きないはずが……」


「特に何もないよ!? というかフローレンスのご両親もいるからね!?」


 流石にご両親が同じ屋敷にいるのにアルが考えてそうな事をする勇気は僕にない。というかそれを聞くのか普通? なんかさっきアルに感謝したことを少し後悔している。


「ちぇ……つまらねぇな」


「僕はチャスやアルのおもちゃではないからね……そろそろ帰るか」


「あ、あぁ分かった。明日は会長と楽しんで欲しい」


「うん、ありがとうねミラ。どこかの問題児2人は大違いだ」


「おっ、それって俺とチャスのことか?

ーーちなみにそれに坊ちゃんも加えると問題児3人組の完成だな!!」


「生徒会に学園の問題児が3人いるって大丈夫なのかなぁ、この学園」


 なんて思いながら帰路につくのであった。

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