勝てばいいんですよ勝てば
今回は甘めです(笑)
町中で騒ぎに巻き込まれたあと、僕達は屋敷に戻った。
戻るとライシング家の私兵の方々と本当に手合わせをすることになったのだが、10人ぐらい相手にしたあと、最後はテリアスさんと組手をすることになった。意外だがテリアスさんは意外と引き締まった身体つきであり体術もそれなりに心得ているのでかなり疲れてしまい、夕食を食べ終わるとすぐ寝てしまった。
そして次の日……
「着きましたよ、海!!」
「綺麗だねぇ……」
僕達はライシング家専用の海岸に来ていた。
前日の夕食時にアルクさんから“せっかく海が綺麗な土地に来たんだから海で遊んできたら”と言われたので僕とフローレンスはライシング家の海岸に来ていた。一応ライシング家の使用人の方がが一緒に付き添いで来ているがほぼ2人で広い海岸を独占状態だ。
「さぁ泳ぎますよ~!!」
とフローレンスは上に羽織っていたカーディガンを脱ぐと使用人に渡した。
「……」
「ん? どうしたんですかレイ?
ーーあっ、まさか私の水着姿に見惚れていたんですか?」
とイタズラを思いついたような表情を浮かべるフローレンス。
「うん、綺麗だなぁって思って、つい見惚れていた」
フローレンスが着用している水着は紐を首の前で交差させた後、首の後ろで結んだりひっかけたりして固定するクロスホルダー・ビキニと呼ばれる水着だ。水着によって彼女のスタイル良さが際立っておりとても似合っている。そして水着の黒と彼女の白い肌のコントラストがこれも良い。
「ち、ちょっと随分正直に言いますね……」
照れて少し顔が赤くなるのも良い。
「僕は出来るだけ思ったことは正直に言おうと心がけているんだ。だから思った事を言っただけ」
「も、もう私は貴方をそんな風に育てた記憶はないですよ!!」
僕が自分の思った事を正直に言うと彼女は更に顔を赤くした。ちなみにだが僕はフローレンスに育てられた記憶はない。まぁ彼女から色々と影響を受けたのは事実だがほぼ同い年で“私が育てた”というのも変だろう。
「僕とフローレンスって1歳しか違わないよね?」
「うるさいです!! ほら行きますよ!!」
自分でも矛盾があると気づいたのだろう海の方に向かって走り出すフローレンス。最初から言わなければいいのにと思うのだが、こういうところも可愛いと感じる。惚れた弱みというのだろうか僕はなんやかんやでフローレンスに甘い。
「はいはい、行きますよ」
と僕は使用人の方に軽く頭を下げるとフローレンスの元に向かった。そしてフローレンスと一緒に海に入る。さっきまで熱い砂浜を歩いていたので海の冷たさが心地良い。
「あぁ気持ちいい……そう言えばフローレンスって泳げる?」
「はい、私運動はそれなりに出来ますよ。流石に男の子のレイには勝てませんが」
と照れくさそうに言うフローレンス。彼女は“それなり”と謙遜しているが勉強と運動はかなり出来る方だ。付き合い始めてからポンコツ状態の彼女の面が強く出ているが、勉強は常に学年1位、運動も学年トップクラス、防御魔法に至っては歴代のライシング家の中でも最強と言われている。
「そうだったね、ごめん」
「フフ、別にいいですよ。
ーー油断大敵です!!」
フローレンスはそう言うと僕に向かって海水をかけてきた。
「ぶっ!? ちょっとフローレンス」
完全に油断していた僕は結構な量の海水をもろに被ってしまった。当たり前だが海水なのでしょっぱいし、地味に目が痛い。
「フフン、私を馬鹿にした仕返しですよ!!」
……いやさっきは貴方が自爆しただけだと思うのですが、というツッコミは心の中にしまっておき、僕も反撃に出ることにした。やられたらやり返すのが僕の流儀なので、今回はその流儀に従う。
「やったね……じゃあ僕も仕返しだ!!」
僕は自分がかけられた時と同じようにフローレンスに向かって海水をかけた。
「きゃ!! やりましたねぇ……!!
ーーでしたら“魔法壁”!!」
と彼女は魔法を使って目の前に透明な壁を作ったので僕のかけた水は壁にはじかれて、フローレンスの元に届かない。
「卑怯でしょ、それ!?」
「フッ、勝てばいいんですよ勝てば!!」
「うわぁ……大人げない」
「さぁ私に水をかけてみてください!! ですがその前にこの魔法壁を壊さないと無理ですけどね!!」
と自慢げなフローレンス。確かに彼女の魔法壁はかなり強力であり、壊せるのはアリーヌ先輩ぐらいだろう。だが彼女は1つ忘れていることがある。
「分かった、フローレンスに水をかければいいんだね?」
と言うと僕は左手で海水をすくった。勿論片手ですくえる量なんてさっきまでかけ合っていた量に比べたら大分少ない。
「それぐらいの量で何が出来るんですか~?」
……多分彼女に言っても分からないだろうけどさっきからフラグを立てまくっている我が彼女。どこかで聞いたけど現状を自分で解説することは死亡フラグだ。
「じゃあやるか」
そして僕は右手で魔法壁に触れる。
「じゃあ“キャンセル”」
「あっ!?」
僕がそう言うとフローレンスの作った魔法壁が綺麗に無くなった。そして驚いているフローレンス目掛けて左手ですくった海水をかける。少しさっきの態度がイラっときたので多少強めにかけた。
「にゃ!?」
まさか魔法壁が無くなると思っておらず海水が当たるとフローレンスは変な声を上げた。
「ほら、かけたよ?」
今度は僕が勝ち誇った顔をするとフローレンスは騒ぎ出した。
「ず、ズルいです!! 魔法を打ち消すなんて!!」
何か僕が卑怯な手を使った感じに言っているがこの子、自分が先に魔法を使った事を完全に棚に上げている。そんなフローレンスに僕は勝ち誇った表情のまま続ける。
「おや“勝てばいいんですよ勝てば!!”って自信ありげで僕に言っていたのはどこの誰かな~?」
「フローレンス・ライシングっていう私と同姓同名の別人ですよ!!」
「いや君だよね!? 同姓同名の別人じゃなくて貴方だからね!?」
「ぐぬぬ……かくなる上は……!!」
と言うとフローレンスは僕の腕を掴んで引っ張った。
「おっ……?」
「レイを海水に引き込めば私の勝ーー
ーーあ、あれ……? 動かない……?」
確かに彼女は僕の腕を掴むところまでは良かったと思うが、僕は男子だ。いくら運動神経抜群のフローレンスでも男子の僕を引き込むには力が足りない。なお僕は最低限の力でその場にとどまろうとしているだけだ。
「ふぐ……!! ぐにゅゅゅ……!!」
顔を真っ赤にして一生懸命僕の腕を掴み、引き込もうとしているが全く動いていない。
「可愛いなぁ……この子」
一生懸命に僕のバランスを崩そうとする姿が可愛く、さっきまでイラっとしていた感情は完全に無くなってしまった。
「ぐぬぬ……な、何で動かないんですか……?」
「だって、それはさ」
と僕は逆にフローレンスの細い腕を握ると、僕の方に引っ張る。するとさっきまでフローレンスが僕を必死に引っ張っていた時とは違い、フローレンスはいとも簡単に引っ張る事が出来た。
「わっ……」
そしてそのままフローレンスは僕の胸板にもたれかかってくる。彼女の整った顔を見下ろすような体勢のまま続けた。
「僕は男子だからね」
彼女の大きな2つのふくらみが当たってやましい気持ちが湧き出てくるが悟られない様に言う。そんな僕の感情を知らずかフローレンスは僕の方にさっきよりも体重を預けてきた。
「そうですね、レイは男の子ですものね……この身体でアクセルの魔法から私達を守ってくれました」
そしてそのまま胸板に頬ずりをする。頬ずりしているためかさっきよりも彼女のふくらみを強く感じて色々とマズい。多分だが彼女は自分が何をしているのか全く分かってないだろう。
「あ、あのフローレンス……」
なので僕は勇気を振り絞って今の状況を言うことにした。
「はい、何ですか?」
「そのだね……当たってるんですよね」
「当たっている……?
ーーッ!?」
僕が何を言いたいのか分かったのか彼女は顔を真っ赤にして僕から離れた。僕らの間を何とも言えない空気が漂う。
「ご、ごめんなさい……私とした事が……何も考えずに……」
「い、いやそれを言うなら僕の方が何も考えずに引き寄せちゃったから……ごめん……」
「レイ様とお嬢様……青春ですね」
遠くで使用人の方のそのような声が聞こえた気がした。





