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意外と強いんです

「遅いです!!」


フローレンスからの開口一言目がそれだった。


「少し荷物をばらすのに時間かかって、ごめんごめん」


僕個人そこまでフローレンスと別れてからそんなに時間が経っていない気がしたのだが、そんな事をこの場で言おうものなら彼女に怒りに油を注ぐことになることは明白なので心に秘めておく。


「まぁまぁフローレンス。さっきテリアスにからかわれて怒るのは分かるが、せっかくレイ君が来てくれているんだ、楽しくいこうじゃないか」


「そうですけど……」


「さぁレイ君、私が町を案内しよう。

ほらフローレンスもそのしかめっ面を直しなさい、そんな顔をしているとレイ君に嫌われるぞ?」


「むぅ……はぁい」


「助かります、アルクさん」


とアルクさんの促しがあり僕達はフルクトゥスの中心街に向かうのであった。



屋敷から馬車を使って中心街に来た僕達。

まず目の前に入ったのは沢山の人々がいる市場だった。

馬車から降りた僕達は2人の護衛の方と一緒に町中を歩く。


「まずは市場だな。フルクトゥスは港があるからな様々な土地の食材なんかが揃うんだ。それを買う人、売る人が沢山集まって出来たのがこの市場という感じだな」


「おぉ……凄い量の食材……」


そこには山の幸、海の幸等々様々な食材が所狭しに並んでおり、それらを売買する人達が活発に活動していた。僕達が住んでいる首都も人が沢山いて賑やかだが、この町は首都とは違う賑やかさで新鮮に感じる。


「レイ、珍しいからといって迷子にならないでくださいね?」


「うん、フローレンスじゃないから大丈夫」


「ちょっとそれどういう意味ですか?」


とジト目のフローレンス。

別に彼女は方向音痴というだけではない。ただ“迷子にならないでくださいね?”と言われたことへのちょっとした反撃のつもりだ。

だがそれを聞いたアルクさんはため息をつくとフローレンスの方を見て言った。


「フローレンス、迷子にならないでおくれよ?」


「お父様もですか!?」


どうやらこの場には彼女の味方はいないようである。気のせいか僕と付き合うようになってからフローレンスの負の部分が強調されてきている。まぁ今この場にいるのはフローレンスの負の部分を知っている人間しかいないから尚更強調されているのかもしれないが。


「レイ君も大変だな……ズボラだったり迷子になったりするフローレンスと付き合っていて」


「あの……私ズボラなのは否定できないのですが迷子にはーー」


「えぇ大丈夫です、10年以上の付き合いで慣れました」


「あ、あの……まいーー」


「これからも娘を頼む」


「いえ、こちらこそ宜しくお願いします」


「……私泣いてもいいですか?」


僕とアルクさんが互いに頭を下げている中、フローレンスは結構落ち込んだ表情をしていた。




「あの……今更ながら何ですけど護衛の方は2人で良いんですか?」


今一緒に歩いている人は国の高級官僚、その娘、ナンバー2の息子という国のトップクラスの重要人物だ。アルクさんに至ってはライシング家の当主なので今更ながら護衛の少なさに驚く。


「まぁ、この町はこの国の中でもかなり平和な方だからね。そもそも危険なら私自ら、しかも馬車から降りて案内しないさ」


「あっ……確かに」


言われてみれば案内だけなら馬車に乗ったままでも車窓から出来る。わざわざ馬車を降りて案内出来るということは、この町がそれだけ安全だという証明なのだろう。


「それにレイ君、君がいる」


「僕、ですか?」


それは一体どういう意味なのだろうかと表情に出たのだろうアルクさんは笑いながら言う。


「君は無自覚かもしれないが武官の頂点、騎士団長を務めているカインさんの鍛錬についてこれる人はそうそういないぞ? しかも君はまだ学生だ、現時点でこれなのだから私は君の将来が怖い」


「そうですかね……?」


カインさんとは結構気が合うのでよく鍛錬に呼ばれる。その時はカインさんの部下の方々も一緒にやっていて皆さんも普通にこなしていたので特に気にしていなかった。だが言われてみると他の方々は既に成人をしている人達ばかりであり、僕だけ学生であり今更ながら少しおかしいと思い始める。


「自覚無しだから怖い。それに今回、君をこの町に連れてくるって屋敷の者に伝えたら“是非手合わせを!!”ってうるさかったんだ。

ーーという事で案内が終わって屋敷に帰ったら彼らの相手を頼みたい」


「「是非お願い致します!!」」


とアルクさんが言い終わるや否や護衛の2人が僕に対して深々と頭を下げてくる。


「えぇ……せっかくの休みがーー」


どうやって断ろうかと思っていたところ後ろで騒がしくなった。


「ーーひったくりだ!!」


声がした方を振り向くと、1人の男性が誰かの財布を手に持ち、こちらの方に向かって走ってきた。こちらを見ると僕の方に向かって走ってきた。多分だが子供1人ぐらいなら楽に逃げれると思ったのだろう。


「どけ!! 怪我したいのか!!」


そしてよく泥棒が言いそうなセリフを吐きながらこっちに向かって走ってくる男。少し表情をニヤッとさせたのを僕は見逃していない。


(さて、どうするか……まぁ対処は簡単そうだ)


「どけーー!!」


「レイ、危ないですよ!?」


「大丈夫だよフローレンス。

ーーはい、どきましたよ」


と僕は男から半身ずらし、代わりに足を伸ばした。


「えっ……」


その足にひっかかり男は驚きのままバランスを崩して、派手に転んでいった。結構派手に転んだのだろうか男はその場で悶えている。僕は近づくとその男は懐に入っていた刃物を出そうとしたので刃物を出そうとしていた手を強く踏みつける。そのまま男の首の後ろに左膝で体重をかけながら、男の左腕を背中に周して左手の甲を手前に引いた。


「痛たたたた!!」


「下手に動かない方がいいよ。腕折れるかもしれないからさ」


僕が軽く脅すと男は一気に大人しくなった。

そして近くにいた人が衛兵を呼んでくれたのでそのまま引き渡した。


「ふぅ……終わった」


アルクさんの方を向くと少し驚いた表情をしていた。


「いやぁ……君って本当に学生かい? 騎士って言われても私信じてしまいそうだが」


「まだ学生です」


「レイ、怪我無いですか!?」


と言うとフローレンスは僕に抱き着いてくる。

その後ろでアルクさんはさっきの驚きの表情から一転してニヤニヤと笑っている。


「僕は大丈夫だよ、それにあれぐらいには負けないさ」


なんせあっちが突っ込んできたのに対して足を引っかけて転ばした後は動けない様に拘束していただけなので怪我は全くしていない。そもそも自分で言うのも変だが町のチンピラ程度には負けないつもりだ。


「分かっていますけど……心配な物は心配なんです」


「ごめんごめんって」


「心配なので私、今日はレイの部屋で寝ます」


「うん、何を言っているか全く分からない」


さっきまでのシリアスはどこにいったのかいきなり爆弾を入れてくるフローレンス。思いのほか自分でも冷静に対処出来ているのが不思議だ。いつもなら少し慌てるのだが今日はいつものトーンで会話で着ている。


「大丈夫です、ベットは後で使用人の方に移動してもらいます」


「いや誰もそこは問題にしていないんだ。

ーーあとアルクさん、そこで温かい目をしないで助けてください」


「分かった、あとで家の者にフローレンスのベットを動かすように手配しておこう。レイ君、あとは任せろ」


「いや“任せろ”の使い方が間違ってます。

ーーそしてフローレンス、しれっと僕の匂いを嗅がないでもらっていい?」


最初こそ僕の心配をしてくれていたのだろうけど、“心配なので~”辺りから匂いを嗅いでいる仕草が見れたので途中から目的変わったと思った。


「すぅ……いい匂いです」


やっぱり目的変わっていた。

その後、僕は街中でフローレンスに抱き着かれているのを見られるという精神的に結構きつい拷問をされ続けるのであった。

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