彼女の兄
「「いらっしゃいませ旦那様、お嬢様」」
屋敷に着くとライシング家の使用人の方々が揃って僕達を出迎えた。
その中から1人の金髪の男性がこちらに向かって歩いてくる。
「親父、フローレンスいらっしゃい
ーーそしてレイ君、久しぶりじゃないか」
「お久しぶりです、テリアスさん」
目の前にいる金髪の男性はテリアス・ライシング。
フローレンスの兄であり、次期ライシング家の当主。
優秀な人物で、若いながらもこのフルクトゥスを治めており、領民からの人気も高いとのこと。
「あ、レイ君で思い出した。フローレンスと付き合い始めたらしいな
兄の俺に報告なしとは失礼じゃないかぁ~?」
からかう様に言ってくるテリアスさん。
顔の良さもあるが、この親しみを感じる性格も領民から人気が高いらしい。
この人とは幼い頃からフローレンスを通して付き合いがあり、良くしてもらっている。
「あっ、はい……報告が忘れていました。数か月前から妹さんと付き合い始めさせていただきました」
と言うとテリアスさんは僕の肩に手を回してきた。
「おう許可する!! レイ君ならフローレンスを頼めるな。
ーーところでレイ君、1つ聞きたいことが」
だが突如、声を小さくして僕の耳もとで囁いた。
「はい?」
「あの……日頃の生活の方は……直ったか?」
テリアスさんが言う日頃の生活というのはフローレンスのことだろう。
この人もフローレンスの裏の顔を知っている数少ない人間だ。
だから毎回僕に会う度に聞いてくる。
「……この短時間で直らないのはテリアスさんの方が分かっているのでは?」
僕が申し訳なさそうに言うと、テリアスさんは深くため息をついた。
「だよな……本当君が妹の恋人で良かった。
ーーこれからも妹を頼む、割と本気で頼みたい」
「わ、分かりました」
まさかの親子揃って同じ事を言われるなんて余程フローレンスの生活態度に不安しかないのだろう。そして本人に直すという覚悟が無いのだから尚更心配になるのだろう。
「ーーお兄様、レイ? 何を話しているんですか?」
ただ長く2人でこそこそ話をしていたからか、後ろにいたフローレンスに声をかけられた。話の内容は聞かれていなかったと思いたい。
「あっ、あぁフローレンスか、すまないなお前の彼氏と借りてしまって。レイ君にはこれからの事に関しての助言をしていたんだ」
僕に肩を組みながら言うと、フローレンスは呆れながら言ってきた。
「お兄様……レイに変な事を吹き込まないでくださいね?」
テリアスさんは頭脳明晰で家柄も良く、顔が良いので結構モテる。顔や日頃の態度をみると遊び人のイメージがあるが決してそういう訳ではないのだが、フローレンスからはどうもテリアスさんは遊び人のイメージが強いのだろう。
「おっ、レイ君を取られたことでやきもちか?」
とからかうように言うと図星だったのかフローレンスは顔を真っ赤になった。
「う、うるさいです!! ほ、ほら行きますよレイ!! あとでお父様に町を案内してもらうんですから、こんなところで遊んでいる暇はないです!!」
「おっ、そうだよな~“兄と絡んでいる暇があれば彼女の私と話せってか?” 愛されているなぁレイ君」
テリアスさんがフローレンスを煽ると、更に顔を真っ赤にするフローレンス。
「本当っ、うるさいですよお兄様!! レイも行きますからね!!」
そう言うと彼女は僕の手を掴むと屋敷の中に入っていこうとする。
「わ、分かったよ。じ、じゃあテリアスさん、またあとで」
「おう、また後でな~お幸せに~」
と後ろでニヤニヤ顔のまま手を振っているテリアスさんを尻目に僕は屋敷の中に入っていくのであった。
「レイ様の御部屋はこちらとなります」
「おぉ……豪華……」
屋敷に入った僕は初老の男性に来賓用の部屋に案内されたのだが、部屋に入ると壁や家具がかなりの高級品なのがすぐ分かった。その地を治める領主の屋敷なのだから豪華なのは分かっていたが、まさかここまでとは思わず、驚く僕。
「テリアス様からレイ様の御部屋は一番豪華な部屋にとのことでした。
何でも“将来の弟だからそれぐらいの待遇は当たり前だからな”と嬉しそうに仰っていました」
「早いよ……テリアスさん……」
「レイ様とお嬢様がお付き合いを始めたと知ったときのテリアス様の喜び具合と言ったら、屋敷の外にいても聞こえるぐらい叫ばれていました」
「そんなにか……」
「テリアス様はレイ様の事を大層気に入ってらっしゃいます。それにいつもはからかっているお嬢様の事もかなり気にかけておりますので、その2人が付き合ったとなるとテリアス様の喜びとは言葉に表せないものなのでしょう」
「そう思ってくれるのは嬉しいですね」
「これからもお嬢様とテリアス様を宜しくお願い致します、それが私を始めとするこの屋敷の使用人全員の思いです」
「はい、僕の方こそ2人に愛想尽かされない様に頑張ります
ーーってそろそろ行かないとフローレンスに怒られる……」
「それはマズいですね。お荷物の整理は私どもがしておきますのでレイ様はお嬢様の元に向かってください」
と言われ僕は荷物の荷ほどきを程々にして玄関で待っているであろうフローレンスの元に向かうのであった。





