これから何をしようか
お忍びデートは今回でおしまいです。
キスを味わった? 僕達はまだ町はずれの丘にいた。
「ふぅ……風が気持ちいいなぁ……」
「そうですね、今は丁度暑くも寒くもないので丁度いい季節です。これから少しづつ暑くなっていきますね」
「うぇ……暑いの嫌いなんだよなぁ……」
今でこそ6月の中旬なので丁度いい温度だが、これから7月、8月に季節が進んでいくことに暑くなっていく。僕個人暑いのは苦手なので正直これからの季節は苦手だ。
この国、グラデニア王国は国外れにいけば雪国よりの気候や熱帯の気候だったりとそれぞれの各所で気候に特色があるが、僕達がいる首都は夏は太陽が出て暑いし、冬は雪が降って寒いという良くも悪くも四季がはっきりしている。ただこの地域は比較的涼しい地域みたいらしい。
と僕が余程げんなりとした表情をしていたのだろうか、少し笑うフローレンス。
「フフ、昔からレイって暑いの苦手でしたよね」
「しょうがないでしょ僕暑いの苦手なんだからさ……寒いのは比較的得意なんだけどなぁ」
寒ければ身体を動かして温める事が出来るが、暑いと身体を動かしても何もしてなくても結局汗をかくので夏は比較的涼しい場所を探しているようにしている。
「まぁ確かに貴方は夏と冬だと見るからに日頃の様子が違ってきますしね。
ーーでもいくら文句言っても夏は来るんですからせっかくの夏を楽しみましょう」
「そりゃそうだけど……てかまだ夏なのか……」
「どういう意味ですか?」
「あぁ、いやあのアクセルと対峙してからそんなに経ってないんだなぁって意味だよ」
彼が転校してきたのは5月の始めで、半月も経たない内に彼と対峙して勝った。それからフローレンスの過保護が始まり、ラウラの叱責もあり今、こうして彼女と付き合えているのだが、よくこんな短期間に大きい出来事が連発していると改めて思う。
「言われてみると……そうですね。意外と経ってないです」
「でしょ? あの時は死ぬかと思った」
あの時とは勿論アクセルと対峙した時だ。あの時はフローレンス達が来てくれなかったら確実に僕は今ここにいないだろう。本当にフローレンスを始めとした生徒会のみんなには感謝しきれない。
「本当ですよ、あんな大きな火系の魔法が貴方に直撃して壁に叩きつけられた時は私は心臓が止まりましたもの。今でこそ魔法無効が使えるって知ってますが……あの時は知らなかったんですから」
「まぁあの時は発動遅れて衝撃まで防げなかったけどさ隠していたことはごめん」
実際は隠していたではなくその直前まで使えなかっただけなのだが。それにあの時も僕が使ったわけではなく、僕を転生させたクソ神が使ったのだ。
「次同じような事をしたら許しませんからね? いくら私達を庇うといってもあんな無茶はもうダメです、絶対ダメです、許しません」
「分かった、分かったって。もうあんな事しないからさ」
「本当ですか……? 貴方は誰かの為なら命を投げ捨ててしまいそうなので、見ていて怖いんですよ」
僕個人、他人が傷つくのを見るぐらいなら僕が庇って代わりに怪我した方がいいと思っている。ただあの事件で僕が傷ついて悲しむ人達がいる事に初めて気が付いた。
僕が屋敷に運び出されてから、交代で見守っていた生徒会のみんな、それに父さんは仕事を無理やり切り上げて屋敷に帰ってきた。後ほど知ったのだが僕の母親は僕が倒れたと聞いた途端、気を失いかけたらしい。オピニルさんは“敵討ち”だと騒ぐハーストン家の私兵達を抑え込むに必死だったとのことだ。
「いやいやもうやらないって、大事な彼女いるしさ。この世で一番大事な彼女が泣くような事はしないよ」
「一番大事な彼女……そ、そうですか……そうなのですね……フフ、なら貴方を信じましょう」
僕が言った“一番大事な彼女”が嬉しかったのは顔を緩ませながら言うフローレンス。
……思わず“チョロい”と思ってしまったのは心の中にとどめておく。
「さて今年の夏は何をしようか?」
「そうですね……夏は美味しいごはん沢山あります」
「ご飯は必ず入るのね……そうだね、夏はこの町で祭りあって、沢山の屋台が出店するし」
毎年8月になるとこの町で大きな祭りが開催される。
日本の夏祭りにほぼ同じで、沢山の屋台が出店して、祭りの途中には花火が打ちあがる。
……流石ゲームといった感じで和洋がごっちゃまぜだ。
ちなみに浴衣もこの世界にあるのだが、ゲームの設定だと東方の国から伝わってきたという事になっている。
「はい!! ポテト、綿あめ、りんごあめ、焼きそば、イカ焼き……じゅるり、今から夏祭り楽しみです!!」
「本当に楽しそうだねフローレンス」
楽しそうな彼女を見ていると僕も楽しい気分になってくる。
「それは勿論!! 屋台の食べ物は毎年の楽しみです!!
ーーでも今年はそれ以外に楽しみがあります」
「へぇ……何があるんだい?」
「それはですね……」
と少し間を空けると恥ずかしそうに僕の方をチラッと見たあと小声で
「か、彼氏の貴方と夏祭りに行ける事です……」
そう言ってきた。
「あ、あぁ……なるほど」
思いがけない言葉を聞いたので僕もつい驚いてしまう。
まさかフローレンスからそんな言葉を聞けるとは思わなかったので喜び半分、驚き半分である。
「その……今までは幼馴染として一緒に行っていたので……今年からは恋人として貴方と行ける……のがとても楽しみです……」
「フローレンス……」
「あ、貴方はどうなんですか!? 私という可愛い彼女と夏祭りだけじゃなくて夏休みを一緒に過ごせるのですよ、嬉しいですよね? 嬉しいと言ってください、言わないと泣きます」
「何だよ、最後の脅しは……別に脅さなくても僕はフローレンスと夏休みを一緒に過ごせて嬉しいよ。そんなの決まっているじゃないか」
「そうですよね。私と一緒にいれてレイが楽しくないはずがないですよね!!」
「……ソウダネ」
少し変な間が出来てしまったのは彼女の発言に少し、ほんの少しだけ疑問に思ってしまったからだ。
「ちょっと今の間はなんですか!?」
「ナンノコトデショウ?」
「そして返事がさっきから明らかにおかしいです!!
ーーもうさっきまでの良い雰囲気が台無しですよーー!!」
とフローレンスの悲しい叫びが僕らが今いる丘に響くのであった。





