お忍びデート その1
「さてフローレンスに言われた通りに来たけど……いつもと違う服装だなぁ……」
とぼやきながら自分の服装を見る。
今日の服装はいつもの家やパーティで着るような派手な服装ではなく、同年代の一般市民がが着るような服装に伊達メガネを付けてきている。
「--お待たせしましたレイ」
「あっ、フローレンス。待ってないよ」
「ふふ、恋愛小説で定番のセリフですね」
と言うフローレンスも僕と同じように同年代の女子の一般市民が着るような地味目なワンピースにつばが大きい帽子をかぶってきた。その帽子からも彼女の綺麗な金髪が見えている。
「ねぇフローレンス」
「はい、何ですか?」
「この服装意味ある?」
「何を言っているんですか、この服装にした理由を忘れたのですか?
ーー“お忍びデート”です!!」
「……まぁ覚えていたけど」
数日前に突如フローレンスが“お忍びデート”というものをしたいと言い出した。
何でも最近読んだ小説で親同士は対立しているので堂々とデート出来ない2人が一般市民の服装をして、その上メガネやら帽子を付けたりして周りに自分達だとバレないようにしていた。
それを彼女が気に入ったらしく、“私達もしたい”との事。
「使用人に揃えてもらった服装ですけどこれも中々良いですね。これで私も普通の女の子に見えますでしょうか?」
と言いながらその場でクルっと回るフローレンス。
まぁ服装こそ普通の女の子だろうけど、彼女が元々持っている見た目のポテンシャルが全然普通じゃないし、さっきから道を行き交う人々がフローレンスに振り返ったりする。
(いやぁ……相変わらず凄いな僕の彼女は……可愛さ帽子で隠しきれてないし……)
「う、うん、見えるんじゃないかな?」
僕がそう言うと彼女は目を輝かせて喜んだ。
「やりました!! レイは……う~ん見事に同化してますね」
……そこでメガネだけで変装出来るのかという疑問は必死に考えているポンコツ状態のフローレンスを見ていたらどうでも良くなってきたので言わなかった。
「まぁフローレンスが楽しんでくれるならいいよ」
ちなみに今日の服装を選んでくれたのはオピニルさんとラウラであり、オピニルさんには町までこの服を買ってきてもらった。本当にいつも助けてもらってすみません……。
「さぁせっかくなのでデートを楽しみましょう
ーーはい、手」
と言うと僕の方に手を出してきた。要するに“手を繋げ”ということだろう。
「はいはい、分かりました」
何て言いながらも僕も彼女と手を繋げると思うと嬉しいのだが素直に喜べないのこうも変な返事になってしまう。
それからというもの僕とフローレンスは町を手を繋ぎながら歩いていた。手を繋いでいるとは言えどもフローレンスが僕の手を引きながらあっちこっちに動くものだから注意が欠かせない。
「ねぇレイ、次はあっちに行きましょう!!」
「うん、行こうか」
「では行きますよ!!」
と満面の笑みで言われたら僕に拒否権などないのである。もともと拒否するつもりはないけど彼女の笑顔を見たら何でも良くなってしまう。
「ねぇねぇレイ、あれ見てください!!」
「ん? あれは露天商だよね?」
フローレンスが指をさした方を見ると、そこには初老の露天商が地面に布を引いて、その上にブレスレット等のアクセサリーを売っていた。彼女にとってこの光景が珍しいのか目をキラキラさせている。
「私気になるので見に行きたいです。いいですよね?」
「うん、行こうか」
フローレンスから頼まれて断る訳がない僕、ほぼ即答で答えた。
「おっ、いらっしゃいお2人さん。ゆっくり見ていきな」
僕達を見ると露天商がにこやかな笑顔を向けてきた。
改めて売っている物を近くで見ると、ブレスレットや指輪など結構な種類が売っており、値段も結構リーズナブルである。一応大貴族の息子であるがお小遣いはそんなに多めに貰えるわけではないので値段はリーズナブルな方がとても助かる。
(まぁ何かこのデートでフローレンスにあげたいし、少しは頑張るか)
「色々な物が売っているんですね……どれも手が込んでますね……」
「可愛い嬢ちゃんにそう言われると嬉しいね~、全部一から俺が作っているから尚更な」
「全部手作りなんですか!? 凄いです!!」
「これが手作り……確かに凄い……」
「それはそうと……お2人さんはアレか、恋人って感じか?」
「あっ、見えますか?」
「ち、ちょっとフローレンス!? それ言わなくてもいいんじゃないかな?」
「それにメガネに、嬢ちゃんの方は帽子をしっかり被っているのを見ると……
ーーさてはお2人さん、お忍びってやつかい?」
「えへへ……」
とまんざらでもない笑顔を浮かべるフローレンス。
そんな笑顔の彼女とは逆に僕は頭を抱えた。
「……あぁもうダメだこりゃ、お忍びの意味がなくなったじゃないか」
お忍びというのは言わないで他の人にバレないようにするのが普通のはずなのにそんなまんざらでもない笑顔を浮かべたら意味がないだろう。
……そもそも“お忍びデートしたい”って言いだしたのは彼女のはずなんだよね。
「ほうほう~そうなのかお忍びなのか……
ーー坊ちゃん大変そうだなぁ」
「最近色々と慣れました……色々と環境が変わったので」
主に最近増え始めたフローレンスのポンコツ状態のせいで。
「偉いですね、レイ。新たな環境にすぐ慣れるなんて」
「はぁ……」
「あ、あれレイ……? なんか前にも見たような呆れがこもったため息ですよね、今の?」
「気のせいだよフローレンス」
「そ、そうなんですか……分かりました、貴方がそう言うのでしたら。
ーーところでこの中で何がいいと思いますか?」
と布に広がっているアクセサリー達を指さして言うフローレンス。
正直、彼女は見た目がとても良いので何でも似合うので“似合うの選んで”は結構困る。
(綺麗な長髪に髪留めは似合うよなぁ……あっ、首元にネックレスもいい、はてどうすればいいのか)
「迷うな……フローレンスは可愛いから何でも似合うからね」
「も、もぅ……いきなりは心臓に悪いです」
「僕はいつも思った事を出来るだけ早く言うようにしてるからね。フローレンスは可愛いのは周知の事実だろうけど僕は改めて可愛いなって思っているんだ」
「そ、そういうところが反則なんです!! ズルいです!!
レイも私に照れてください!! 私だけこんなに照れるのは納得いかないです!!」
「そんな理不尽な……」
「お姉ちゃん権限です!!」
「姉じゃないでしょ!?」
「ブーブー」
とほほを膨らませて抗議の意思を示すフローレンス。
なお彼女が抗議の意思を示す際はいつもの会長モードだと理路整然して話すが、ポンコツモードだとご察しの通り行動や言動がかなり幼くなる。
「そんな文句の言い方をしていたら尚更、姉の権威が落ちていくと思うんだ」
「ーーおいおい、見ているこっちがご馳走様だなお2人さん」
「「あっ」」
露天商の人に言われて、はっとなり周りを見渡すと周りの人達が僕達を暖かい目で見ていた。
そう言えばここは露天商の店の前だし、よく考えたら街中なのを完全に失念していたことに気づく僕。
「しまった……フローレンスがポンコツするから僕がしっかりしないと思っていたのに……これだと全く意味がないじゃないか……!!」
思わず頭を抱える僕。
彼女がポンコツ化することが分かっていながら、止めることをしなかったことに僕は落ち込んでいる。
「あ、あれ……レイ、今私がポンコツって言いましたよね?
前から言おうと思っていたのですが貴方って私に対してたまに当たりがキツい時ありますよね?」
「くそっ……僕がいながらなんてことを……!!」
「あ、あのレイ、少しは私の話を聞いていただきたいです……」
「この僕がいながら……!! おのれ……諮ったな……!!」
「いや、あのレイ、誰も諮ってないと思いますよ? 単純にレイのじばーー」
「ーーフローレンスもだからね? というか僕1人のせいにしないでもらえるかな?」
「あっ、はい……ごめんなさい……」
「ハッハッハッ!! 結局またいちゃつくのか、お2人さんは!!」
「「あっ……」
再び露天商の方に言われて恥ずかしくなる僕達。
「まぁ仲がいいのは良い事だ、周りを気にせずに仲良く出来るのは若者の特権だから大目に見るとしよう」
「本当にすみません……あとで僕がきつく言っておきますので……」
「あっ、この後私が怒られるのは決定事項なんですね……
ーーレイにはお姉さんが何か買ってあげます!!」
「僕を物で釣ろうとしない……」
というか僕はそこまで単純な性格に思われているのだろうか。
流石に物で釣られる程、単純ではないつもりだ。
……いや、本当だからね?
「本当に仲が良いんだな、お2人さん。
ーーそんなお2人さんには、このネックレスをお勧めしたいね」
露天商が僕達の方に出してきたのは先端に半円の飾りがついたシルバーチェーンのネックレスだった。多分だがあれは合わせると1つの丸になるのだろうと思う。
「これは元々カップルに売ろうと考えていたんだが、丁度お2人の話を聞いていたら妙にお2人さん以外にこれが合わない気がしてきてな、値段はサービスしてやるが?」
「そうでーー」
「ーーレイ!! 私達お似合いですって!!
ーー私買います!!」
「フローレンス!? 決めるの早っ!?」
この瞬間、僕は絶対フローレンスを1人で買い物に行かせない事を決めた。
1人で行かせようものなら色々と買わされそうなので。
「まぁまぁ坊ちゃん。何となくだがお2人さんは学生だろ?
ネックレスなら制服の下につけてもそう簡単にバレないと思うが、どうだ?」
指輪やイヤリングはすぐ見た目でバレるだろうけど確かにネックレスなら制服の下に隠しておけるし、つけておけばいつもフローレンスと一緒にいれるような気持ちになれる。
(それに僕もフローレンスにデート記念で何か買ってあげたいし……)
「分かりました、買います。
ーーフローレンスの分も一緒に買います」
「ちょっとレイ、ここはお姉さんの私が買います!!」
と何故か僕より前に出て財布を出すフローレンス。
「ここでお姉さん関係ないでしょ、彼氏の僕が払う」
今度は僕がフローレンスより前に出て財布を出す。
「なら彼女の私が払います!! 彼氏のレイは大人しく財布をしまってください」
「それを言うならフローレンスも財布しまってよ」
「嫌です」
「僕だって譲らない」
「あのお2人さん、ことあるごとに痴話げんかするんだな……」
「「だってあっちが頑固だから!!」」
「今度はシンクロなんだな……」
「「あっ……」」
「なら互いのを買うのはどうだ? そうすればお互いそこまで問題が無いと思うが?」
「「確かに……」」
露天商の人に予想外の解決策を言われて今更ながら納得する僕達であった。
次回にも続きます





