愛おしく思う
フローレンスと付き合うようになってからしばらくして……
「いらっしゃいレイ」
「おじゃまします」
僕はフローレンスの部屋に入った。
彼女の部屋は僕の部屋とは違い、かなり整理整頓されており壁に付いている本棚には沢山の本がサイズやジャンルによって綺麗に分かれている。
フローレンスの部屋には小さい頃から結構な頻度で呼ばれているが相変わらず慣れない。
(何かこう……いい匂いがするというか……ってダメだダメ!!
フローレンスにこんな思いを悟られるわけにはいかないね)
と頭の中に出てきた邪な考えを消した。
「ん? どうしたのレイ?」
「いや、何でもないよ」
僕の考えていることは知らないだろうフローレンスが尋ねてくると僕は何事も無かったかのように答える。
出来るだけ表面上は紳士として頑張ろう。
(そりゃ……本心は色々したいけど……フローレンスはそんな事考えてないだろうしなぁ……)
そして彼女に呼ばれるまま僕達は向かい合わせで座った。
「さぁレイ、本の事でお話しましょう!!」
と言うとフローレンスはテーブルに置いてあった本を手に取り、見せてきた。
「あっ、最近発売した新刊だね。買ったんだ」
フローレンスが見せてきた本は僕も好きな作家のシリーズ物の最新刊だ。
丁度発売日は学園がある日だったので誰かに買って来てもらおうと思ったのだが、学園から帰ると既にオピニルさんが買って来ていて少し驚いた。
「えぇ買いました。多分レイも買うだろうと思ったので私が買わないわけないですよ
ーー今回も良かったです」
「うん、僕も思うよ」
今回は前刊でさらわれてしまったヒロインを助けるために王子が今まで反目していたライバルと手を組んで敵の本拠地に乗り込んで戦いをするいわばバトル回であった。
「今までライバルだったのに共通の目的のために手を組むなんてカッコいいです!! 憧れます!!」
「フローレンスって恋愛小説も好きだけど意外とそういう熱い展開も好きだよね」
「熱い展開が嫌いな人はいないですよ!!
ーーレイ好きですよね!?」
「う、うん……好きかな……」
フローレンスの勢いに押され気味の僕。
「ライバルとの対決もいいですが……協力もいいものです」
「そう言えばさフローレンスにライバル視している人っているの?」
「はい?」
「いや、ふと思っただけだけどさ。フローレンスにライバル視している人いなさそうだからさ気になって」
フローレンスはあまりそういうの気にしなさそうだからいないだろうと僕は軽い気持ちで言ったのだが当の彼女は結構真剣な表情をしていた。
「いましたよ……結構大勢」
「いたんだ意外……」
しかも1人ではなく大人数いたということに驚く僕。
フローレンスはたまに見せるポンコツ化が無ければ完璧超人に近い人間なので人をあまりライバル視しないと思っていたので結構な驚きである。
「えぇ少しでも油断すると危なかったですね……全く油断も隙もあったもんじゃありません」
彼女にそこまで思わせるなんて一体どんな人なのだろうかとても気になる。
「ねぇその人って学園の生徒なの?」
「え、えぇそうですね……」
「気になるなぁ~フローレンスにそこまで思わせるなんて会ってみたいな」
「会ってみたいというか……レイは既に会っているんですけどね……」
「そうなの? そうなんだ……凄い気になる……」
僕が今まで会ってきた人の中に彼女にそこまで思わせるような人がいたのかと思うと、もっとしっかり周りを見ていれば良かったと今更ながら後悔する。
「まぁレイが気にする必要はありません」
「え、でもーー」
「大丈夫です」
「い、いやーー」
「大丈夫です」
「あっ、はい……分かりました」
またもやフローレンスの勢いに負けて何も言えなくなってしまう僕。
……というかそんなに触れて欲しくないのだろうか。
「レイは良い子ですね。それを言うならレイにはライバル視している人いないのですか?」
「僕?」
「えぇレイです」
「僕か……」
と言われたので自分が過去にライバル視した人を記憶の中で振り返ってみる。
すると自分でも意外と思うぐらいいたことに驚く。
「意外といるね……例えばチャスとか」
「アルマンダさんですか?」
「うん、だってチャス料理上手いから羨ましいと思ったし、アルやミラには魔法も使えるのに体術が上手くて羨ましいなと日々思っているよ」
チャスは飲食店の娘だからしょうがないと言っても、この世界で転生して同学年で料理の腕で負けたのが初めてだったので悔しかったし、アルやミラに至っては体術でこそ何とか互角に戦えるが2人とも当たり前の様に魔法を使ってくる。ミラはシンプルに運動能力の強化、アルに至っては高火力の攻撃系の魔法を使ってくるので正直とても羨ましい。
「レイもライバル視することもあるんですね……」
「僕だって人間だからねそりゃ。
ーーあっ、でもこれからは逆にライバル視されることが増えるのか……」
「増える……? ってどういう意味ですか?」
「だってフローレンスっていう可愛い彼女が出来たんだよ? 学園中に男子からライバル視されるにきまっているじゃないか」
「か、可愛いですか!?」
「うん、フローレンスって可愛いし、それに僕が今まで学園で良い噂をされてこなかった人間だからさ尚更恨まれるんだよな……」
なんせ付き合い初めてから僅か数日で男子から向けられる憎しみの視線が前にも増して増えた気がする。このままだといつ刺されるか分からないので制服の下に雑誌でも入れておこうかと真剣に悩んでいる今日、この頃。
「まあみんなから認めてもらえるようにがんばらーー
ーーってフローレンス?」
「えへへ……レイに可愛いって言ってもらいました……!!」
手を頬に当てて惚けているフローレンス。
「お~いフローレンスさん?」
「はっ!?
ーーコ、コホン、切磋琢磨する方がいるのは良い事だとお姉さんは思います」
「……話誤魔化したね、しかも無理矢理」
「気のせいですよ、レイ。
ーー私寂しくなったので隣に行きます」
と言うとフローレンスは僕の向かいの席から立ち上がり、僕の隣に座ってきた。座った瞬間、ふわっと良い匂いがしてくる。
「相変わらず変な理論だよね、まぁ僕の隣で良ければどうぞ」
僕がその様に言うとフローレンスは少しムッとした表情を浮かべて口を開いた。
「“僕の隣で良ければ”じゃないんですよ、貴方の隣だからいいんですよ?
私が貴方が好きなんです、好きな人の隣にいたいと思うのは当たり前なんです」
「ごめん……」
「それに貴方はすぐに謝る癖を直しましょう。
謝ってばっかりだと貴方の謝罪の価値がどんどん下がっていきますから気をつけた方がいいです」
「本当にごめん……」
「ほら、言った側から……もうレイは……」
と言うとフローレンスは僕の腕に自分の身体を抱き寄せてきた。
「フローレンス……?」
「貴方はもっと自分に自信を持ってください。レイは自分が思っている以上に凄いんですよ?
私はそんな貴方を好きになったのですから頑張ってください」
「うん、少しずつだけど僕なりに頑張ってみるよ」
「そうです、その調子です。
ーーお姉さん頑張ったので、頭を撫でて欲しいです」
「唐突に自分の主張入れてくるよね……ほんと」
「頑張ってお姉さんらしいことを言ったんですからその対価を要求するのは当たり前です。
さぁ私の頭を撫でてくれていいんですよ、いえ撫でなさい」
すっと僕の前に頭を出してくるフローレンス。心なしか期待している表情である。
「最後に至っては命令形じゃないか……はいはい」
僕は抱き着かれていない方の手を使って、フローレンスの頭を撫でた。撫でるとさらさらとした彼女の髪が手に触れてくすぐったく感じる。そして撫でているフローレンスの表情を見ると……
「わぁ……えへへ」
さっき以上に惚けた表情をしているが、そんな彼女がとても愛おしく感じる。
(フローレンス可愛いなぁ……これが人に恋するって事なんだろうな……)
今まではただ普通に可愛いとしか思ってなかった彼女の笑顔だが、今では心の底から愛おしいと思える。そしてこの笑顔を何があっても守りたいと思う。
「もっとです、もっと所望します」
「うん、分かったよ」
そんな彼女から所望されたのだから断るという選択肢はない。
結局フローレンスの気の済むまで僕は彼女の頭を撫で続けるのであった。





