彼女の家に報告
生徒会の面々から質問攻めに遭いながらも祝福された日の夕方……
「--やぁいらっしゃいレイ君」
僕の目の前には穏やかな笑みを浮かべた壮年の男性が立っていた。
「こ、こんにちは……」
その人物を目の前にして僕は緊張していた。僕が緊張しているのが分かっているのか
「そこまで緊張しないでいいんだよ、さっ座りなさい
ーーフローレンス、お茶を持ってきてくれ」
「はい、かしこまりましたお父様。レイ少し待っててください」
というとフローレンスは部屋から出て行った。
僕の目の前にいる人物というのはフローレンスのお父さんであるアルク・ライシング。
お父さんとは昔から親しくしてもらっているのもあって本来ならあまり緊張しないのだが今日は違う。
「にしてもレイ君」
「は、はい!?」
「そこまで緊張しないでいいんだよ、いつもみたいに気軽に遊びに来る感覚でいいんだよ?」
「い、いや……流石に今の状況的に……いつもみたいには出来ないですね……」
と僕が言うとフローレンスのお父さんは僕が緊張している理由を察したらしく、ポンと手を叩いた。
「あぁ……フローレンスと付き合うことになったからかい?」
「ま、まぁそんな感じです……」
「別に気にしなくていいんだよ?
ーー大方、フローレンスが呼んだのだろう?」
「はい……断れなかったです……」
学園からの帰り道にフローレンスから“付き合い始めたのですから私の両親に挨拶しませんか?”というとんでもない誘いを受けたので最初は断った。だがポンコツから復帰したフローレンスは流石才女と呼ばれるだけあってあの手この手で逃げ道を塞がれた結果、現在に至るのである。
「あの子は……全く……あとで私が言っておこう、本当にすまない」
「い、いえ!! いいですよお父さんは悪くないですし!!」
「“お父さん”か……はて“お義父さん”と呼ばれる日はいつ来るのだろうか……楽しみだ」
「……」
この親あってあの子供ありなんだと僕は思う。
「--お父様、お茶をお持ちしました。レイお待たせしました」
「あぁ、ありがとうフローレンス」
「フローレンスありがとうね」
「いえ、大丈夫ですよ」
とフローレンスは優雅な手つきで僕とお父さんの前にお茶を置くと僕が座っている二人掛けの椅子に座ってきた。
……何故か僕にぴったりくっついて座ってくる。
「ほぉ~見せつけてくれるじゃないかレイ君?」
ニヤニヤしながら見てくるフローレンスのお父さん。
(絶対今の状況楽しんでるだろこの人!!)
内心お父さんにツッコミを入れながらも、僕は表情を崩さず隣に座っている彼女に声をかけた。
「あの……フローレンスさん?」
「ぷい」
“さん付け”したのがお気に召さないのか僕から顔を背けるフローレンス。
というかわざわざ“ぷい”と効果音を出す必要があるのかを聞きたい。
「はぁ……フローレンス?」
「はい、何ですか?」
名前で呼ぶと笑顔に戻りいつもように喋ってくる。
……名前で呼んだ瞬間、一瞬顔がパァとなったの僕は見逃さなかった。
「何でぴったりくっついてくるの?」
「恋人なんですから当たり前です」
「ごめん、根拠が全く分からない」
「では……彼女・彼氏の関係なので?」
「いや分からないから……」
僕を屋敷に連れてくるときの才女はどこにいったのやら、良く分からない理論を振りかざしてくるフローレンス。
「こらこらフローレンス、レイ君が困っているじゃないか。それぐらいにしておきなさい」
僕達の状況を見たお父さんがたしなめようとしたのだがフローレンスは不思議そうな表情を浮かべてお父さんの方を向いた。
「はい? お父様は何を言っているんですか? 私は何もしてませんよ?」
「……私の娘が本当にすまない」
お父さんは僕に座りながら深々と頭を下げてきた。
それもそうだろう、たしなめるつもりで娘に言ったのに当の本人は全く自覚がないのだから。
「いえお父さんは悪くないと思います……」
「そうですよお父様、私もお父様は何も悪い事をしてないですよ」
「……レイ君、こんな娘だがこれからも本当にお願いしたい」
「さっきよりもお父さんの必死さを感じます……」
普通なら“娘を渡さん!!”というはずな場面なのに何故か逆なことを言われる僕であった。
「--ほぉ、昨日フローレンスを呼んだのは告白するためだったのか。昨日帰ってきた娘はがずっとニヤニヤしていたので何となく察したがまさか本当にそうだったとはな」
「はい、ぼーーいえ私が」
「いいんだよレイ君、いつものように話してくれて」
「お気遣いありがとうございます……」
「それでレイ君はフーレンスに“月の丘”で告白したんだね、凄いじゃないか。
元々君の事は偉いと思っていたが今回の件で私の中での君の評価は右肩上がりだよ」
「お父様もそう思いますよね、レイ凄いんです」
「……ハハハ」
僕個人、あそこで告白しようと思った理由は自分に勇気が欲しかったからであり、結局あの場で固まってしまったので僕の目論見は完全に失敗してしまった。
なのでここまで褒められるとある意味悲しくなってくる……。
「でもお父さん」
「ん? なんだい?」
「僕で良いんですか……?」
「うん? どういう意味だい?」
「い、いえ……ただ娘さんの交際相手に僕なんかでいいのかと思いまして……」
「いきなり何を言うんだい君は?
私は娘が選んだ人を尊重するし、あのアーク先輩の息子だから大丈夫だよ」
フローレンスのお父さんは僕の父さんの同じ学園の後輩であり、そこにミラのお父さんも入った謎の3人は不思議なことに結構仲が良い。今でも結構3人で会っていたりする。
「それに私はあまり付き合いのないくせに見合いを持ってくる親戚なんかよりも全力でレイ君を推すね」
「見合いですか!?」
驚愕の事実に驚く僕。
そんな僕を尻目にお父さんは話を進める。
「あぁ、一応ライシング家もそれなりに大きいから関係を持ちたい輩は沢山いる。
関係を手っ取り早く作りたいなら婚姻関係を結ぶのが速いと考える連中もいるからな」
「な、なるほど……」
まぁ僕の父親と母親もお見合いだったのでこの世界では驚く理由もない。
ライシング家はハーストン家と同じぐらい力を持っている貴族なので、その恩恵にあやかりたい連中は沢山いるだろう。それにフローレンスは容姿端麗のため見合いが引っ切り無しなのも当然だ。
「まぁ今まで私が全部断ってきた。理由は適当に娘が未成年だからと適当な理由をつけて。
ーーなんせ娘が君の事を気にいっていたのは丸わかりだしな」
「……」
「だって娘があそこまで頑張ったのは君、レイ君のおかげだからな。ことあるごとに“レイ君のために頑張らないと”って日々頑張っていたのを見ていたしなぁ~」
「そうなんーー」
「ち、ちょっとお父様!? それは言わなくていいですよ!!」
僕が言い切る前にフローレンスが立ちあがり叫んだ。
その反応を見た彼女のお父さんは座りながらニヤニヤしながらも続けた。
「おっ、どうやらその反応を見ると君には言ってなかったのか。いらないお節介してしまった」
「“いらないお節介”じゃなくて余計です!!」
ここまで感情を露わにするなんて余程話されたくなかったことなのだろう。
……というかこの人楽しんでるだろ、この状況。
「フローレンス……?」
「はっ……!? れ、レイ、これには事情があるんです!!
今度話しますからいいですね!!」
「は、はい……」
フローレンスの勢いに負ける僕。
彼女はそう言うと少し不満気に乱暴に座り、そしてまた僕にぴったりくっついてきた。
「ハッハッハッさっそく尻に引かれている様じゃないか
ーーところでレイ君」
「はい、何でしょうか?」
「今日、家で祝賀会を開催するのだが参加しないか?」
「祝賀会ですか? ちなみに何を祝うんですか?」
「それは勿論
ーー君とフローレンスが付き合った祝いに決まっているじゃないか」
「へぇ……はっ? えぇぇぇぇぇえ!?」
「おう、予想通りの反応ありがとうレイ君」
「いやいやそれだけのことで祝賀会開きますか普通!?」
「“それだけ”ではないさ、ハーストン家とライシング家のこれからの両家の関係強化を祝わなくてはな」
「いやいや昨日ですよ付き合い始めたのは!!」
「あぁ昨日フローレンスが帰ってきて、話を聞いてからすぐに開催することを決めたからな」
ーーちなみに一番喜んでいたのは娘だ」
「フローレンス!?」
隣に座っているフローレンスを見ると、彼女は少しの間があり
「……ニコッ」
笑顔を向けてきた。
……あっ、この笑顔図星を付かれた際の笑顔だ。
「その微笑み止めて!?」
結局僕はフローレンスの屋敷で行われた祝賀会にほぼ強制参加させられたのであった。





