告白
ラウラに別れを告げ、今までにないぐらいのスピードで走った僕は姉さんの屋敷の前に着くと、屋敷の人に姉さんに会いたいとの旨を告げるとその人は“お嬢様呼んできますね”と屋敷の方に戻っていった。
「ふぅ……少し疲れた……にしてもここの人達、僕の事信頼し過ぎだと思うんだよね、ほんと」
昔からここに遊びに来ているからか、ここの使用人の方も僕の事をしっており殆ど顔パスに近い状態である。普通顔見知りでも夕方にいきなり“用があるから呼んで欲しい”と言われたら少しは疑うと思うのだがさっき僕がそう言ったら何も聞かれなかった。
(まぁそれは僕がかなり信頼されているってことだよね、今まで結構な回数遊びに行っていて良かった……)
なんて考えていると制服のまま姉さんが屋敷から出てきて、僕を見つけると小走りでこちらの方に向かってきた。
「姉さんごめんね、いきなり呼んじゃって」
「私は構いませんけど……レイ君どうしたんですか、こんな時間に……?」
「ちょっとね……さっき別れ際に言い忘れた事があって、それを思い出してさ」
僕がそう言うと姉さんは不思議そうに首を傾げた。
そのふとした行動にも可愛いと思ってしまう、これが恋をするということなのだろうか。
「“言い忘れた”ですか?
それって今日じゃないとダメですか?」
「今日じゃないといけないかな……主に僕の気持ち的に……」
多分、今日言わないと臆病な僕の性格的にずっと言えなくなってしまい、せっかくラウラに発破かけられたのが無駄になってしまうだろう。
「そうなのですか……分かりました、では私の部屋でお話しましょうか」
「ね、姉さん、1つ提案なんだけどさ歩きながら話さないかな?」
「まぁ……いいですよ歩きながら話しますか。
ーーでは、少し外に出ます。お父様、お母様にお願いします」
姉さんは自分を呼んできた使用人に外出する旨を告げた。
使用人はそれに対して軽くお辞儀をした
「かしこまりました。
レイ様、お嬢様をくれぐれもお願いします」
「わ、分かりました、姉さんは必ず僕の命にかけても守ります」
僕が緊張しながら返事をすると使用人は屋敷の方に戻っていった。
「さて、レイ君話ってなんですか?」
「そ、それなんだけど……実は行きたい場所があってさ……そこでもいいかな?」
実は屋敷に向かう最中に自分なりに告白の段取りを立てた。
まぁ上手くいくかと言われたらそうではないけど決めたのだから行くしかない。
「はい、いいですよ。
ーーちなみにどこに行くんですか?」
「あっ、そ、それなんだけどーー」
と僕は姉さんを連れて、目的の場所に向かうのであった。
「こ、ここは……“青い月の見える丘”ですよね……」
僕が姉さんを連れてきた場所、それはこのゲームの名前の由来であり主人公がヒロインに自分の思いを告げる場所である“青い月の見える丘”だ。
この丘は町の少し外れにあり、ここで告白をして結ばれた2人はずっと一緒にいられるというありきたりなジンクスがある場所であり、町の人達の中では“月の丘”という愛称で親しまれている。
「うん、ここだったら僕勇気を出せそうなんだ……」
「ゆ、勇気ですか?」
「ぼ、僕さ……姉さんも分かっていると思うけどとっても臆病なんだ
こ、こういう場所なら僕でもゆ、勇気出せるかなって……」
僕は今も昔もかなり臆病だ。
しかも今から僕が行うことはこれまでの姉さんとの関係を一転させてしまうことだ。
そんな事をすると考えただけで足の震えが止まらない。
「レイ君……」
「そ、それで……僕は……え、えっと……その……」
(だ、ダメだ……さっき歩きながら考えた言葉が出てこない……)
ここに向かう道中で告白の文を考えていたのだが、姉さんの前に立って“さぁ今から告白”って考えた途端、せっかく考えた文が頭の中から消えていった。それとは逆に身体の震えはさっきよりも増している。
(あっ……マズい……昔からの癖か……)
僕は前世の時から緊張すると上がってしまい上手く人と話せない癖があり、こっちの世界に転生して少しは治ったと思ったのだが、どうやら全然治ってないみたいである。
(結局僕は転生しても言いたいことが言えない僕のままなのかよ……ちくしょう……!!)
変わらない自分に失望していると、不意に僕の手を誰かの手が優しく握ってきた。
そんな事を今出来るのは1人しかいない。
「--レイ君」
「ね、姉さん?」
姉さんは僕の手を優しく握ると穏やかな笑顔で僕に言ってきた。
「大丈夫よ、レイ君」
「な、何が?」
「私は貴方のどんな言葉を全て受け入れます。
臆病でも私は貴方自身の言葉を聞きたいです」
「……」
「だから心配しないで、レイ君が素直に思っている事を言ってくれれば大丈夫です」
「姉さん……うん、分かった」
(本当に僕って馬鹿だな……姉さんがこんなことで僕に失望したり嫌ったりしないって分かっていたのに……何でそこまで頭が回らなかったのかな……)
でもその代わりに決心がついた。
ここでどうなっても僕は悔いはしない。
ーーあとは実行するのみだ。
「フローレンス・ライシングさん」
僕は姉さんの手を握り返すと彼女をもう一度見つめなおした。
「はい」
(言いたいことは沢山あったけど……ここは僕が思う事を真っすぐ言おう!!)
「僕は貴方が好きです
貴方さえ良ければ僕の彼女になってください」
僕がそう言い切ると、姉さんは目が少しうるっとなり顔をほのかに赤くして頷いた。
「はい、私でよければ。
レイ・ハーストン君、私を貴方の彼女にしてください」
「えっ……本当!? 本当に良いの!?」
まさかの“はい”という答えが返ってきたので驚いてしまった。
さっきまでの緊張はどこに行ったのやら、あまりにも驚きが強すぎたのでさっきとは違う意味で身体の震えが止まらない。
(えっ!? ちょっと……えっ!? ま、ま、まさかの告白オッケーなの!?
う、う、嘘でしょ!? あ、あのフローレンス・ライシングと付き合えるの僕!?)
まさか好きなゲームのキャラと付き合えるなんて思わなかったので心臓のバクバクは今まで一番激しい。
「ち、ちょっとレイ君!? その反応は雰囲気が台無しですよ!!」
さっきまでほのかに赤くしていた顔から一転、急に怒り出す姉さん。
……なんでだろうか怒っている姉さんも可愛く見える。
「ご、ごめん姉さん!! そ、そりゃ確かにムード台無しかもしれないけどさ……まさか本当になってくれるなんて思ってなかったからさ……つい……」
僕がそう言うと姉さんは大きくため息をついて呆れた様子で僕に言ってきた。
……今日だけで僕は一体何回人に呆れられるのだろうか。
まぁそんな事をする僕が悪いのだけど。
「レイ君……貴方って本当に鈍感というか唐変木ですよね……」
「うん……ラウラにもよく言われる……」
何ならラウラだけではなく父さんや母さん、オピニルさんにまで言われている。
「私、結構貴方にアピールしていたんですよ?
それを貴方は華麗にスルーというか全く気が付いていないですし……」
「そうだったの……? でもなんで僕なんかを……」
正直、僕には人に自慢できることは殆どと言っても過言ではないぐらい無い。
それに比べて姉さんは超ハイスペック人間だ、そんな人が僕のどこを好きになるのか分からない。
だが姉さんは僕がそう言うと少し顔をムスッとした表情になった。
「こら、レイ君。むやみに自分を卑下するのはいけませんよ。
ーーそれに私の好きな人が自分を卑下しているのは見ていてあまり良い気分じゃないです」
「あっ……ごめん……でも本当に姉さんは僕のどこを?」
と僕が言うと姉さんは優しく話しかけてきた。
「私は人に頼るの苦手です。
そんな私を貴方はいつもさりげなく私のフォローに回ってくれて倒れないように助けてくれましたね」
姉さんは周りに比べて要領が良く、ハイスペックなので周りの助けを必要じゃないと思われがちなのだが、彼女も人間なので当然疲れるし1人でやれることには限りがある。姉さん自体も周りからそう思われているのが分かっているのか助けを自分から求めない。
「まぁ僕に出来ることって言ったら姉さんが倒れないように見張るぐらいだし」
そんな状態になる前に僕は自分が出来そうな事をやっていき、出来るだけ姉さんの負担を減らすように僕なりに考えて行動していた。
……まぁ僕が出来ることなんてたかが知れているが。
「それにみんなが私を優秀な生徒会長であることを当然としていく中でレイ君は励ましたり褒めてくれましたね? その行為でどれだけ私が救われたか……貴方は知らないのでしょうね」
「……ごめん、全く考えずに行動してました」
「い、いえここは逆に考えて行動していたら策士だなと思いますけど……流石レイ君だなと思ってます……お姉さん天然の貴方が恐ろしいです」
「というか前から思っていたんだけどどうして、僕の前でお姉さんぶろうとするのさ?」
「だってレイ君は年々かっこよくなっていくじゃないですか……お姉ちゃんぶろうとしても貴方を見るだけでお姉さんじゃなくて1人の女の子になっちゃんですよ……だからお姉さんぶらないといけなくて……私ってかっこ悪いですよね……」
「それはない!!」
「レイ君……?」
「だ、だって僕は姉さんが誰よりも魔法や運動を頑張っていたのを知ってるし……それを僕はある意味一番近くで見てきたんだし……それにそんな事いったら僕なんて事あるごとに情けないところを見せてばっかりだし」
ちょくちょくテストの補修は受けるし、学園では前までは問題児扱いされ、ことあるごとに失敗して姉さんを始めて周りの人達にカッコ悪い場面を見せてばっかりである。
「レイ君、それは違いますよ」
「えっ?」
「確かに貴方は申し訳ないですが魔法は使えませんし、あまり要領がいいとは言えないです。
でも貴方は何事にも一生懸命に取り組んで、目の前で困っている人がいたら自分の損得なんて考えずに助けて、人の幸せを自分の事の様に喜ぶ、そんな貴方を私が好きなのです」
「姉さん……」
「あ・と、いつまで私の事を“姉さん”って呼ぶつもりなんですか?」
「あっ……
ーー分かったよ、フローレンス」
僕が姉さーーフローレンスと呼ぶと彼女は顔を真っ赤にしてうつむいた。
「う、うぅ……いざ言われると恥ずかしいですね……レイ」
「僕の呼ばれ方は今までとあまり変わらないなぁ……」
なんせ今までの呼び方から“君”が抜けただけだし、なんならチャスやミラからはいつもの呼ばれ方なのだからそこまで新鮮味がわかない。
「いいんですよ、レイ。こういうのは気分ですから楽しみましょう」
「そうしようか、じゃあそろそろ帰ろう?」
「ま、待って……ください」
僕が帰ろうとその場を去ろうとしたところフローレンスは僕のブレザーの袖を掴んできた。
なんだろうと思い僕が振り向くと彼女は少しあたふたしている。
「え、えっと……そのですね……」
どうやら袖を掴んだがこれからどうしようかと悩んでいるようである。
……いつものフローレンスらしくないがそれも今の僕には愛おしいと思う。
(というかフローレンスが何をしても可愛いって思って許しちゃいそうだな……僕)
「どうしたの?」
「その……私達付き合い始めたじゃないですか?」
「うん、僕が告白してフローレンスが了承してくれたね」
あの僕の勇気を振り絞った一世一代の告白が無かったことにされたらしばらく僕立ち直れない。
「だ、だからこういう場合、やることあるじゃないですか……あの……その……小説でよくあることを……付き合った男女がやること……」
フローレンスにそう言われ、彼女が欲していることが想像出来た。
……多分、唇と唇を合わせる“キス”というものだろう。
「あっ……そうだね、フローレンスこっち向いて」
「はい……」
彼女は僕の方を向くと目を閉じた。
顔のそれぞれのパーツが整っている顔に自分の顔を徐々に近づけていき……
「ん……」
そして自分の唇を彼女の唇に合わせた。
まるで同じ人間のものだと思えない柔らかさであり、ずっと触れていたいものである。
「ふぅ……」
「キスってこんな気持ちのいいものだったんですね……」
「うん、そうみたいだね。
ーーねえフローレンス」
「何ですかレイ?」
「これから彼氏として宜しくね」
「はい、私もこれから彼女として宜しくお願いします」
こうして作中随一の嫌われキャラの僕ことレイ・ハーストンとゲームのメインヒロインであるフローレンス・ライシングは付き合うことになった。





