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英雄がいない日

久しぶりの更新です

 

 レイとアクセルとの戦いから数日、国中どことなく暗い雰囲気が漂っていた。


 今回の戦いの英雄であるレイ・ハーストンはアクセル・フォンとの戦いで行方不明になってしまったからである。脅威であったアクセルは倒されたが倒した本人のレイは行方不明、ハーストン家の私兵、王国の捜索隊、学園の有志等々、多くの人間が捜索したが両者ともに手がかりすら見つからなかったのである。そのためか王国内では


“レイ・ハーストンはアクセル・フォンと相打ちになった”


と噂されるようになり、王国内ではレイは死亡という扱いになり始めていた。


国全体が暗い雰囲気が漂ってその暗い雰囲気は学園にも広がっていた。


「失礼します

ーーおやアルマンダ殿とアリーヌ先輩は既にいましたか……」


「うん、先に来て少し整理していたんだ。ラウラは職員室だ、他の子達は……まぁ数日前から同じ感じ」


 今生徒会室には私、ミラ、アリーヌ先輩がいる。ラウラは先生に呼ばれて今はいないけど後で戻ってくるが、他の役員はレイがいなくなったことが結構精神的にきている様でしばらく休みように伝えた。人数んがいない分は元役員のアリーヌ先輩が手伝ってくれているので何とか回っている。


「そうか……」


 そう返事をするミラの声音も暗い。顔には疲れが出ている。彼女もレイがいなくなって辛いのだろう。それでも生徒会の仕事をこなしてくれるのだからとても助かる。なんて思っていると臨時の席で書類を確認していたアリーヌ先輩が声をかけてきた。


「2人も休んだのかしら? 今日はお姉さんに任せて帰ってもいいのよ?」


 本当にこの先輩には感謝しかない。


「いえ流石に先輩が仕事をしている中、後輩の私達が返る訳にはいきません」


「そうですよ~久しぶりにアリーヌ先輩の仕事ぶりを近くで見れるんですからサボる訳ないじゃないですか~さぁて今日も頑張りますよ~」


「--悪ぃ、遅れた!!」


 と生徒会室の扉を力強く開け放ったのはトリスケール君。さっき名前を挙げるのを忘れていたけど彼も休まず参加している。何でも“何かしていた方が気が紛れる”とのことで、いつも一緒にいたレイがいなくなったのは精神的に結構強いだろう彼でもショックが大きかったのだろう。


「あっ、トリスケール君忘れていた」


「おいおい、俺忘れんなよ……」


 と呆れた表情をした彼はそのままの足で自分の席に着くと生徒会の書類に目を通し始めた。トリスケール君は見た目こそ不良とか脳筋な様に思われがちだが要領が良く、彼がいると仕事の進みが早い。


「毎日来てくれるのは助かるがトリスケール殿は、一体どこに行っているんだ? 最近授業に遅刻が多いじゃないか」


「あぁ……あれな」


 いつも物事を真っすぐ言う彼にしては珍しく口ごもる。ただその理由は見当がついた。私が言う前に座っていたアリーヌ先輩が口を開く。


「トリスケール君、生徒会の仕事が終わってから毎日遺跡まで行っているのでしょう?」


「そうなのか……?」


 ミラがそう聞くと彼は苦笑交じりに言う。


「あぁ……まぁな。どうしても坊ちゃんが見つからないとか諦めきれなくてよ。

だって坊ちゃんだぜ? 絶対どこかで申し訳なさそうにいるんだと思ってな」


 そう言う彼の表情には悔しいという表情がにじみ出ていた。トリスケール君に限らず私達全員がそう思っている。今まで色々な事に巻き込まれながらも何度も乗り越えてきたレイが死んだなんて信じられない。


「だねうん、絶対レイなら帰ってくるよね!! 我らが小心者の会長さんのことだし、絶対生き返る時見逃しているだけだし、すぐ戻ってくる、いや戻ってくるべきだねっ!!」


「アルマンダ殿は凄いな」


「勿論寂しいよ私も。

でも私が落ち込んでいたところで彼が戻ってくるわけじゃないし。それに私以上に悲しんでいる人達がいるからさ」


 ラウラから聞いた話だとレイのお母さんは彼が行方不明になってから心労で倒れてしまい目を覚ましたがベットから動けない状況。一方お父さんは表面こそいつも通りだがいつもならしない見落としをしたり、屋敷でも暗い表情が目立っているとのこと。


 そういうラウラも表面こそ気丈に振舞っているが明らかに大丈夫ではないのは生徒会の皆の周知の事実だ。一度彼女に休むように伝えたのだけども……


“私は大丈夫です、それに何かやっていないと落ち着かないんです”


の一点張りで私達も何も言えなかった。


「だな、すまない……」


「「……」」


 なんとも言えない雰囲気になってしまい、そのまま無言で仕事を進めるのであった。



 トリスケール君が戻ってきてしばらくして……


「よしっ!! 休憩しましょっ!!」


 私はあえて明るくそう言った。これ以上、この部屋の雰囲気が暗くなるのは耐えられない。すると他のみんなも手に持っていた書類などを机に置き、休憩し始めた。


「そうだな、少し休むとすっか

ーーあぁ……身体が固まって痛てぇ」


 と肩を回すトリスケール君。いつもなら適度にレイをいじったりして所々に休憩が入っていたけど、いじる相手がいないと各自集中してしまったのだろう。そんな様子をみたアリーヌ先輩は苦笑している。


「ふふトリスケール君にしては珍しく長時間集中していたものね」


「本当それっす。いや~らしくないっすねぇ」


 笑いながら言うトリスケール君。

 いや、多分だけどそこは否定するところじゃないかな? そんな貴方の返答を見てアリーヌ先輩は何とも言えない表情になっちゃったし……。


「ま、まぁ少しお茶飲んで、気分変えましょうか」


「賛成~!!

ーーさぁ行くんだトリスケール君、お菓子を取ってくるんだ!!」


「しゃあ任せろ!! 行くぜぼっちゃ

ーーあっ……」


 トリスケール君がしまったといった表情をしたが既に遅く、皆がまた何とも言えない表情になってしまった。


「「……」」


「……申し訳ないっす」


 申し訳なさそうに謝るトリスケール君。勿論彼には悪意は無く、ただいつも通りの癖で出た発言なのだと思う。ただその発言によって少しは明るくなった生徒会室の雰囲気が元に戻ってしまった。


「ーー皆さん、お待たせしました」


 と生徒会室のドアを開き、ラウラが部屋に入ってきた。先ほどまでの出来事を知らないラウラは不思議な表情を浮かべる。


「皆様、どうしたんですか? 席を立ったまま時が止まったかのような体勢をされて」


「い、今まで遊んでいたんだよ!! ねっ、ミラ?」


 と視界に入ったミラに目配せをする。


「あ、あぁ!! 少し休憩を兼ねてな!! べ、別に誰かが失言とかはしてないからな!?」


 ……目配せをする人間を間違えた。全く動揺を隠しきれてない様子。私も相当慌てていたのだろう。


「皆さん、お茶を用意しますからどうぞ座ってくださいな」


 とアリーヌ先輩の助け舟が入る。


「い、いえ流石に先輩に準備をさせる訳にはいきません!! 私もお手伝いさせていただきます」


「フフッ、では棚からカップを取ってきてくださいな。アルマンダさんはお菓子を出してもらえるかしら?」


「かしこまりましたっ!! ラウラが苦手そうな物出してきます!!」


「何で私が苦手な物をわざわざ選ぼうとするんですか!?」


「えっ、楽しそうじゃん?」


「あの……“あれ私おかしいこと言った?”みたいな顔をしないでもらえませんか?」


「あれ私おかしいこと言った?」


「言葉に出さないでいいです!!」


「じゃあミラが苦手な物は……ないか」


「いきなり私を巻き込まないでくれ……両親から好き嫌いは作るなと言われているからな!!」


 と自慢げに言うミラ。基本的に謙虚な彼女だが両親、特に父親が関わってくることになると少しだけ自慢げになる。そういうところは年相応なのだが、彼女にも弱点はある。


「おぉ……流石騎士団長の娘さん、凄い

ーーあっ、おばけ」


「ひぃっ!?」


 先ほどまでの誇らしげな表情から一転怯えた様子のミラ。この子お化けがまぁ苦手なのだ。怖い話とかは論外だし、心霊系の噂がある場所には絶対行かない。


「ミラの可愛い悲鳴をおやつにお茶にしましょ~」


「あ、アルマンダ殿!! 酷いじゃないか!!」


「ねぇ知っているミラ、最近学園で流行っている怖い話があってねぇ」


「や、止めてくれ!! 怖くて寝れなくなってしまう!!」


 と耳を塞いで怯えて表情をするミラ。何だろうその表情は私の心をくすぐる……。


「……あの先輩方、遊んでないで手伝ってもらえませんか。特にチャス様」


「チッ、つまらないの」


 

 いつも通りに賑やかな会話が繰り広げられているように見える生徒会室。それでもこの場にいる全員が今まで通りじゃない事を実感している。


ーー空席になっている会長の席


 その場所にはこの生徒会に一番必要な人物が前までは座っていた。だが座る主がいなくなった席にはほこりは少し積もり始めている。


 (レイ、君がいない学園はつまらない……みんな落ち込んでいるし……早く帰ってきてよ……今なら怒らないからさ……お願い)


 そう思わざるおえないのであった。

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