行動原理を振り返る
“諦めるのか、お前は?”
ふと聞こえてきた声、それに対して僕は投げやりに答える。
(もぅ終わったんだからいいだろ……)
僕はアクセルに負けて死んだ。それで終わりなはずだ。だがその声の主は僕の返事には興味無さそうに続ける。
“確かに今ここで諦めたら楽だろうな、あとはお前は目を閉じて寝るだけ。
ーーだがお前は一生その決断を後悔するぞ”
(うるさいな……無理なんだよ僕には)
唯一の打開策であったキャンセルもほぼ無意味なものになってしまった僕に勝ち目などあるはずがない。
“ほぉ、さっきまで啖呵を切っていた態度はどこにいった?”
(うるさいな……!! 大体僕の事を知らない赤の他人ーーって、あれ?)
と言いかけてふと気づく。僕は今誰と話しているんだ? というかそもそも僕はどこにいるんだ? なんてことを考えた途端、一気に視界が開けた。
「ここは……?」
そこは一面真っ白な世界が広がっていた。何もないただただ白が広がっている世界がそこにはある。
「--ようやく目が覚めたか、寝坊助」
後ろから声をかけられたので振り向くと、そこには腕を組んでキリっとこちらを見ている男性がいた。ととのっった顔に僕と同じ銀髪、そして目つきが鋭い。イケメンや美女の睨みつける顔は絵になると聞いたことがあるけど、まさか本当だったとは。
「貴方は……?」
僕がそう尋ねると目の前の男性はそうも当たり前のように言う。
「我か? 我の名はレクス・ハーストン」
「れ、レクス・ハーストン……? どこかで聞いたことがある名前なんだけど……思い出せない。あ、あれハーストンってことは親戚なの?」
「はぁ……大馬鹿者が。我はお前の祖先だ。
ーー初代ハーストン家の当主レクス・ハーストンだ」
「あっ……あぁぁぁぁぁぁーー!!」
まさかのご先祖とご対面。
ーーレクス・ハーストン
グラデニア王国設立の際に初代国王の右腕として手腕を振るい、ハーストン家の礎を築いた大英雄。頭脳明晰だが将軍として兵を率いたり、自身も前線に出て武器を振るっていたという完璧超人を絵に書いたような人物。
「あれ、でも肖像画よりも大分若いですけど……」
と僕が言うとご先祖様は大きいため息をついて呆れた表情を浮かべる。
「ハァ……あのな、肖像画は我の老年期だぞ? 今の我はお前よりも少し年を取った時の姿だ、そりゃ若いだろうよ。それに肖像画の我の姿はあまり好きではない、この姿が我の最盛期なので一番気に入っている」
「それもそっか……というかご先祖様に会えたってことは僕はもう死んだのか」
「何を言っておる、まだ死んでおらん」
「えっ、だってご先祖様にこうやって会っているってことは僕死んだってことでしょ?」
普通死んだご先祖様と会える場所はあの世で、会えたということは僕は死んだのだろうと思っていたのだがどうやら違うみたいである。
「馬鹿者が、お前はまだ死んでおらん。まぁ今のお前の状況は棺桶に両足を突っ込んでいる状態だからも、あとは上体を倒して棺桶の蓋を閉じればおしまいだ」
「それってほぼ終わりじゃん……」
「“ほぼ”と“完全”では大きく意味が変わるぞ。“ほぼ”というのはまだ可能性があるからな」
と当たり前のように言うご先祖様。
「それは貴方みたいな英雄だから言えるんでしょ……僕みたいな凡人には無理だって」
ご先祖様みたいな英雄が言うからカッコいいのであって僕なんか凡人が言ったところで何も意味がない。ふと目の前のご先祖様を見ると頭に手を当てて深くため息をついた。
「はぁ……これだから全く……お前を見ていると過去の自分を見ている気がする……はぁ」
最後にもう一回ため息をつかれた。
「“過去の自分”……? またまた王国の皆が知っている英雄が何を言っているんですか。貴方のような英雄に凡人の気持ちなんて分かる訳ないでしょ」
目の前にいるのは王国創立の大英雄。僕のような凡人以下の人間の気持ちなど分かるはずがない。なんて思っていると目の前の英雄は今まで一番大きいため息をついた。
「はぁ……」
「でしょうね」
そりゃ自分の子孫がこんな駄目な人間だと思って落胆したくもなるだろう。
「はぁ……」
「……二度もしなくていいと思うんですけどご先祖様」
いくら僕が駄目な人間だとしても流石に2回も大きなため息をつかれたらへこむ。だがそのため息は僕に向けられた行ったものではなさそうである。
「全く……我の歴史を学校で語るなら我の事をしっかり把握しろとあれほど子や孫に言ったはずだが……あやつら我をただの英雄として後世に伝えおったのか……!!」
「あ、あれ……」
何故か自分の子供や孫にだろうかキレているご先祖。大声を出して怒るのも怖いが、静かに怒りだすのも怖い。母さんが怒る場合はこっち側である。
「えっ」
「我はお前達が思っているような英雄と呼ばれるような人間ではなかった。
ーーかつての我は臆病で、自信がなくて、気弱だった」
「でもそれだと歴史とは違うけど」
それに英雄がいう臆病と僕達がいう臆病は絶対意味が違うと思う。英雄の方々にとっての臆病は僕達にとって大きすぎる。
「あのな我が英雄と呼ばれるようになったのは王国が出来上がって以降、我の子孫が誇張して広めたのであろうな。
ーーてか、この口調飽きたんだけど、戻していい?」
「え、えぇ」
いきなりフランクな話し方になり少し驚く僕。
「まぁボクはお前と同じなんだ。臆病で自信無し、気弱だ、一応長男だが弟達の方が優秀だった」
「兄弟いたんだ」
「あぁ3人。あいつら可愛くてね、こんなボクの事を“兄さん”や“兄貴”って言ってくれて慕ってくれるんだよ。それに近くに住んでいる年上の女の可愛い幼馴染もいてボク個人、出世や身分を上がらなくていいからずっとみんなで仲良く暮らしていきたかった」
……えっ、何このご先祖様、圧倒的ラブコメ主人公感。仲が良い弟に、近くに住んでいる幼馴染の女子。ラブコメの主人公臭プンプンするんだけど。
「そんな中、隣の強国がボクの家の領地に攻め込んできた。ボク達が住んでいた領地は資源が乏しい隣国からしてみれば喉から手が出るほど欲しかった土地だった」
「……」
「正直土地ぐらいなら譲って別の土地にでも行こうと思っていたんだけど隣国は征服した土地の領主は全員殺していたし、隣国の王がボクの幼馴染を狙っていると聞いていた。
ーーだからボクはあいつらを守るために、その剣を握って兵を率いて前線に出た」
「凄いですね」
幼馴染や弟達を守るために自分の命をかけれるのは凄い。
「その時は運が良く勝利出来て、周りの者達にも同じ言葉をかけられたが、ボクはそこまで凄い事をしたつもりはない。兄として幼馴染として当たり前のことをしただけだ」
さも当たり前のように言うご先祖様。この人の子供や孫がこの人を英雄扱いしたくなる気持ちが分かる。ご先祖様は大事な人を守るために臆病な自分を奮い立たせて前線に立ったのだ。そしてそれを誇る事はぜすさも当たり前のように行うのだからそりゃ英雄扱いしたくなる。
「で、話は戻るがレイ・ハーストン、お前はどうする? ここで倒れるのか?」
「僕は無理だよ……さっき負けたし……勝てる見込みないよ」
「さっきも言ったがお前は僕に似ている。
ーー魔法が使えず、臆病で気弱、自分に自信がない。だが誰かのために臆病な自分を奮い立たせて頑張れる。もう一度考えてみろ、お前は何故ここまで動けた? お前は魔法が使えないのにどうしてここまで努力した?」
「僕が頑張ってきた理由……そうか」
深く考える必要はなかった。僕が今まで頑張ってこれた理由はとても簡単である。そもそも馬鹿な僕が深く考えるのが間違いなのである。というかそもそもここまで頑張ってきた理由は変わってない。
「フン、どうやら気が付いたか。迷った時、心折れそうな時は自分の行動原理を一度振り返ってみろ
ーーボクはそれだけで50年以上頑張った」
この人はしれっと言っているが50年以上やりきったのは凄い。さすがハーストン家の初代当主であり、この家の礎を作っただけある。
「すげぇ……」
「これぐらい、普通だ。ボクは兄であり、夫であり、父であり、当主だったからな
ーーさぁ行ってこい、未来の当主」
「分かった、もう一度立ってみる。ありがとうご先祖様」
いつの間にか迷っていた気持ちは心から消えていた。あとは身体を動かすだけ。
「礼はいらん。僕も少し手を貸してやる」
「へっ……?」
とご先祖様は少しニヤッとした表情を浮かべて、こう言った。
「何その剣の使い方を教えてやる……
ーーハーヴェストの真の力をな」





