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王城にて

今回はレイの父親、アーク・ハーストンの視点です。

 レイ・ハーストンがアクセル・フォンと街はずれの廃遺跡で戦っている同時刻



ーーグラデニア王国の王城の政務官室にて


「カイン」


「何だ?」


「今週の被害は?」


 私、アーク・ハーストンは城で対アクセル・フォンの被害状況を確認していた。机の向かいには腐れ縁の騎士団長カイン・ルネフが深刻そうに呟く。


「……第3と第5騎士団の半分が怪我で任務続行が厳しい。これ以上被害が大きくなると国境付近の兵を戻さないとまずいだろうな」


「予想以上だな」


 アクセル・フォンが脱獄してからこの国の被害は甚大だ。当初こそたかが学生、そこまで手を焼くこともないだろうと思っていたがアクセルの強さはこちらの予想を大きく超え、私やカインが軍を率いて鎮圧に挑みにいったがことごとく失敗している。


「俺はそろそろ復帰できるが……俺の部下達はあと数日必要だな」


 彼が率いている第1騎士団は一番最初にアクセルの対処に対応した部隊だ。彼に対して情報が少なかったのもあったがアクセルに完膚なきまでに叩きのめされている。そのためカインを始めとする第1騎士団の団員は怪我を負い療養中だ。ただカインは昔から怪我の治りが早いのと国の軍事を率いる立場なので怪我をして次の日には司令官として復帰している。


「無茶をするな、お前まだ怪我完治してないだろ」


「馬鹿言え、これぐらいなら完治と同意味だ」


「冷静な判断が出来ていない奴を戦場に送れるか」


「何だと……!! 俺が冷静な判断が出来ていないというのか!!」


「今激怒しているのが何よりもの証拠だ。いつものお前なら私の言葉で激怒などしないさ」


「……くそっ!!」


 とカインは当たる場所がない怒りをぶつけるように後ろにあった椅子に乱暴に座った。いつもの彼なら冷静な判断が出来るはずだが、騎士団長の自分が負けたこと、部下達を怪我させたことが彼に冷静な判断をさせないのだろう。


「悪いな、カイン」


「……構わねぇよ、相変わらずお前は冷静だな」


 今でこそ騎士団長という責務と父親になったというのもあって気持ちをカインは


「私が冷静でないとこの国が立ち行かなくなるだろ。私だってお前やアルクが怪我をさせられて怒りがこみあげてこない訳ではない」


 本音を言えば私自身がアクセルと対峙してこの手で倒したい。だがもし私に何かあった場合、指揮系統に大きな障害が生じてしまう。それだけは防がないといけない、この国の政務官としての矜持が何とかとどまらせている。


「……お前も大変だな」


「馬鹿言え、私は前線に出ない分身体の怪我はしない。だが前線に出ている者達、そしてこの国で生きている者達の命を預かっているのでなこれぐらい大変だと思わない」


 私がそう言うとカインはやれやれといった


「ったく正直じゃーー」


バンッ!!


 と政務官室の扉が勢いよく開かれた。そこにはカインの部下が息を切らして立っている。


「てめぇ、ノックぐらいしろ!!」


 カインは少しキレているが規律を守る騎士団の団員がノックをしないで入ってきたことは何か急の要件があるのだろう。


「どうした?」


「偵察からの伝令です!!

ーー街の周辺に所属不明の武装集団を発見しました!!」


「「何っ!?」」


 アクセルですら手一杯なのに謎の武装集団の出現という最悪な伝令を受けて思うのは、今アクセルと戦っている息子のレイちゃんのことだ。彼は今1人でアクセルと戦っている。


(レイちゃん大丈夫だよね……? 私、君に何かあったらそれこそ倒れるぞ?)


「どれぐらいの勢力だ!!」


「10~50人程度の勢力が首都近辺に5、6ほどです。ただ現状把握できているのがということなのでもしかしたら敵の増援が来るかもしれないとのことです」


「敵さん中々の集団で来てくれたじゃねぇか……!! だけど状況は悪化するぞこれ……」


 カインは一瞬キレたが、それでも冷静に今の状況を判断したようだ。


「あぁ、この状況でアクセル以外も相手にしないといけないのか……状況的にマズい」


 今、城の戦力は限界とまではいかないがそれなりに減っている。近隣諸国との国境付近の兵も戻すことも視野に入れていたぐらいなので正直厳しい。


「おいおい、この状況でもしその武将集団がアクセルと合流しようものなら確実にこの城下が無事ではすまない」


「分かっている。

ーー報告ご苦労、下がってよし」


「各部隊にいつでも出撃する準備をしておくように伝えてくれ」


「はっ」


 と報告にきたカインの部下を下がらせた。下がらせたのは報告がもうないだろうと思ったのとカインに話さないといけない事が出来たからである。


「カイン、聞いてくれ」


「何だこの状況で、アクセルと合流なんてしたらーー」


「ーーまだアクセルと武装集団は合流出来ないはずだ」


「“まだ”だと? おい、それってどういう意味だ」


「今私の息子がアクセルを足止めしているからだ」


「はぁ!?」


 カインの驚きは凄かった。彼とは付き合いが長いがここまで驚くのを見たのは初めてだろう。


「どういう意味だよアーク!!」


「おい、騒ぐな。部屋の外に声が漏れるだろう」


 とりあえず外に声が漏れないように声を遮断する魔法をこの室内にかけた。


「それを気にしている場合かお前は!! 彼はまだ学生だぞ!? 誰か一緒にいるんだよな!?」


「1人だ」


 私がそう答えるとカインは机を思いっきり叩き、驚いた声を上げる。


「1人だって!? 何しているんだお前は!!」


「今回は息子が1人で行くと言ったから1人で行かせた」


「“1人で行くと言ったから1人で行かせた”って子供のお使いの規模のことじゃねぇからな!?」


「あぁそれぐらい分かっている。

私は息子の“勝算がある”という言葉を信じて家の宝剣を預けて送り出した」


「宝剣ってただの儀式用の剣だろ!! 幾らレイ君が身体能力が高かろうと魔法無効化を使えようとも俺や騎士団が負けた相手に1人で挑ませるって頭おかしいのか!?」


 ルネフ家にも宝剣はあるので宝剣と言って話が通じる。互いに宝剣の扱いは当主引継ぎの際に少しだけ使うぐらいなのでカインが怒るのも至極当然だ。


「本来は私も思う。

ーーだがあの宝剣が息子の手に渡った瞬間な、何故か息子が勝つのではと思ったのだ」


 レイちゃんに剣が渡った瞬間、直感みたいなものが頭をよぎった。自分でもおかしいと思っている。何の根拠もないのにそう思ってしまうぐらい自分は疲れているのだろうとすら思う。だが不思議とレイちゃんなら何とかしてしまうと思ったのであった。


「根拠はあんのかよ!?」


「ない!!」


「っておい!?」


 カインが拍子抜けしたような顔をするが、それでも私は続ける。


「あぁ私は勘が嫌いだ、何の根拠もない不確定なものだからな。

ーーだがレイちゃんの諦めの悪さと辛抱強さは誰よりも()が知っている!! レイちゃんは俺が今まで見てきた人間の中で随一の馬鹿であり、不器用であり、臆病者だが今まで壁に当たる度に自分の力で乗り越えてきた。俺は親としてじゃなくて1人の人間としてレイちゃんのその強さを信じる!!」


 思っていたことを全力で掃きだしてみて、ふとここまでレイちゃんのことで熱くなるとは自分でも驚いた。叫んだような状態に近いので数年ぶりに息が切れ切れである。そんな私を見たカインは少し間をおいて笑い出した。


「ハッハッハッ!! おいおい自分の息子好きなのは分かるが熱くなりすぎだっての」


「何だ……カイン」


「いやいお前が一人称“俺”を使うなんて久しぶりだから、それだけ本気だと分かったと思ってな」


「悪いか……俺もおかしいと思うが」


「いいや、お前らしくて俺は良いと思うぞ。

ーー分かった、俺もお前の勘を信じよう」


「助かる……ふぅ……」


「……どんだけ全力だったんだよお前」


「ここ数年で一番だろうな」


 私は基本的に感情的にならない様に気を付けている。だからこそここまで感情的になったのはもしかしたら生まれて初めてかもしれない。


「じゃあレイ君がアクセルの相手をしている間に俺達で武装集団は掃除しておくか」


 とにやりとした笑顔を浮かべるカイン。この表情はよく学生時代に悪だくみをする際にしていた表情だ。だからこそ私も同じような表情を浮かべる。


「あぁ元よりそのつもりだ。

ーーレイちゃんばかりに良いところ持っていかれては親としての矜持が無くなるからな」


「久しぶりにやるか?」


「あぁやってやろうじゃないか」


 どうやら私達の意見は一致したようである。私達は政務官室を出ると城のとある部屋に向かった。


「「入っていいか!!」」


「……って入ったあとに言われても意味がないと思いますが」


 そこには私とカインの学生時代の後輩、アルク・ライシングが呆れた表情をして座っていた。


「政務官殿に騎士団長殿が一体なんの用なのでしょうか?」


「アルク、暫く指揮を取れるか?」


 私がそう言うとアルクは顔を首を傾げた。


「指揮……? 一体何のですか?」


「今から俺達で追加の武装集団に相手してくるわ」


「追加の武装集団ですって!? ちょっと待ってください話がいきなりすぎます」


 状況が上手く呑み込めていなアルクに現在の状況を報告した。


ーー武装集団が街の周辺にいること


ーーレイちゃんがアクセルと戦っていること


等などを全て話す。話を聞き終えたアルクは驚きながらも真面目な表情に戻すとこちらに尋ねてきた。


「で、お2人は何をするつもりでしょうか?

ーーまさか前線に出るつもりじゃないですよね?」


「「そのつもりだ」」


「何をお考えですか……と本当は言いたいのですが今回は分かりました。指揮を代理で行いましょう、どうせ私が反対したところでお2人が止まらないのは経験済みなので」


「助かるアルク」


「で、政務官殿ーーいや()()()()()、私は何をすればいいのですか?」


 とアルクも分かったのだろう学生時代のころに3人で問題行動ばかりを起こしていた頃の表情になり聞いてきた。


「俺が西の方に自分の家の私兵を率いて攻める。カインは北を頼んだぞ」


「おう任せな」


「アルクはその間、司令部で敵の把握を頼む、俺達も出来る限り前線の情報は伝えるようにする」


「分かりました、ではお2人には私と直接会話できるように魔道具を渡しておきます。

ーーというかアーク先輩はいつのまに私兵を……?」


「レイちゃんを見送って、城に向かう前に声をかけておいた」


 家の私兵に声をかけた際に誰が行くかで5分ほど揉めた。


「相変わらず行動早ぇなお前は……俺達が賛成しなくても1人でも行くつもりだったろ」


 とカインに呆れ気味に言われた。


「まぁそのつもりだった。正直カイン達を説得する方法が思いつかなかったから半ば俺だけでも行こうかと思っていたんだが……お前達が乗ってくるとはな」


「そりゃいつも冷静なお前からあんだけ熱く語られたらな」


「アーク先輩が熱くですか……珍しい……」


「あれはしょうがないだろ。俺だって無我夢中だったんだ」


 自分でもあそこまで感情的になるとは思わなかったので改めて思い出すと結構恥ずかしい。


「というか先輩の一人称が“俺”になってますね。

ーー是非見てみたいと思いますが、今は別の事に集中しましょうか」


「だな、じゃあ俺は動ける連中探して北の方面攻めてくるわ。また後でな」


 というとカインは部屋から出て行った。


「ふぅ……じゃあ俺も行ってくるか。アルク少しの間、頼んだぞ」


「えぇお任せください。

ーーまた皆で楽しくご飯にしましょう」


「あぁ頼んだ」


 俺はそう言うとアルクの部屋を後にすると城内を走り、自分の私兵が待機している場所に向かった。アルクは優秀だからしっかりと指揮を取ってくれるから後ろは心配はない。あとは自分の役割をしっかりとこなすだけだ。


「--旦那様」


 私兵の先頭には見慣れた燕尾服の老人が立っていた。執事長のオピニルである。私が来るまで私兵をまとめておいてくれたのだろう。ただの執事には到底思えない。


「オピニル、助かる」


「私は奥様とラウラ様の護衛をさせていただきますので一度屋敷に戻らせていただきます」


「あぁありがとう。

ーー聞け、ハーストン家の兵達よ!! 現在我が息子、レイ・ハーストンがアクセル・フォンからこの国を守るために1人で戦っている!!」


 ここにいる私兵達はその状況を元々知っている。なので全員士気が高い。それだけレイちゃんが皆から愛されているということだ。


「我らの役目は息子が戦いに集中できるように戦いの邪魔になるような障害を無くすことである!!」


「「おぉ!!」」


「我らはハーストン家!! グラデニア王国の最強の兵なり!! 我らの強さを知らない愚か者達に目に物をみせてやろう!!

ーー行くぞ!!」


「「おぉーー!!」


 と私を先頭にして持ち場の西側に向かうのであった。


(レイちゃん、生きて帰ってくるんだよ……!!)

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