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ハーストン家の宝剣

 フローレンスと別れた後に僕が向かった場所はというと……


「着いた」


「まさか最後に行きたい場所が自分の屋敷とはな……」


 神は意外そうな声音だった。僕が最後に寄りたい場所とは、自分の屋敷なのである。


「うん、やっぱりここは行きたいからね」


 僕の屋敷はこの世界に来て一番長く生活している場所なので思い出が沢山ある。だからこれからアクセルと戦う前にどうしてもここに行きたいのであった。


「なるほどな。でもなお主、ここに戻ってこないつもりで挑むのは止めるのじゃぞ? お主がここに戻りたくないのなら別じゃが」


「まさか、僕はここに戻ってくるつもりさ。あいつに勝って、ここに戻ってきて今まで通りの日常を過ごす。

ーーただ、フローレンスとはこれまで通りとは難しいかもなぁ……」


 自分がこの世界の人間ではない事をフローレンスに告げ、これまでの事もあってかとても怒られた。戻ってきても彼女と今まで通りに過ごせるのはどうか分からない。


「……すまぬの、今回の戦いワシが出来る限りフォローすると約束する」


「ははっ、お前のフォローは期待しないでおくよ」


 なんて言う会話をしながら僕は屋敷に敷地内に入り、敷地内をぶらぶらするのであった。


ーー庭園


ーー食堂


ーー自室


 特に意味もなく屋敷内を散策する。屋敷の人達は僕を見るとみんな笑顔で挨拶をしてくれた。この屋敷の人達は僕がこの世界に転生した時から僕に対して優しく、温かく見守ってくれてたのが記憶にある。この人達を守るだけでもアクセルと戦う理由には充分だ。


「ーーおやレイちゃん」


 散策していると城から帰ってきた父さんとばったり会った。いつもなら家に帰ってくるときは満面の笑みで帰ってくるのに今の父さんは明らかに疲れが顔に出ている。


「父さん、おかえり。体調大丈夫なの?」


「私は大丈夫……とはちょっと言えないか。情けない話だがここ数日寝れてなくてね、少し仮眠を兼ねて屋敷に戻ってきたんだ。レイちゃんやラウラちゃん、母さんの顔を見て元気を取り戻して寝たらまた戻るさ」


 と力無く笑う父さん。仮眠なら城でも出来ると思うのだが僕らの顔をみて元気を取り戻すと言える父さんは個人的に凄いと思う。ゲームの世界なら家族は自分の出世のための道具にしか思っていなかったはずがどうなったらこうなったのかとても気になるが……今はそれどころではない。


「ねぇ父さん」


「どうしたんだい? レイちゃんの頼みなーー」


「--父さん、僕行ってくる」


 父さんが言い終わる前に僕は口を開いた。その言葉を聞いた瞬間はポカンとする父さん。だがすぐに表情を険しい表情に変えた。


「まさかレイちゃん……」


「うん、父さんが思っている通りだと思うよ」


 と僕が言うと父さんは一層険しい表情になった。


「一応聞くが……何か勝算があって言っているんだよね? レイちゃんのことだから“知り合いが傷つくのを見てられない”から何も考えずに言っている可能性もあるからね」


 流石僕の事をいつも見ているだけあって僕の性格も分かっているのだろう。確かにそれも理由の1つだ。だが今回は薄いが勝算もあるからこそ挑もうと決めたのだ。


「まぁ……間違ってないけど、一応勝算はあるんだ」


「そうか、ちなみにその勝算はどんなものなんだい?」


「……ごめん、それは言えない。でもアクセルに勝てる見込みがあることは事実なんだ」


「……」


 父さんは険しい表情で無言のまま僕を見た。僕にはあまり見せない表情でこちらを見てくるので不安に感じる。確かに勝算を言わないので父さんがあの表情をするのは当たり前だろう。なぜなら勝算を言うとなると僕がこの世界の人間ではないことを説明しないといけない。そしてそれを言うと先ほどのフローレンスと同じことになるだろうと想像出来るからだ。


(ごめん父さん……)



 父さんが険しい表情まま、どれだけの時間が経っただろう。多分数秒のことだったろうけど、体感的には数時間に感じる。そして父さんは口を開いた。


「ふぅ……辛いな……」


「ごめん……」


「いやレイちゃんは悪くない。悪いのは私達大人だ。子供たちにこういう負担をかけないために私達は頑張っていたはずなんだがなぁ……」


「父さんは頑張っているって、毎日徹夜であいつを抑える事を考えて指示を出しているじゃん」


「ありがとう、レイちゃんに言ってもらえて嬉しいよ。

ーーさてオピニル、いるか?」


「--はっ、こちらに」


 父さんがそう呼ぶといつの間にか僕の後ろにオピニルさんが立っていた。自分で言うのもなんだが僕に気づかれないように移動するって一体何者なのだろうと思う。


「オピニル、“剣”を用意しろ」


「……なるほど、承知致しました。

少々お待ちください、後ほど旦那様の御部屋にお持ち致します」


「頼むぞ」


 とオピニルさんはいつもの穏やかな笑みではなく真面目な表情になり、どこかに去っていった。父さんも同じような表情をしていたので思わず尋ねる。


「父さん、“剣”って何?」


「すぐに分かることだ。レイちゃん、私の部屋に行こう」



 父さんに促されて父さんの部屋に向い、部屋の中に入って数分後、オピニルさんが黒い布に包まれた何かを大事そうに持ってきた。この屋敷に来て10年以上経つがこんなものは今まで見た事がない。僕が記憶の中で検索しているのを尻目に、父さんはそれを見るとオピニルさんに指示を出した。


「ありがとうオピニル、それをここに置いてくれ」


「かしこまりました」


 オピニルさんは布に包まれた何かをテーブルの上にゆっくり置いた。テーブルに置かれたことを確認すると父さんは包んでいた黒い布をほどき始める。解き終えると、父さんの手には鞘がついたままの剣が握られていた。


「レイちゃん、これを持っていきなさい。何かしら力になってくれると思うよ」


「う、うん……」


 と言われて剣の柄を僕の方に向けてきたので受け取る。重さはいつも鍛錬に使っている剣と変わらない。鞘には特に装飾がされていないが良い素材を使っているのだろうかとても高級な雰囲気を醸し出している。


「父さん、この剣は?」


「これはハーストン家の宝剣、我がハーストン家がハーストン家である証拠の剣

ーー“ハーヴェスト”と呼ばれている剣だよ」


「そんな剣あったんだ……」


 この世界に転生してからとゲームでの知識を含めて初めて聞く内容だった。そもそもハーストン家は一大貴族だが本来あまりストーリーに関係ない一族なのでそこまで詳細は書かれていない。僕の驚きが表情に出ていたのだろうオピニルさんが説明してくれた。


「まぁご存じないのは仕方ないでしょう。この剣は当主交代する際に前当主から初めてこの剣の存在を聞かされるのですからレイ様が知らないのは当たり前でしょうな。まぁ私は旦那様が大旦那様から引き継がれる際に立ち会っておりますので知っていましたが」


「それも何でこの剣を?」


「この剣は、我がハーストン家初代当主レクス・ハーストンが使った剣だ。ご先祖様は身体強化魔法で底上げした身体能力で、この剣を使って初期の戦いに参戦して今の王国の基礎を作られた。それもあってこの剣はハーストン家の象徴になっている」


「なるほど……」


 試しに鞘から刀身を抜いてみた、刀身も鞘と同じく何か特徴的な装飾がされている訳ではない。ただ持っているとずっしりと手に重さが来ているので儀式に使うものではなさそうだ。とりあえずハーヴェストを帯刀していると父さんが申し訳なさそうな表情をして言う。


「私に出来ることと言ったらこの剣をレイちゃんに渡すことぐらいしか出来ないからね。君が何を持って勝算があると言っているか分からないけど、この剣は絶対レイちゃんの力になってくれるはずだ」


「父さん……」


「旦那様から“剣を持ってこい”と言われた時はまさかと思いましたが……レイ様、行かれるのですね」


「うん、ごめんねオピニルさん」


 そう言えばオピニルさんにはこれから行くという話をしてなかったことに気づく。オピニルさんには転生してから体術を始めとして様々な事を教えてもらった師匠みたいな存在だ。


「貴方様が謝る必要はございません。臆病な性格の貴方が私達を守るために勇気を振り絞ったのですから胸を誇っていいはずです」


「分かった、ありがとう」



 そして父さん、オピニルさんは屋敷の門まで一緒に来てくれた。


「じゃあ行ってくる」


「私どもはレイ様の好きな物を作って貴方様の帰還を待っております。

ーーどうかご武運を」


「妻とラウラちゃんには私から話しておこう。まぁでも全て終わったら自分で2人には話してね。私1人で2人を抑えることは厳しいからなぁ……」


 と困ったように笑う父さん。王国ナンバー2の父さんでも母さんとラウラを止められるのが厳しいのだとしたら僕はもっと難しいと思うのだが今回は自分で選んだのだから自分で説明しないといけない。


「ところでレイちゃん、フローレンスさんには話したんだろうね?」


「話はしたけど……失敗しました」


「はぁ……何しているんだい君は……」


「ごめん……」


「フローレンスさんは聡明な方なんだから話せば比較的分かる子でしょ? その子で失敗するって感情的にさせたんだろうと想像出来るな」


 その場にいたのだろうか僕がやらかした事を言われる。まぁその際には父さん達に話していない僕の真実を話したからなのだが。


「終わったら再度話してみるよ。僕の言葉でどこまで彼女を説得できるか分からないけど僕なりの誠意をもって話してみる」


「そうだね、レイちゃんなら大丈夫でしょう。

ーーさぁ行ってきなさい、私達はここで次期当主の勝利を願っている」


「うん、分かった。行ってきます」


 と僕は2人に見送られながら屋敷を後にした。



「お主、周りの人間には恵まれておるなぁ」


 アクセルが潜伏している場所に向かっている最中、神がそう呟いた。なおアクセルの潜伏場所はこの神が言うには街外れの廃遺跡にいるとのことだ。どうやらGPSみたいなものがアクセルについており、どこにいるかはすぐ判明するらしい。


「まぁ、この世界に転生してきて良い人ばかりではないけど、良い人もいたから助かったよ。

ーーさぁこの廃遺跡なのかな?」


 僕達がたどり着いたのは市街から少し離れた場所にある遺跡跡だった。確かゲームだと古代の祭事場として扱われていたらしい。ルートによってはこの遺跡が大きくかかわってくることもあるが今回の戦いで使うか分からない。


「そうじゃな、間違いなくあいつ、アクセル・フォンはいる」


「--よう、来たな」


「「……ッ!?」」


 声のした方を見るとそこには遺跡の上から僕を見下ろすように立っているアクセル・フォンが立っているのであった。


「アクセル・フォン……!!」


「よぉレイ・ハーストン、久しぶりだなぁ」


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