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貴方なんて来なければよかったのに

「アクセルと同じく僕はこの世界の人間じゃない。


それに僕は性格に言うとレイ・ハーストンじゃないんだ」


「えっ……」

 

 僕がそう言うとフローレンスはさっきの僕が戦うと宣言した時よりも大きな驚きの表情をうかべる。いきなり“僕は別世界の人間なんだ”と言われたら普通誰だって混乱する。目の前のフローレンスの表情はまさにそれだ。


 そんな表情のフローレンスを尻目に僕は続ける。


「僕は元々別の世界の人間なんだ。で、アクセルも僕と同じ世界の人間」


「れ、レイとアクセルが同じ世界の人……? ど、どういう意味なの……?」


「元々いた世界では魔法が使えないのが普通で、代わりの別の技術が発展しているんだ。僕が魔法を使えないのは元々その世界出身だから。今の魔法無効化はこの世界に来る際に付与されてみたものみたいなんだ」


「で、でもなんでアクセルは魔法を使えるんですか?」


「僕とあいつはこっちの世界に来る際に案内人が付いていたんだけど、アクセルの方は普通だったんだけど僕の方は色々と抜けていたから魔法が使えないままになっちゃってね。

ーー何か言っていたらあいつに対して怒りがこみあげてきた……!!」


 正直“この世界はゲームの世界”だと説明した方が楽だろうけど、この世界に長くいるとこの世界で生きている人は本当に生きている。そんな様子を見てゲーム云々などとは言えない。だがフローレンスには僕が勝てる理由を説明しないといけないので適当に誤魔化したが。


「で、でもレイは私と幼い頃から……」


「うん、確かに僕はフローレンスに幼い頃から一緒にいたね。それは事実だよ。

ーーでも実は僕はあの時から元の世界の記憶を引き継いでいたんだ」


「えっ……?」


「僕は簡単に言うと()()()()()()()()()()()ではないんだ。

ーー()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 本来なら傲慢不遜な性格のレイ・ハーストンとして成長して、フローレンス達に断罪された挙句父親の出世のために殺されるはずだったのをあの神の手違いで僕がその中身と入れ替わって、現在ここにいる。3歳から僕はレイ・ハーストンとしてこの世界で生きていた。

 

 正直僕も同じことを言われたら“何を言ってるんだ、こいつは?”と思うだろう、フローレンスも同じ気持ちを抱えているのだろう表情からどうしていいのか分からない感じだ。


「じゃあ貴方の本当の名前はレイ・ハーストンじゃないとしたら何なの……? 貴方は一体何者なんですか!!」


「僕は……」


 少し言いよどむとフローレンスは僕の服を強くつかんできた。彼女の顔を見ると大きな目からは涙をこぼしている。結局僕は彼女を泣かせてしまうのである。


「答えてくださいよレイ!! ねぇったら!!」


 彼女の涙と一緒に懇願されて断れる僕ではない。渋々自分の本名を告げた。


「僕の本名は本条 蓮。

ーーー僕は君の本当の幼馴染ではないんだ、今まで騙す感じになっちゃってゴメン」


 と僕は頭を下げる。それでも尚を彼女は僕の服を掴んだままだ。


「じ、じゃあ今まで貴女は私達とどんな気持ちで接していたんですか!! 私達と一緒に笑っていた時の貴方は一体何を考えていたんですか!?」


「楽しかったーー」


「今までの私なら貴方の言葉を信じていました。

ーーでも今の貴方は信じれると思いますか!? いきなり“アクセルと戦ってくる”って言われて“僕は別の世界の人間だ”なんて言われて“頑張ってください”って素直に言えますか!?」


「……」


「貴方が前々から自分の事を大事にしなかったのは今貴方がいる身体が借り物だから? 前から貴方は他人の事をかなり心配するのに自分の事は真っ先に犠牲にする性格でしたが、それは貴方の性格だから仕方ないと渋々納得していましたが、さっきの事を言われたらそれすら疑われてしまうんですよ!!」


 誰かを守る際に自分の事は気にしないこともあったが、無自覚の内にフローレンスの言っていたような事を思っていたのかもしれない。


ーーこの身体は本当の僕の身体ではない。


どこかでこの考えがあったから身体を張ったり出来たのかもしれない。


「だったらしょうがない。そう思わせちゃったのは僕の責任だ」


パチン


 フローレンスの手が僕の頬をはたいた。女子の力なので全力ではたかれてもあまり痛くない。ただ精神的には結構くるものがある。彼女はそのまま感情のまま叫ぶ。ここまで感情的に怒る彼女は初めてだ。


「しょうがないですって!? しょうがないで済まさないでください!! 貴方は周りの人達を騙していたたの!! 」


「……」


「そもそも何でこの世界に貴方達が来たんですか!! 貴方とアクセル、どっちが原因でこの世界に来たのかその理由は知りませんが、貴方達が来たからお父様や私の大事な人たちが怪我をしたんですよ!!」


「うん……」


 僕やアクセルがこの世界こなければ僕の父さん、アルクさん達が怪我をすることはなかっただろう。フローレンスが怒るのは至極当然だ。


「何で貴方達がこの世界に来たの……!? 理由は? 貴方達は物見遊山でこの世界に来たかもしれませんが私達はこの世界で普通に生きているんですよ……?」


 そんなこと分かっている。この世界で10年以上生活していればこの世界の人達は今の生活を過ごしていることぐらい分かる、分からないはずがない。


「ーー貴方なんて……貴方なんて来なければよかったのに!!」


「……っ!!」


 その言葉は僕の胸に深く刺さった。この世界に来てから“家柄だけ”や“魔法使えないくせに”などなど色々と酷い事を言われてきたが、彼女から言われた言葉が一番刺さる。それも僕が愛している彼女から言われたのだから尚更に感じる。僕の表情が余程酷かったのだろう、フローレンスはハッとした表情になった。


「あっ……そ、その……」


 その様子を見て、僕は出来る限り穏やかに微笑んだ。


「いいんだフローレンス、君が思う事は当たり前のことだ。僕達がこの世界に来なければアルクさん達は怪我をしないで幸せに過ごせていただろうね」


 まさか自分があの神に言ったことを言われるとは思わなかった。だが彼女達からしてみれば僕とアクセルは今回の問題を引き起こしたあの神と同じなのだろう。


「い、いや……そ、その……」


「大丈夫だよ、この世界に騒動を起こした責任は僕が取る。

ーーあいつと刺し違えてでもあいつを元の世界に戻す」


 彼女から言われて決意が固まった。元々あいつとは差し替えて勝てるかどうか分からなかったが、これで心置きなく行える。あいつと刺し違えてもアクセルをこの世界から追い出す。自分の身はそれから考えるとする。


「ま、待って……わ、私は……」


 フローレンスは僕の方に手を伸ばすが僕は半歩後ろに下がったため、届かない。


「騙すような形になっちゃってごめん。

でも僕はフローレンス達と過ごせて本当に幸せだった。これは僕の本心……まぁ信じてもらえるか分からないけどさ」


 僕は苦笑しながら話す。この世界に転生して10年以上、この世界の人達を騙してきた。中でもフローレンスは両親に次ぐ長さで騙していたことになる。その人間が今更“幸せだった”と言っても信じてもらえるかは微妙だ。


 でも僕はフローレンス達と一緒に学園生活過ごせて本当に幸せだった。悪役に転生した時は完全に詰んだと思ったが、色々と予想外のことが発生したおかげ? もあり毎日が本当に楽しかった。


「最後にこれだけは言わせて欲しい

ーーフローレンス・ライシングさん、僕は君を愛している。愛する人がいる世界を僕は命に代えても守ってみせる」


 元々僕はこの世界ではよそ者だ。たかがよそ者1人がいなくなろうと世界は変わらない。で、あれば僕が大好きな人達がいる世界を守ってみせよう。それが皆を騙していた僕に出来る数少ない償いだ。僕の決意が分かったのか愛しの彼女の顔から血の気が引いていった。


「最後なんていわなーー」


「じゃあね、フローレンス」


 と僕はフローレンスの部屋を逃げるように出た。




「お主な……あれでいいのか?」


 彼女の屋敷から少し離れたところで、僕の担当の神が話しかけてきた。“あれ”とはつまり先ほどのフローレンスとの会話のことだろう。


「良い訳ないでしょ、自分のコミュニケーション能力の無さに落ち込んでいるところ。いやぁ……あそこまで言われると結構辛いなぁ……」


“貴方は周りの人達を騙していたたの!! ”


“貴方達が来たからお父様や私の大事な人たちが怪我をしたんですよ!!”


“貴方なんて来なければよかったのに!!”


 出来る限り表情には出さない様にしていたが、途中から表情に出てしまったが。未だに頭の中でさっきの発言と彼女の表情が繰り返し再生されている。中々の拷問である。


「いやあれは誰であっても辛いであろう。お主だけではない」


「まさかお前からフォローされるとはな……僕も終わりか」


「お主な……ワシがフォローしているのを無下にするのをやめないかの。

ーーまぁ今日ぐらいは許しておくかの、お主には申し訳ないことをしたしの」


「ありがとう、アクセルと戦う前にもう一か所行きたい場所があるんだけど、行ってもいいか?」


「分かった、行こうかの。出来り限り後悔はなくしておいて損はないしの」


 と僕はその目的地に向かって足を向けるのであった。

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