第2話 栄光のステージ
「今年度最優秀新人賞に輝いたのは…
真っ暗な会場でステージだけが海の底に太陽の光が照らされているようなぼんやりとした光で浮き上がっていた。
ドラムロールがなってスポットライトが誰かを探しているこの瞬間、澪は自分の鼓動で全身が脈をうっているような感覚になり、少し吐き気がしていた。
隣の席にいた奏良は澪の手を握って 「大丈夫」と手のひらで伝えているようだった。
「 Mio さんです!!」
その瞬間、澪の頭に音は一切消えた。真っ白な光に包まれて、何が起きたのか一瞬わからなくなり
自分が気体になって消えたのではないかとすら思った。
「澪!! 」
奏良の呼ぶ声でようやく現実に引き戻されると、割れるほどの拍手と声援が澪の胸に波のように押し寄せた。澪は奏良に喜びの抱擁をされて、舞台までエスコートされた。
司会者にトロフィーと花束を渡され、インタビューへと進んでいった。
「一流のアイドルグループ Blue Mind の SORAさんのプロデュースで衝撃のデビュー、そして瞬く間に
スターへの階段を駆け上がり、わずか7曲目でレコード大賞の新人賞を獲得されたという芸能界歴代最速の受賞となります。あ、SORAさんもどうぞステージに上がってっください。Mioさん、ご感想をお願いします。」
奏良はまっすぐ澪のいるステージに向かって階段を上がっていった。少し顔をあからめて無表情ながら、キラキラと潤んだ目で澪を見つめて近づいてきた。その表情に澪はただ魅了されていた。
澪はマイクをもって話はじめた。
「なんていったらいいのか…こんな光のあたる場所で多くの方に私の歌声を届けられる事が今も夢の様で…そのうえこの様な栄誉ある賞をもらえるなんて、これは私ではなくSORAさんの功績です。SORAさんが私の歌声に翼を授けてくださったおかげです。そして支えてくださるファンの皆様のおかげでもあります。」
会場のファンからの歓声が上がり、拍手喝采を浴びた。
「SORAさんからもご感想いただけますか?」
奏良がマイクをもらって、話し始めた。
「Mioさん、あなたの歌声は天性の才能です。私のインスピレーションの源でもあります。
だからこれは僕たちあってこそ叶えられた功績なんですよ。そして僕たちの音楽を愛してくれる全ての人たちのためにこれからも創作活動は続けていきます。ありがとうございました。」
次の瞬間、澪は奏良を抱きしめた。会場には歓声とどよめきの声と入り混じってさらにボリュームを上げた。スパンコールが散りばめられた白いロングワンピースが揺れていた。
澪は突然12歳の自分を思い出していた。ゴミ溜めのような四畳半のアパートで、独りぼっちで親の帰りを待っていた。母のワンピースを着て母の匂いを頼りにうずくまっていた頃の私を奏良が天使になって手を差し伸べてくれて暗闇から光の世界へ連れ出してくれた。そして闇は消えてしまった。
抱きしめながら奏良の耳元でそっと囁いた
「…愛してます」
しかしこの歓声の中で奏良の耳に届いたかどうかは分からなかった。
周りには感謝の意を示したのだろうと思われたのか、その後報道などで言及されることはなかった。
涙を流していたことは後から見返して気づいた。




