番外編 優勝インタビューが甘いんですけど!(1)
皆様、お久しぶりです。初めての方は初めまして。
久々に続きを書いてみました。今回は試合数日後のエピソード。前後編2話の予定です。勢いがついたらそのままあと2話くらい追加するかも知れません。楽しんでいただければ幸いです。
「ちょっとコタロー、コレはどういう事よ!」
ノックもせずに部屋のドアがバタンと開けられたけれど、俺は全く戸惑う事なく椅子ごとクルリと振り返った。
だって階段をドタドタと勢いよく上がってくる足音だけで、それが誰だか分かっていたから。
「よお、ハナ、久し振り!」
「よお!……じゃない!それに学校で会ったばっかじゃん!」
ーーおお、怒ってる、怒ってる。
だけどそれも想定内。
部活に行く前にハナの教室に寄ったら、『今日は剣道ニッポンの発売日だよね?』なんて聞いてきたから、帰りに雑誌を買って帰るつもりだっていうのは気付いてた。
読んだらこういう反応をするだろうな……っていうのも分かってたから、部活から帰ってきてからずっと、ハナが来るのを今か今かと待ってたんだ。
「もう読んだんだ。内容はどうだった?」
雑誌社から先に2冊送って来てたから内容は知ってたけど、敢えて見てないフリで聞いてみる。
「どうもこうも……帰ってからダイニングで読んでて思わず麦茶を噴き出したよ!ビックリだよ!」
「俺の写真うつりはどうだった?」
ハナが右手に握りしめている丸めた雑誌にチラリと目をやりながら聞くと、コイツは更に目を吊り上げた。
「写真はどうでもいいから!それよりもインタビューが……」
「そうか……ショックだな、俺はブサイクに写ってたのか……」
わざと大袈裟に項垂れてみせたら、途端にハナが狼狽えて、俺の両肩をガッシリ掴んで来た。
「そんな事ないよ!写真のコタロー、めっちゃカッコ良かったよ!試合の時の写真もいいけど、見開きのアップも凄く凛々しくてね、思わず見惚れちゃって……あっ!」
ーーああ、マジで俺の彼女、めっちゃ最高だな。
『あっ、しまった!』とでも言うように雑誌で口を覆う仕草、思いっきりキョドッてる目元。耳まで真っ赤な顔……。
どれを取っても可愛くて、今すぐ頭のてっぺんからむしゃぶり付きたいくらいだ。
ーーまあ、たとえハナが鬼の形相をしてても、俺には可愛く見えちゃうんだろうけど。
『あ〜あ、予想はしてたけど、コタローがますますモテちゃってる』
今日の放課後、廊下の窓から校門に群がっている出待ちの女子たちを眺めながら、少し寂しそうに呟いたハナを見て、俺は思った。
ーーああ、早く雑誌のインタビュー記事を読ませてやりたい!
それを読めば、ハナの不安なんてあっという間に吹き飛ぶのに。
あんな出待ちのことなんて気にする必要ないって分かるのに……って。
京都での全国剣道大会から2週間。
俺の周囲はそれまで以上に騒がしくなっていた。
雑誌のインタビューや地元のテレビ局の取材、一気に増えたラブレター。母さんの塾にも入塾希望の女子が殺到しているという。
何処で調べたのか、プレゼント持参で家まで突撃してくる女子には閉口した。
俺がハナ以外の子の手作りクッキーなんて口にするはず無いじゃん。それ以前に受け取らないけど。
……って言うか、ハナから手作りのクッキーなんて貰ったこと無いなぁ。クッキーどころかお菓子だって……。
だけど試合の日にはお弁当を作ってきてくれたから、今後は手作りのお菓子だってあり得るんじゃないか?
いや、いっそ俺がハート型のチョコレートケーキでも焼いてやったら喜ぶんじゃ……ソレいいな!
「ちょっとコタロー、真面目に聞いてるの?私は本当に怒ってるんだからね!明日から学校でみんなになんて言われるか……」
自分の妄想にニヤついていたら、フザけていると思われたらしい。頬をプックリと膨らましてチロリと睨んでいるけれど、それもまたイイ。
「うん、俺の彼女はやっぱ可愛いな」
「はあ?何言って……!」
ハナの右手首を掴んで思いっきり引っ張ると、そのまま片手で後頭部を引き寄せキスをした。
「ちょ!……なっ……!」
「ハナ、あの記事を読んでどう思った?俺の気持ちは伝わった?」
口をアワアワさせて狼狽えている姿も、そのあと俯きながらポツリと「うん……」と呟いた時のはにかんだ表情も、やっぱりめちゃくちゃイイ。
ーーうん、彼女になったハナは、やっぱり最高だ。
後半はインタビューの内容になっています。