表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/94

76、 世界一の剣士に、 俺はなる!


トントン……


「はい、 どうぞ」


ドアをガチャリと開けて隙間(すきま)から(のぞ)き込むと、 勉強机に向かって座っていたコタローが、 椅子ごとクルリとこちらを向いた。



「おう、 来たな、 そこに座れよ」

「はい…… お邪魔します」



この部屋に来たのは随分(ずいぶん)と久し振りだけど、 前に私が来た時と(ほとん)ど変わっていない。



私が昔プレゼントした、 芝犬(しばいぬ)デザインの抱き枕がある場所が、 私の(てい)位置。


だから私は、 当然のようにコタローが指し示したミニテーブルの前に座り、手触りの良いフニフニの抱き枕を(かか)えてベッドにもたれながら、 コタローの言葉を待った。



「え〜っと…… それじゃ、 例の約束の確認をするぞ」

「はい」


椅子から立ち上がったコタローが私の隣によっこいしょと腰を下ろし、 ベッドにもたれ掛かると、 ベッドのスプリングがギシッと音を立てた。



「全国の中学生剣士(けんし)が集まって日本一を決める剣道大会が、 8月第4週の土曜日に、 京都で行われる」

「はい」


「大会に参加出来るのは、 地区大会を勝ち抜いて来た()りすぐりの選手のみ。 俺はその試合に県代表として出場する」

「はい」



ここでコタローは、 私の方に顔を向けて、 かみ砕くように説明し始めた。



「いいか、 ハナ。 今や剣道は日本のみならず、 世界で250万(ちょう)の人が習っている武道(ぶどう)だ。日本の剣道人口は約180万人、 そのうち中学生剣士が11万人くらいだと言われている」

「はい」


「剣道は3年に一度、 世界選手権が行われていて、 去年の大会では、 団体戦、 個人戦共に、 日本が優勝している。 つまり、 世界一剣道が強いのは日本なんだ」

「はい」



約束の確認をすると言いながら、 コタローはひたすら剣道の説明を続けている。


だけど、 コタローがそれを私に話して聞かせるということは、 これからの話に必要だということなんだろう。


だから私は、 大事なことを絶対に聞き(のが)すまいと、必死で話に集中した。




「だからな、 俺が何を言いたいかというと…… 」


コタローが身体ごと私を向いて、おもむろに正座をした。

なので私も釣られて、 膝の上の芝犬を横にどけて正座になる。



「世界一剣道が強いのが日本で、 その日本の中学生が集まって日本一を決める大会に、 俺は出るんだ。 つまりだな…… 今度の大会で優勝出来れば、 それは世界一の中学生剣士ということになる」


「…… ああ、 本当だ! 凄い! 」


私がポンと手を打って納得すると、 コタローも目を細めて頷いた。



「だからな、 ハナ」

「うん」


コタローがモゾモゾっと動いて、 居住(いず)まいを正した。



「俺が世界一の男になったら、 俺と付き合って下さい! 」



正座のまま頭を下げ、 右手を差し出した。



ーー そんなのもう…… 決まってるじゃん!



この前の告白で、 もうとっくにお互いの気持ちなんて分かりきっている。


だけど、 改めてちゃんと伝えてくれる、 きちんとケジメをつける、 それがコタローなんだ。



『もしも負けたら? 』なんて言うのは愚問(ぐもん)だ。


コタローは勝つために毎日早朝のトレーニングを続け、 足首を捻挫(ねんざ)した時でさえ、 稽古に顔を出していた。


コタローの中にある理想の形を実現させるために、 ずっとずっと頑張って来た。

その集大成が今度の試合なんだ。



コタローはきっと勝つ。 勝って世界一になる。


だから私も……。



「分かりました。 よろしくお願いします。 だから…… 全国大会で優勝して、 私を彼女にしてください! 」



コタローが差し出した手をギュッと握り返して頭を下げたら、 同時にグイッと引っ張られて、 厚い胸にぽすんと身体ごと収まった。



「………… っしゃあ〜っ! 世界一の剣士に、 俺はなるぜ! 絶対に優勝して、 お前を世界一の男の彼女にしてやるからなっ! 」


「…… うん」



コタローの力強い腕に抱き締められて、『コレってもう既に彼女じゃね? 』なんて憎まれ口を叩きそうになったけれど…… 今日だけはツンデレを封印して、 この甘い雰囲気にどっぷり(ひた)ることした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ