表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/94

66、 コタロー告られる (1)


虎太郎(こたろう)くん、 これからちょっといいかな」


色葉先輩たち3年生の卒業式が終わった後、 剣道部員全員で集まって校庭で写真を撮っていたら、隣に並んでいた色葉先輩から急にそう声を掛けられた。



こっそり耳打ちするならまだしも、 普通のボリュームで、 しかも俺の腕を両手で引っ張りながらだったものだから、 一緒にいた剣道部員だけでなく、 周囲の生徒たちの注目も思いっきり集めてしまっている。


案の定、 あちこちからカシャカシャというシャッター音が聞こえてきた。



ーー これはやっぱり、アレだよな……。



卒業式で、 色葉先輩で、 呼び出し。

これは流れからすると、 やっぱりアレなんだろう。



色葉先輩に腕を引かれながらふと振り返ったら、 京ちゃんと一緒にこちらを見ているハナと目が合った。

そして当然のようにフイッと目を()らされた。



ーー うわっ、 見られたか……。



だけど、 今日の俺は不思議と心が()いでいる。


去年のクリスマス会の後でハナにちゃんと弁明(べんめい)出来ているというのもあるし、 何より、 先日のじいちゃんとの会話で俺の(はら)が決まったというのが大きいのだろう。




色葉先輩は、 武道場の裏で立ち止まってクルリと振り返ると、 ニコッと微笑みながら俺を見上げた。



「虎太郎くん、 私がどうしてここに呼び出したのか、 もう分かってるよね」

「まあ…… 薄々(うすうす)は…… そうじゃないかと…… 」


「うん、 たぶん君の予想は当たってる。 だけどその前に、 私の決意表明を聞いて欲しいんだ」

「決意表明? 」


「うん、 そう。 ちょっと長くなっちゃうけど、 黙って聞いてね」

「………… はい」


色葉先輩は少し睫毛(まつげ)を伏せてから大きく深呼吸すると、 ゆっくり話し始めた。




「まずね…… 虎太郎くん、 私は2年前の中2の春、 君に一目惚れしました。 武道場の壁沿いにズラッと並んだ新入部員の中で、 最初から君だけが光って見えました。 新入部員が正座して見ている前で模範(もはん)稽古を披露することになった時、 私は君のことが気になって集中を()いて、 打ち込んだ拍子(ひょうし)に足首を(ひね)ってしまいました。 その時に真っ先に駆けつけてくれたのが…… 虎太郎くん、 君でした。…… 覚えてる? 」



俺はコクンと(うなず)いた。


「はい……。 俺が応急処置をしました」


入部初日の出来事だったから、 よく覚えている。

確か、 近くにあったパイプ椅子に座らせて、 俺の防具入れの中から出してきたテープでテーピングをしたんだった。



「お姫様抱っこをされたのなんて生まれて初めてで、 しかもそれが一目惚れした相手で…… そんなの夢中になっちゃうよね。 だから私は、 それまで剣道部に無かったマネージャーに立候補して、 少しでも接点を増やそうとしたの」



ーー 知らなかった…… マネージャーって色葉先輩が初だったのか。 しかも俺のためって……。



「それからは、 学校の校庭でも廊下でも、 自然に君の姿が目に飛び込んでくるようになりました。 そしてすぐに、 いつも君の隣にいる女の子の存在に気付きました。…… ちょっと誰かに聞いたらすぐに分かった。 幼馴染の桜井花名(さくらいはな)ちゃん。 あなた達、 小学校の頃から有名だったのね。 2人で1セットのニコイチだって」



「それで…… すぐに気付いたの。 ああ、 虎太郎くんはハナちゃんのことが大好きなんだな…… って。 だって、 彼女を見てる時の君は、 (とろ)けるような表情(かお)をしていて、 まるでお姫様に仕える騎士(ナイト)のように甲斐甲斐(かいがい)しく世話を焼いてるんだもの」



ーー そんな以前からずっと見てくれていたのか……。



「だから…… すぐに告白しても勝ち目がないって分かった私は、 普通の先輩として接しながら、 少しでも振り向いてもらえるように頑張ろうと決めました。 そのうちに、 ハナちゃんが彼女ではないって分かって、 その気持ちが余計に強くなって……。でも、 いくら必死になっても、 君はずっとあの子だけを見ていて、 結局これっぽっちも振り向いてはくれなかった。 あれだけあからさまにアピールしてたのにね。 虎太郎くんも気付いてたよね? 」


「…… はい」


「虎太郎くん、 冷たかったよね〜、 女子が待ち伏せしてるのに、 自転車を止めもしないで挨拶だけして走ってっちゃうんだもの。 塩対応(たいおう)にも程がある! だよ」


「…… すいません」



色葉先輩はふふっと含み笑いしてから、 一歩前に進み出て、 姿勢を正した。



「それでも私は、 (あきら)める気はありません! ……天野あまの虎太郎くん、 私は君のことが好きです。 私とお付き合いしてください」


ペコリとお辞儀しながら右手を差し出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ