62、 クリスマスプレゼント
クリスマス目前の土曜日。
塾を早めに終わらせた今日は、 塾の生徒を招待してのクリスマス会が催されていた。
お手伝い要員である私たちは、 サンタのコスチュームに身を包み、 風子さんの手足となって飲み物を配ったり、 ゲームの進行を手伝ったりと、 大忙しだ。
風子さんに言われて3人でサンタのコスチュームを買いに行った時、 可愛いミニスカサンタのを買おうとしたら、 コタローにマジギレされて却下されてしまった。
だから今日の私たちは、 3人揃ってオーソドックスなおじさんサンタ。
ちぇっ、 せっかくコタローに可愛い姿を見せようと思ったのに。
午後6時から始まった会は、 小さい子から徐々に抜けていき、 午後8時半には終了した。
それから片付けが終わったのが9時近くで、 京ちゃんがお母さんの車で帰って行くと、 教室にはサンタの格好をした私とコタローと、 黒いゴミ袋2つだけが残された。
「さて……と、 このゴミ袋は俺が玄関に出しとくからさ、 ハナはもう帰っていいぞ。 お手伝い、 サンキューな」
「えっ、 あっ、 ちょっと待って! 」
急に私が叫んだものだから、 コタローの手が滑って、 持ち上げかけていたゴミ袋がドサリと床に落ちた。
「あっ、 ごめん! ちょっ…… ちょっと待ってね! 」
怪訝そうな顔をしているコタローを置いて部屋の隅に行くと、 私は手提げカバンの中から紙袋を取り出して、 コタローの前に立った。
「はい、 クリスマスプレゼント。 ちょっと早いけど、 当日に会えるかどうか分からないから」
「…………。」
コタローはしばらく黙って見つめてからその包みを手に取って、 中身を取り出した。
「これ…… 出たばっかの最新巻か」
「うん、 そう。 まだ読んでないでしょ? 」
それはコタローが買い続けている漫画の最新巻。
いつからそうなったのか記憶に無いけれど、 私たちのクリスマスプレゼントは漫画と決まっている。
たぶん、 私のお小遣いが足りなくて漫画の最新巻を買えなかった時に、 コタローが『クリスマスプレゼント』と言って買ってくれたのが始まり。
それ以来、 クリスマスの日に本屋で一緒に漫画を選んで贈り合うのが、 私たちの恒例行事。
どのみち両方の漫画を読めるので、 いいアイデアだったと思う。
買った漫画をどちらかの家で一緒に読んでそのまま放置して行くものだから、 今ではどの漫画がどっちの持ち物かも分からなくなって、 本棚の中には何冊か数字の抜けた単行本が無秩序に並んでいる。
今までは、 それで困らなかったし不便を感じることも無かった。
だって家に無くたって、 読みたければ隣の家に行けば良かったから。
だけど今年のクリスマスは一緒に本屋に行けないだろうから…… 私は1人で、 いつものように漫画を買って贈ることにしたんだ。
コタローは私が贈った漫画をじっと眺めていたけれど、 しばらくすると、「ちょっと待ってて」と本を私の手に押し付けて出て行ってしまった。
2分ほどして戻って来ると、「ほら、 コレ」。
私があげたのと同じ本屋の包みを差し出して来る。
ーー えっ?!
急いで中身を取り出してみたら、 コレまた私があげたのと同じ漫画の最新巻。
「俺も…… さ、 クリスマスプレゼントにと思って。 ハハッ、 2人して同じ事を考えてたのな」
「なんだよ…… 丸被りしちゃったじゃん…… 」
「ハハッ、 ホントだな」
「私…… 今年はコタローからプレゼントなんて貰えないと思ってた…… 」
「なんでだよ、 そんなこと言うなよ! 」
「だって…… 」
だって、 今年はコタローにいっぱい嫌な思いをさせた。
嘘をついた。
酷いことを言った。
いっぱい困らせた。
ーー だから、 サンタさんのプレゼントを貰う資格なんか無いって……。
「まあ、 とにかく…… プレゼント、 サンキュ」
「うん…… コタローも、 プレゼントをありがとう」
同じ漫画を手に見つめ合いながら、 2人してなんだか照れ笑いする。
「あのさ…… 」
コタローが片手で頭を掻きながら、 斜め上の方向を見て、 ボソリと言った。
「ほら、 別々に買いに行くとこうなっちゃうだろ? …… だからさ、 来年からはやっぱ、 クリスマスに一緒に選びに行こうぜ。 それで、 本屋の帰りにまた駅前のツリーを見て帰ればいいじゃん」
「……うん」
ーー コタロー、 それってさ……。
それって、 来年も再来年も、 クリスマスは一緒にいてくれるってことなの?
なんだか、『これからもずっと隣にいていいよ』って、『 特別だよ』って言われてるみたいで…… 。
その言葉が、 今までで一番嬉しいクリスマスプレゼントになった。