59、 コタロー、 崖っぷちに立たされる (2)
ギャッ! と、 自分でもビックリするほど変な声が出た。
ニワトリが首を絞められたらこんな声になるんだろうか。
まさしく断末魔……。
「なんでハナが知ってるんだよ。 アイツはスマホなんてメールかゲームくらいでしか使わないだろっ?! SNSなんて見ないはずなのに…… 」
「本人が見なくてもね、 周りには『親切』という名の『お節介』をする人間が、 少なからずいるんです」
京ちゃんは苦々しい顔をしながら、 今のハナの状況を説明した。
ハナは俺とお昼に会わなくなって、 最初は1人でボッチ飯をしようとしていたらしい。
普通に喋ったり一緒に移動教室に行く友達はクラスにもいるけれど、 お昼は俺と会うというのが周囲にも暗黙の了解になっていたから、 今更「お昼を一緒に食べて」とは言い出せなかったそうだ。
小心者のハナらしい。
1人で机に向かっていたら、 さすがに友達が気付いて声を掛けられて、 みんなで一緒に食べようということになった。
そこでハナが放った「もうコタローとは一緒に食べてないから」の一言で、『とうとう2人は別れたのか』、『そういえば最近、 天野は色葉先輩と一緒にいるらしい』と教室中がザワついた。
そのうち噂が学校中に広まって、 噂好きの後輩が、 「桜井先輩、 私は先輩派ですよ! 色葉先輩に負けないで下さいね! 」だとか、 「天野先輩が滝高の学園祭に色葉先輩と行ってたって本当なんですか?! 」なんて、 聞いてもいないのに、 いろいろな情報を伝えてくるようになった。
『もうみんな、 うるさい! 私に聞かれたって知らないよ! 私の方がどうなってるのか聞きたいくらいだよ! 』
ハナはそう言って、 調理室に駆け込んできたという。
「京ちゃん…… 俺、 終わったな…… 」
足から力が抜けて、 思わず廊下の手摺にもたれ掛かる。
ハナが謝りに来た朝の、『『まだ』普通には出来ない』の言葉を信じて、 ゆっくり待っていた。
その間に、 落ち着くどころかどんどん悪い方に転がっているんじゃないか?
俺は間違ってるのか?
なんだか眩暈がしそうだ……。
「まあ、 コタローが終わったかどうかは知らないけど、 今が崖っぷちであることは確かだよね」
「崖っぷちっていうか、 崖から足を踏み外して、 細い枝に片手でぶら下がってるレベルじゃね? 」
「…… そんなコタロー君に、 サンタさんからのプレゼントがあります」
「えっ? 」
京ちゃんはメガネも掛けてないのに、 まるでメガネを指でクイッと押し上げるような仕草をして、 フフンと自慢げに口角を上げた。
「クリスマス会の準備の日ね、 私は病欠するから」
「えっ? そんなんハナが嫌がるだろ」
「嫌かどうかは本人に聞きなさいよ。 それで、 とりあえず誤解だけは解いてあげて。 クリスマス会の本番で変な空気になるのは御免だから」
ーー 誤解を解く……。
そうだよな、 まずはそれをしないと、 ずっと俺たちは拗れたままだ。
「…… なあ京ちゃん、 ハナって俺のことをさ…… 」
そこまで言って、 首を横に振る。
「いや、 いいわ。 そういうのを陰で本人以外から聞き出そうとするのって、 卑怯だよな」
京ちゃんは目線を上にやってちょっと考えていたけれど、 それから俺の目を真っ直ぐに見つめて言った。
「うん、 私はハナの親友だから、 ハナの気持ちを勝手に誰かに喋ったりはしない。 だけどコタローも大事な親友だから、 上手くいくよう心から応援してるよ。 あとはコタローがハナの心を開いてあげて」
「京ちゃん…… サンキュ」
「決戦は来週の金曜日だよ。 グッドラック! 」
俺の肩をポンと叩いて颯爽と去って行く後ろ姿は、 サンタじゃなくてスーパーヒーローに見えた。
ーー あれは『戦隊シリーズ』なら絶対に赤レンジャーだな。
「俺だって…… 」
頑張ろう。 崖っぷちにしがみ付いてでも。
『食いしん坊将軍』に赤レンジャーの京ちゃん。
ハナの周りにいるカッコイイ奴らに負けないように…… 俺は俺に出来る全てで、 ひたすら上を目指すんだ。
まずは…… 自分が見せることが出来る全部の誠意をありったけ絞り出して…… ハナの誤解を解く。
決戦は来週の金曜日。