表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/94

52、 対価交換、終了 (2)


部屋のドアに向かって拒絶(きょぜつ)の言葉をぶつけたあと、 そのまま枕に顔を押し付けて、 自己嫌悪に(おちい)った。



後悔するくらいなら、 あんなに(ひど)い言葉を言わなければいいのに。

コタローは何も悪くないのに……。



嘘をついていたことがバレたのが、 身悶(みもだ)えするほど恥ずかしくて、 情けなさで一杯になって、 行き場のないその感情を、 コタローに向かって爆発させた。



ーー 最低だ…… 私。




その時、 カチャリとドアが開く音がして、 しばらくしてから、 ギシッとベッドが(きし)んだのが分かった。



ーー ああ、 そうだ。 コタローはこういうヤツだった。




「私、 入っていいって言ってない」


枕に顔を(うず)めたまま、 くぐもった声でそう言ったら、 返事は思いのほかすぐ近くから聞こえてきた。



「…… 入ってもいい? 」

「…… ダメ」



「…… お部屋に入ってもよろしいでしょうか? お嬢様」

「………… ダメって言った」



「でも、 もう入っちったし」

「もう…… だったら聞くな! 」



ガバッと起き上がって枕を(つか)むと、 力任せに振り下ろす。


だけど、 その枕はボフッという気の抜けた音と共にコタローに掴まれて、 あっけなくベッドの横に追い()られてしまった。



ーー 悔しい! 恥ずかしい! 逃げたい!



布団の中に逃げ込もうとしたら、 手首を掴まれて、 グイッと引き寄せられる。


そのまま両手を(とら)えられ、 顔を隠すことも出来なくなった私は、 真っ赤な顔を(さら)け出すしかなかった。



「ハナ…… ロールケーキって、 4ヶ月も前だよな」

「…………。 」



「お前、 どうして…… 」

「うるさいっ! 」


「お前さ、 もしかして…… 」

「うるさいっ! うるさい、 うるさい、 うるさいっ! 」



最後までコタローに言わせちゃいけない。

その先の質問はさせちゃいけない。


私はその答えを…… 絶対に言いたくない。



「もう嫌だ…… 」


蚊の鳴くような声で(つぶや)いたのは、 涙の粒がポトリと落ちるのと同時だった。



「ハナ…… 」


「もう嫌…… もうやめる。 対価交換もチョコレートも」



狼狽(うろた)えたのは、 私の涙にか、 言葉にか…… 。

コタローの瞳がユラリと揺れて、 唇がわずかに開いた。



「俺は…… 嫌だ、 やめたくない」


「…… 私はやめたい…… やめる! 」


最後はしゃくりあげながら、 声にならない声で訴えた。


一度(あふ)れ出した感情は自分でも止められなくて、 嗚咽(おえつ)は次第に大きくなり、 最後は「わーーっ」と幼児のように大声で泣きだした。



「ハナ、 聞いて」

「嫌だ! 」


コタローの言葉にも耳を貸さず、 首をイヤイヤと横に振る。



「ハナっ」

「嫌っ! 」



「聞けよっ! 」


次の瞬間、 泣きわめく私の口は、 コタローの唇によって乱暴に(ふさ)がれた。



私がビックリして目を見開いたら、 コタローの方がもっとビックリした顔をして、 パッと手を離した。



「ごめん…… ハナ…… 俺…… 」


コタローはゆらりと立ち上がって、 唇をギュッと()んだ。



そのまま幽霊みたいな足取りでフラフラと歩いて行くと、 ドアの前で立ち止まって、


「分かった…… 対価交換は終了な」


(かす)れた声でポツリと言い残して、 ドアの向こうに消えて行った。



コタローが振り返らなかったから、 その表情は見えなかったけれど、 なんだか泣いていたような気がした。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ