46、 コタロー花を咲かせたい
レビューいただきました。 ありがとうございます!
感謝の気持ちを込めて、 コタローから満開の花を贈ります!
ハナの真意を確かめたい俺は、 目の前のペンケースを手に取って眺めながら、 何気ない口調で呟いてみる。
「ああ、 そう言えば…… 」
「そう言えば? 何っ?! 」
おおおっ、 思いっきり被せ気味で来たな、 コイツ。
「ペンケースさ、 欲しいには欲しいんだけど、 まだ使おうと思えば使えるから、 無理して買い換えなくてもいいかな…… とも思っててさ」
「へっ、 へぇ…… 欲しいには欲しいんだ」
「うん、 欲しいには欲しい…… けど、 まだ検討中の段階」
「へぇ〜っ、 検討してるんだ」
「うん、 検討はしてる」
「ふ〜ん…… 」
あっ、 「ふ〜ん」で会話が終わってしまった。
ーー それで、 お前は、 一体、 どうしたいんだ? ハナ。
やはりさっきのは、 俺の願望が膨れ上がったあまりに、 ハナの言葉を深読みしてしまっていただけなのか……。
ハナが黙ってしまった以上、 そこでぼ〜っとしている意味も無くなって、 俺は少しガッカリしながら、 手に持っていたペンケースを棚に戻した。
「そろそろ帰るか? ロッカーの中の氷も溶けちゃうしな」
先に立って歩き出したら、 後ろからギリで聞き取れるくらいのボリュームで、「ペンケース…… 」と小さく言うのが聞こえた。
思わず立ち止まったら、 背中にドンッとぶつかる感覚と、「痛っ! 急なストップ禁止! 」と言うハナの声がして、 さっきの呟きはやっぱりコイツだよな…… と確信する。
いやいやいや、 期待しすぎるな、 俺!
妄想と願望をコントロールしろ!
ぬか喜びして後でガッカリするのは御免だ。
コイツは予想の斜め上を行くヤツなんだ。
ーー だけどさ……。
このシチュエーションで、 期待するなって言う方が無理だろ?
「そう言えばさ…… 」
さりげなさを装って、 話題を元に戻す。
「ペンケースさ、 インターネットで見たときにどの色がいいか迷って決めれなかったんだよな〜。 帰ったらハナが一緒に見てくれない? まだ検討中だけど」
「ホント?! 見る! 私が一緒に見るよ! 検討、 検討! 」
あっ、 また食い気味。 そしてめっちゃ笑顔。
「それじゃ帰ろうよ! 帰って一緒に見よっ! そのサイト」
今度は一転、 俺のブレザーの袖を引っ張ると、 先に立って歩き出す。
ーー これはビンゴ! …… でいいんじゃないか?
ハナ、 今は絶対に振り向いてくれるなよ!
たぶん今、 俺の顔はニヤけまくりで、 史上最高にキモい奴になっている。
ハナのこの変化の意味をどう捉えるべきか…… 俺が期待してる方向に変わっているのか否か……。
ふと、 小学校の夏休みの宿題であった、『あさがおの観察日記』を思い出した。
学校で植木鉢にあさがおの種を植えて、 夏休みに家に持ち帰って成長記録を書くヤツだ。
俺は部屋のベランダに鉢を置き、 毎日マメに水を与え、 日光に当てて世話をした。
お陰で俺のは順調に育ったけれど、 ハナは水やりをサボって放置してたせいか、 なかなか芽が出なくて半泣きになっていた。
それで、 仕方なく俺が自分の植木鉢の隣にハナのも置いて、 両方世話をするようにしたら、 無事にそっちもちょこんと小さな芽を出して、 最終的には花を咲かせることに成功した。
ハナは毎日俺の家に来ては、 俺と一緒にあさがおの成長を喜び、 観察日記を書いていた。 めっちゃ下手くそな絵と共に。
あの時みたいに、 俺がせっせと注いできた愛情がちょっとでも届いて、 ハナの心に何らかの感情が芽吹いてくれていたとしたら…… とても嬉しいな、 と思う。
俺のハナへの気持ちはいつでも満開で、 今も次々と新しい蕾をつけては花開いているけれど、 ハナの気持ちはたぶんまだ固い土の中だ。
だから、 ハナにも俺が抱いているものに近いような気持ちを持ってもらえるよう、 毎日せっせとチョコを運び、 愛情のシャワーを浴びせて、 ゆっくりでいいから気持ちを育てていきたいんだ……。
「ハナ、 またコケると危ないから、 はい」
エスカレーターの手前で左手を差し出したら、 「あっ、 はい」と言って、 ハナが右手で握りしめてきた。
コイツの頬がポッと赤くなったのは、 やっぱり俺の願望が見せている幻なのか否か……。
いつか花開く日が、 来るのか、 否か……。