44、 誕生日プレゼント (2)
「…… ねえコタロー、 私があげたガラクタって、 もう捨てた? 」
モールの2階に移動するエスカレーターに乗りながら、 思い出した途端に気になって仕方がなかった、 プレゼントの事を聞いてみた。
「えっ、 ガラクタ? なんだソレ」
「ほら、 変な絵とか『肩たたき券』とか『宇宙の石』とか…… 変なのいっぱい押し付けたじゃん」
「ああ、 誕生日プレゼントな。 モチロンちゃんと箱に入れて残してあるって」
「えええっ?! アレを? 箱に?! 中で虫でも湧いてそうだな」
私が手すりにつかまりながら振り返ったら、 コタローが後ろでちょっとムッとした顔で見上げていた。
「お前なぁ〜、人様の宝物に向かって ガラクタとかアレとか失礼だな」
「だって、 あんなの…… 10円の価値も無い」
そうだ、 あんなの、 チョコ1粒の価値さえない……。
「お前分かってないな。 贈り物っていうのは相手を喜ばせてナンボなんだよ。 俺がお前のプレゼントで満足してるんだから、 その時点で最高の贈り物だってコトだろうが」
「ええっ?! コタローあんなの貰って嬉しいの? 」
「嬉しいに決まってるじゃん! お前が俺のことを考えて選んでくれたんだから…… あっ、 そう言えば、 あの俺の似顔絵さ、 学校の図工の教科書に載ってたピカソの絵に影響受けて『ピカソ風』とか言って、 顔のパーツの位置がメチャクチャでさ、 あれ笑ったよな〜 」
ーー ピカソ風…… って、 あんまり記憶にないけど、 要は似顔絵なのにスプラッターみたいにグチャグチャだったって事か。 怖っ!
「あとさ〜、『宇宙の隕石』! あれ面白かったよな。 『宇宙人が取り返しに来るかも知んないから隠せ!』とか言ってさ、 2人でばあちゃんの仏壇の香炉に突っ込んでたら母さんに見つかってさ」
ーー ああ、 思い出した…… あったわ、 そんな事。
罰が当たるとビビるコタローを説き伏せて、 香炉の灰の中に石を突っ込んでたら風子さんに見つかって、 仏壇の前で正座させられたんだった。
『ご先祖様を敬うということは…… 』とか宗教の講義みたいになってたら、 お祖父さんの宗次郎先生が、 『子供達と一緒に遊べてお婆さんも喜んでるよ』って解放してくれた。
あの時も、 コタローは悪くないのに私のせいにはせずに、 一緒に叱られてくれたんだよね……。
うわっ、 掘れば掘るほど鬼畜の所業が出てくるな。
だけど、 私にとっては黒歴史の諸々を、 コタローは『嬉しい』、『楽しい』と言ってくれてるんだ……。
ーーうん、 絶対に過去最高のプレゼントを贈る!
まあ、 今までが今までだけに、 何を贈っても『過去最高』になりそうではあるけれど。
「おい、 ハナ! 足元! 」
「えっ? 」
考え事をしている間に、 エスカレーターが終点に来ていたらしい。
ローファーの爪先がトンと引っ掛かって前のめりになったところで、 コタローが腰に回した腕でお腹から抱えられて、 一緒に地面に降り立った。
「…… っぶな! お前、 ぼ〜っとし過ぎ! 」
「…… っ、 ごっ、 ごめん!…… あっ、 足は? 足! 挫いてない? 」
「ハハッ、 大丈夫だって。 そんなしょっちゅう挫いてたら、 俺どんだけアホだよ」
「いやぁ…… コタローがアホじゃなくても、 私のアホに巻き込まれて…… 」
階段に引き続きエスカレーターでもコタローに怪我させたら、 いたたまれなくて生きていけない。
私が自分の鈍臭にシュンとしてたら、 コタローがグイッと顔を覗き込んできて、 至近距離でニヤッと笑った。
「ハハッ、 ハナのくせに反省してる! 」
「はぁあっ? 私だって人並みに反省くらいするわっ! 」
「そうか…… そんじゃ、 ん」
コタローが突き出してきた左手を不審な目で見ていたら、
「反省してるなら、 ちゃんと付いて来いよ、 ほら」
もう一度グイッと目の前に左手を差し出された。
「ああ…… はい」
その指先を右手でちょこんと掴んだら、 コタローの大きな手の平で包まれて、 普通に恋人繋ぎになっていた。
「…… 行くよ、 お店、 こっちでいいの? 」
「違う…… 反対側」
「ええ?! 早く言えよな」
「…… うん、 ごめん」
「いや…… 別にいいけど」
コタローの顔が赤い。 耳まで赤い。
だけどきっと私の顔は、 それよりもっと真っ赤っかだ。