43、 誕生日プレゼント (1)
「ねえコタロー、 ついでに雑貨と本屋も見てこうよ」
コタローは私の提案に「ええっ?! 」と思いっきりビックリしたような声を上げて、 自分の両手を見下ろした。
「お前さぁ、 ソレ先に言えよ。 もう食品を買い込んじゃったじゃん、 どうすんの、 コレ」
肩をすぼめながら、 両手に抱えたスーパーのビニール袋を持ち上げて見せる。
うわっ、 すんごい迷惑そうな顔してる。
そりゃあさ、 食品をしこたま買い込んでから言うことじゃないとは思うけどさ…… お肉をカートに放り込んでる途中で思いついちゃったんだもん。
コタローの誕生日プレゼントを買いたいな…… って。
実を言うと、 私はコタローにちゃんとしたプレゼントをあげた事が無い。
いや、 一応『プレゼント』と呼ばれる物は毎年渡している。
幼い頃にお互いの親が取り決めた、『お誕生日とクリスマスはお小遣いの範囲内でプレゼントを贈り合いなさい』というルールに従って、 年に2回のプレゼント交換は欠かさず行ってきた。
でも、 だけどね……。
私がコタローにあげた物って、 プレゼントと呼ぶには語弊があるような品ばかりなんだよね。
私が過去に贈ったもの列伝。
それは自分がコタローの部屋に置いてあったら便利だな……と思うもの……
例えば、 小さい頃には10円の『うまいぞ棒』や100円の『じゃがりっこ』などのスナック菓子。
これはコタローにあげた直後に半分こして一緒に食べた。
例えば、 小学校低学年の時は、 私お気に入りの『イチゴの香りつき消しゴム』だとか、 お絵かき用の『落書き帳』。
もちろんコタローの部屋で私が使う。
最近だと、 柴犬デザインの抱き枕が私の中では大ヒットだった。
コレはお店で一目惚れしたのはいいけどお金が足りなくて悩んでたら、 コタローが「俺へのプレゼントで俺が使うんだから、 ちょっと負担するよ」と半分払ってくれた。
今やすっかり私の専用枕と化していて、 コタローの部屋でゴロ寝する時にはめちゃくちゃ重宝している。
お小遣いが足りない時は、 広告の裏に描いた似顔絵だったり『肩たたき券』という事もあった。
ああ、 そう言えば、 庭で黒と銀色が混ざったようなキラキラした石を拾った時は、『宇宙から落ちてきた隕石だから、 宇宙人にバレないように隠しておけ』と言って渡したこともあったなぁ……。
まあ、 何ということでしょう!
束ねて捨てるだけの広告が、 裏に絵を描くことで壁を飾る絵画に!
庭に転がっているだけの石ころが、 見事な設定付けのお陰で希少価値のある宇宙の石に!
…… って、 こんなの絶対に嬉しくな〜〜い!
自分の誕生日に宇宙人から石を隠さなきゃいけないって、 一体どんな罰ゲームだよ。
思い出せば出すほど私って最低のクズ人間だな。
それに引き換えコタローの優しさよ……。
コタローは私のこんな理不尽な仕打ちにも怒ることなく、 いつも、 何をあげた時でも、 文句ひとつ言わずに受け取ってくれたんだ。
「やった〜! サンキュ! 」
って、 満面の笑みで。
そして私の誕生日には、 ピンポイントで私が欲しいと思っていた物……
お小遣いが足りなくて買えていなかった漫画の最新刊とか、 開店前から並ばないと買えない人気のフルーツタルト、 可愛いボンボンが付いたミトンの手袋……
なんかを、 大きなリボンを付けてプレゼントしてくれてたな……。
ああ、 そう言えば、『食いしん坊将軍』様の直筆サインって、 どうやって手に入れたんだろう?
ちゃんと『花名さんへ』って達筆で名前まで入ってたけど、 あれって第4シリーズの時の視聴者プレゼントだったよね。
まさか必死でハガキを書きまくったのかなぁ…… まさか、 まさかね…… ハハッ。
やっぱりダメだ、 今年こそはちゃんと人間らしいものを贈ろう、 贈りたい。
「ねえコタロー、 やっぱり雑貨を見に行っちゃ駄目? 」
「…… ったく、 しょうがないな…… コイツらはロッカーに入れとこう。 氷と一緒に放り込んどけば大丈夫だろ」
「やった〜! 」
ねえコタロー、 今年はちゃんと吟味して、 本当にコタローが欲しい品をプレゼントするよ。
心を込めて、 気持ちを込めて、ずっと隣にいてくれる優しさへの感謝を込めて…… 。
コタローはいつもみたいに満面の笑みで喜ぶのかな。
「やったー! 」って目を細めるのかな?
だけどね、 コタロー。 今年のプレゼントは一味違うんだよ。
隠し味で、 いつもとは違う気持ちも入れるんだ。
箱の奥にドキドキを隠して、 箱の上には『好きだよ』って気持ちをリボンで結びつけて……。
気付くかな? 気付かないかな?
…… 気付かないよね…… 気付け…… 気付かないで……。
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