42、 コタロー後悔する (3)
俺が黙りこくっていると、 色葉先輩がアイスティーを一口飲んで、 言葉を続けてきた。
「それでね、 さっきの続き。 私、 ずっと虎太朗くんの事が気になっててね、 先輩と後輩だけじゃなくて、友達として仲良く出来たらいいな…… って思ってるの」
「友達…… ですか」
「うん、 そう。 虎太朗くんとハナちゃんがただの幼馴染で恋人じゃなくても、 とても仲良くしてるでしょ? だから私もね、 あんな風に仲良く出来たら嬉しいな…… って…… 」
「無理です」
「えっ? 」
「…… それは無理です。 俺にどんなに親しい人が出来ても、 その人とどんなに仲良くなったとしても…… ハナみたいな存在にはなれないです。 絶対に無理です」
「でも、 彼女は虎太朗くんのことを『関係ない』って言ってたのよ。 虎太朗くんだけ一方的に想いを寄せても報われないと思わない? 私だったら…… 」
「いいんです」
「えっ? 」
色葉先輩が、 俺の返答にいちいち目を見開いて『信じられない』みたいな表情をするけれど、 俺が報われなかろうが信じてもらえなかろうが構わない。
俺はハナに好きになって欲しいと思っているけれど、 それはあくまでも俺の『一方的な願い』であって、 ハナに強制したり押し付けたりするものじゃない。
俺は俺の望みを叶えるために全力で頑張ってきたし、 これからも努力し続ける。
その結果、 ハナが振り向いてくれたらそれはモチロン嬉しいけれど、 残念なことに報われなかったとしても、 それは俺の気持ちの問題で、 ハナのせいではないんだ。
だから……。
「色葉先輩、 俺がただハナの側にいたいだけなんです。 ずっとずっとそうなんです。 だから、 いいんです」
氷の溶けて薄まったアイスティーを忙しなくかき混ぜて、 色葉先輩は今はひたすら自分の手元を見つめている。
「ふ〜ん…… そうなんだ…… 」
急に沈黙が訪れて気まずくなる。
だけど、 俺は言葉を濁して誤魔化したくはなかったし、 ハナとの関係で嘘をつくのも嫌だったんだから仕方ない。
ましてや、 気を持たせるような言葉を口にしたり、 変にいい顔をして中途半端に期待させる方が不誠実だと思うから…… これで先輩が愛想を尽かしてくれるなら、 それが一番いいと思った。
「…… 分かったわ、 虎太朗くん」
「えっ? …… はい…… 」
色葉先輩が急にパッと顔を上げて、 右手を差し出してきた。
「私と君とはまだ付き合いが短いし、 ハナちゃんの代わりにはなれないって分かったわ。 だから、 2番目でいい。 友達として、 よろしくね! 」
「えっ…… あっ…… はい」
勢いに釣られて握手を交わしてしまったけれど、 なんだか肝心な部分が解決していないというか、 上手くはぐらかされてしまったような……。
そうこうしているうちに、 俺は大会で準優勝して、 知らないうちにSNSで写真や動画が拡散されていて、 部活の時に下級生が集まるようになってしまった。
ハナがそういうものに疎くて興味が無いのが幸いだったけれど、 ここまで拡がると、 ハナの耳に噂が入るのも時間の問題だ。
ーー マズイな。 色葉先輩の事とか変に歪曲されてハナの耳に入ったら最悪だ。
そこで俺は考えた。
他人から変に伝わるよりも、 俺がハナしか見てないってことを態度で示せばいいんだって。
だから、 ハナを部活の見学に来させて、 他の女子の目の前でこれ見よがしに頭をポンポンしたりして、 思いっきり特別扱いしてみた。
これはハナに対する愛情表現でもあるけれど、 見学に来てた女子や、 色葉先輩への牽制でもあったんだ。
俺はこんなにもハナにゾッコンなんだぞ……っていう。
結果、 そのせいでハナが女子に囲まれていて、 俺は自分の考えがいかに浅はかだったかって気付かされた。
俺がしたことは、 全部ハナのためじゃなくて自分のためだったんだよな。
俺がハナを好きなことをみんなに知らせたくて、 そして、 あわよくばもう道場に来たり騒がしくして欲しくなくて…… 要はそのためにハナを利用したようなもんだった。
ーー 何やってんだよ、 俺……。 ハナは虫除けじゃ無いっつの!
ハナ、 ゴメンな。
俺が悪かった。
今日は心から後悔したし反省したよ。
ずっと慎重にやってきたつもりが、 最近なんかダメダメだな。
色葉先輩にあんな風に言ったけどさ、 やっぱり今のままじゃ嫌だな……って思ってしまうんだ。
「コタロー! ウインナー、 こっちの白っぽいのと茶色いのとどっちがいい? 」
「そりゃあパリッパリのがいいに決まってるじゃん。 茶色! 」
「オッケー」
左右にピョンピョン揺れるポニーテールを見ながら想う。
ハナ、 俺はもう少し頑張って幼馴染のいいヤツでいるからさ、 今回は魔がさしたということで許してよ。
今回何が起こっていたかなんて、 絶対お前には言わないけどな。