表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/94

39、 親友、 玉野京美の主張


「はい、 約束のスイートポテト。 5個あるから適当に分けてね」

「京ちゃん、 ありがとう! 」


アルミホイルに包んだ出来立てのスイートポテトを手渡すと、 ハナは大喜びで受け取って、 そのまま「はい、 持ってて」とコタローの手に乗せる。



ーー バケツリレーかよっ!


と心の中でツッコミつつ、 いつもの2人のやり取りについニヤつく。



「その様子だと、 無事に手紙は返せたみたいだね」

「うん…… 京ちゃんのお陰」



ヘヘッと照れ笑いしているハナの隣に目をやると、 コタローが申し訳なさそうに小さく頭を下げて、 『すまん』と口だけを動かした。




ーー コタロー、 何やってるのよ! ハナを女の争いに巻き込まないんじゃなかったの?!



この2人、 本当に()れったい。

ジレジレする。



……だけど、 それがイイ!



まさに少女漫画的な王道の展開に、 ワクワクしている自分がいる。



そうです、 やっとフルネームで登場出来ました、 私、 『京ちゃん』こと玉野京美(たまのきょうみ)は、 少女漫画大好き少女です。


私は幼い頃から漫画好きで、 漫画の世界のヒロインに憧れていました。

学年が上がるとライトノベルズやハーレクインも読むようになり、 数々の胸キュン展開に胸を(おど)らせてきました。



いえいえ、 自分がヒロインになりたいわけではなく、 その世界観が好きなんです。



小3で近所の塾に通いだし、 そこでハナとコタローと出会った時、 私は(うれ)しさのあまり机の下でグッと(こぶし)を突き上げました。



だって、 リアル『幼馴染』モノの主役のような2人が、 目の前で『幼馴染』モノの典型的な言動を繰り広げているのだから。



例えば……


塾の3人掛けの長机。

ハナが真ん中の席に陣取って、 その右隣に座ったのが男の子だったら……


「ハナ、 俺、 真ん中の席がいい」

「ええっ、 どこでもいいじゃん」

「俺は真ん中がいいんだよ、 こっちと変われよ! 」

「もう、 ワガママだなぁ…… 」




またある日は……


「桜井、 お前んちの歯医者の待合室にあった漫画さ、 2巻までしか無くて続きがめっちゃ気になるんだけど」

「ああ、 続きなら家にあるよ。 明日学校に持ってってあげようか? 」


「ああ、 ダメだハナ。 それは俺が読もうと思ってたやつだから、 俺が先に読んでからコイツに渡しとくよ」

「もう、 コタローはワガママだなぁ」



後ろの席に座っている私の目の前で、 こんなナイスなやり取りが頻繁(ひんぱん)に繰り広げられるのです。



そうそう、 今はもうやっていませんが、 ハナに甘いもの禁止令が出されるまで、 コタローはいつもポケットに飴玉を入れて持ち歩いてたんですよ。


そうです、 もちろんハナのため。



「コタロー、 今日の飴はどんなの? 」


ハナが『待て』をされた犬みたいにワクワクしながらコタローのポケットを見ていると、


「今日はイチゴミルクだぞ」


なんて言いながら、 コタローが笑顔で飴を差し出すのです。


目尻を下げながらそれを頬張るハナと、 そんな彼女を見つめる満足げなコタローの表情ったら!


甘いっ! 甘過ぎる!



その後チョコレートを渡すようになったのも、 この時のことを思えば必然の流れだったんでしょう。


コタローは根っからの尽くし属性なんでしょうね。




それに、 ハナは全く気付いていないのですが、 コタローは学年を問わず女子にモテています。


ただ、 コタローが分かりやすくハナのそばにベッタリなので、 大抵の女子はその時点で(あきら)めてしまいます。



ごく(まれ)に肉食系の勇者や事情を知らない新入生がアタックしても、 コタローが全く相手にせずに瞬殺(しゅんさつ)なので、 ハナはコタローにずっと彼女がいないのが自分のせいだとは、 (つゆ)ほども思っていません。



そうです。 これもまた美味しいポイントなのですが、 ハナは少女漫画界のお約束、 鈍感 & ツンデレキャラなのです。


そしてそのために、 長らくジレジレ状態が続いているのです……。





物語において多少のすれ違いは程よいスパイスになりますが、 それが過ぎるとイライラに変わります。


中1の春、 ハナとクラスが違ってガッカリしていたコタローを見て、 つい口が滑ってしまいました。


「あのさ、 さすがにもう進展があってもイイんじゃないかな?! 」

「ええっ?! なんで、 お前…… 」



あの時のコタローの驚いた表情は見ものでした。

顔面レベルが高くて高身長、 成績優秀で剣道も強いモテキャラが、 自分の気持ちが周囲にダダ漏れなことに気付いていなかったのです。



極めつけが、 今回の『綺麗なお姉さん系美人』の先輩の登場、 そしてハナの恋心の自覚。


もう王道すぎてワクワクが止まりません!



そして、 ずっと恋愛に無関心だった親友がイジけたり落ち込んだりしながら、 こうして私の元に来ては胸の内を明かしてくれると、 私も物語のモブとして参加させてもらっているようで、 なんだか嬉しいのです。



だけど私は、 モブである以前にハナの友人です。


親友に芽生えたばかりの気持ちを大事にしたいし、 ずっと私にトキメキを与えてくれている2人の恋を応援したいのです。




***



「コタロー、 全国大会の動画見たよ! SNSでもめっちゃ拡散されてるね。『♯ イケメン剣士発見!』」


「うん、 参った……。 こんなので騒がれたくない。 ハナが変に意識する」



「そうだよね〜、 ハナは女の争いに巻き込まれるの、 絶対に嫌がるわ」


「そうだろ? 俺、 こんなのがバレてハナに嫌われたくねえよ! 避けられたらどうしよう。 京ちゃん、 助けてよ! 」



「そんなの自分で頑張らなきゃ。 私が下手に動いたら、 それこそハナが勘繰(かんぐ)るでしょ」


「ああ………… 」



***



うふふふ、 私は今年、 コタローと同じクラスになれて本当にラッキーでした。

ハナのいない所でコタローの本音を思う存分聞けるなんて、 モブとして最高のポジション!



さあコタロー、 今のうちに悩むがいい。


あんたの大好きな幼馴染は、 初めての恋心を自覚したばかりだよ。




私が2人に「あなた達は両想いだよ」って伝えるのは簡単です。


だけど私はそれをしません。


だって、 それをやったら邪道(じゃどう)です。

物語は盛り上がらないし、 速攻で終わってしまうから。


やはり恋愛ものは、 2人がすれ違ったり悩んだりした末に、 自分たちでハッピーエンドにしなくちゃいけないんです。



それに、 私がそんな事を言わなくたって大丈夫。

私がずっと見守ってきた2人は、 典型的な『両片思い』だから。


そして新キャラ『色葉先輩』は典型的な当て馬キャラ。

こんなのにハナが負けるわけがありません。



だから私は今日も、ほんのちょっとだけ背中を押して、 2人を励まし応援するモブの親友キャラの役目を全うするのです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ