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36、 モテ期到来? (1)


金曜日の昼休み、 いつもの対価交換の場でコタローが言った。


「ハナ、 今日の買い物のことだけどさ、 俺の部活が終わるまで待てる? 」

「うん 大丈夫。 時間になったら武道場に迎えに行くよ」


「暇だったら練習を見ながら待っとく? 汗臭(あせくさ)いけど」

「えっ、 いいの? それじゃ、 そうしようかな〜。 汗臭そうだけど」



コタローが練習の見学に誘ってくるなんて初めてだ。

どういう心境の変化?!


だけど、 私だって以前なら、『うるさいし汗臭いし! 』って速攻で断っていたに違いない。



そんな私が今ではちょっと誘われただけで舞い上がってるんだ。


私に心境の変化があったように、 コタローだって、 考えていることがずっと同じ訳ではない……ということなんだろう。





夏休み明け最初の週末の今日は、 コタローの誕生会と全国大会での準優勝祝いを兼ねて、 久々に天野家と桜井家合同の焼肉パーティーをすることになっている。


夏休み中は子供の患者さんが多くてうちの歯科医院が忙しかったため、 夏休み明けのタイミングで計画を実行することになったのだ。



以前はどちらかの家にしょっちゅう集まっては食事会を開いていたものだけど、 親達がお互い歳をとって飲み会明けに仕事をするのがキツくなったというのと、 コタローが剣道を始めて週末が練習や試合で潰れることが多くなって、 こういう機会がめっきり減っていた。



だから、 私は久々の集まりにワクワクしていたし、 学校帰りにコタローと2人で食材の買い出しに行くことも楽しみにしていた。





「そんじゃ京ちゃん、 私はコタローの道着姿を(おが)んでくるよ」



「おおっ、 そう言うと、 なんか彼氏の応援に行く彼女っぽいね」

「ええっ、 やめて! そういうこと言われると、 無駄に意識しちゃうから」


「ハナの口からそういうセリフが聞けるなんて、 感慨(かんがい)深いわ〜。 頑張っといで! 」

「待ってるだけだから! 別に何も頑張らないから! 」



うふふと含み笑いをしながら調理室に向かった京ちゃんと廊下で別れて、 私は一路、 武道場へと向かった。




ーー えっ、 ナニアレ?


遠目(とおめ)に武道場が見えてきたところで、 いつもとは違う雰囲気を感じて、 私は走っていたスピードを(ゆる)めた。



人が多い。

というか、人垣が出来ている。


いつも部活中は開いたままになっている武道場の入口を囲むように、 沢山の女子が立って中を覗き込んでいる。



ーー 何かトラブル? まさかコタローがまた怪我をしたとか?!


そう思って焦って近付いたけれど、 どうも覗き込んでるみんなの顔が深刻そうじゃない。


というか、 めっちゃキャピキャピしてる。



不審(ふしん)に思いながらも人垣を掻き分けて中に入り、 靴を脱いでいたら、 背中にジトッとした視線を感じて振り向いた。



「…… えっ? 」


めっさ見られてる…… ナニコレ?


今までだって、 コタローのお迎えや用事でたまに武道場に寄ることがあったけれど、 こんなに混雑してたことも、 ましてやこんなに注目されたことも、 一度も無かった。



ビビりながらもいつも通り道場に入り、 キョロキョロしていたら、 ちょうど奥の更衣室から着替え終わったばかりのコタローが出てきた。


入口近くに立っている私に気付いて、 笑顔で「よっ! 」と右手を上げて近付いて来る。



そのコタローの(そで)を引いて(すみ)っこの方に行くと、 後ろ向きのまま親指で入口を指差し、 小声で状況確認を求める。


「ちょっと、 あの集団は何よ? めっちゃ見られてるんですけど」

「ああ…… 」


私の肩越しにそちらの方をチラッと見て、 困ったように頬をポリポリ掻く。



「まあ、 ハナは堂々と見学してればいいよ。 俺が呼んだんだし」



ーー ええっ?! 全く状況説明になってない!



コタローは一旦更衣室に引っ込んでパイプ椅子を運んでくると、 壁沿いの隅っこの方に広げて、「ここで見ててね、 俺の勇姿(ゆうし)」とニカッと笑って、 私の頭をポンポンと軽く叩いてから、 立ち話をしている他の部員の輪に加わって行った。




背筋をピンと伸ばして着座(ちゃくざ)して挨拶。


手早く面をつけてスッと立ち上がる(さま)は、 上品かつ気合いに満ち溢れている。


竹刀を構えた(りん)とした立ち姿は、 まさに現代の(さむらい)体現(たいげん)していて、 私が時代劇(じだいげき)好きだとかを抜きにしても、 単純にカッコよくて見惚(みと)れてしまう。



目の前にいるのはいつものコタローだけど、 いつもと違う顔をした、 私の知らないコタロー。


この前の試合の時も思ったけれど、 コタローにはコタローの世界があるんだなって改めて思う。



ーー なんか遠いな……。




椅子に座ったままじっと見入っていたら、 肩をポンポンと叩かれてドキッとした。


えっ?! と横を見たら、 知らない女子が人差し指で入口の方を指して、 それから顔の前で両手を合わせている。



あまり賢くない私でもなんとなく分かる。そのジェスチャーの意は、『ちょっとこっちに来て下さい』だ。 たぶん。



これってアレか? 漫画とかで良くあるやつ。

アレだよね? たぶん。


それって私…… ヤバイんじゃないですか?



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