表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/94

31、 コタロー不審に思う





ハナがおかしい。

なんか変だ。


たぶん昨日あたりから。



俺がチョコを持っていったら、 珍しくシュンと(しお)れていて、 俺の足を気遣ってくれて、 それから……。



髪を優しく()く指先。


こめかみにそっと落とされた柔らかい唇の感触。


唇が離れる瞬間にかかった吐息……。



ーー う……っわ…… ヤバい!



日曜日のやり取りを思い出した途端、 首筋からこめかみまでが一気に沸騰(ふっとう)した。


勉強机の椅子に座ったまま、 思わず両手で顔を(おお)って(うつむ)く。



「乙女かよ…… 」



変なのはハナだけじゃないな、 昨日は俺もなんか調子に乗っていた。


だって、 ハナがやけに素直で優しかったから……。



窓から射し込む夕陽が部屋中を柔らかい色に染め上げて、 その中ですっぽり2人だけの世界に収まったような、 不思議な時間。


あの時の心地よさを思い出すと、 胸がむず痒くなって、 自然に顔が(ほころ)んでしまう。




あの時は、 確実にいい雰囲気になっていた。

なんとなく、 いつもとは違う…… そう、 なんだか恋人同士みたいな空気感で……。



「そうなんだよな〜 。 なんだかいい感じだったんだよ」



だから余計に、 今日のハナの態度が()に落ちないのだ。



朝、 自転車で並んで走ってるのに、「おはよう」しか言ってこなかった。


教室の前で分かれるまで、 殆ど目を合わせてくれなかった。


昼にチョコレートを渡そうとしたら、 ドタキャンされた。 しかも直接言わずにメールで。



(きわ)め付けが放課後。


『あっ、 コタロー、 私今日、 京ちゃんと遊ぶ約束してたわ』



何が約束だよ。


お前が教室に来てそう言ったとき、 後ろで京ちゃんが「えっ? 」って小声で言ったのを俺は聞き逃さなかったぞ。



なんなんだよ、 一体。


俺が悪いのか?

俺が何かしたのか?



あれか? 俺がその前の晩にショートメール連投したからか?


チョコレートを「あ〜〜ん」なんてやったからか?



もしかして、 俺がキモい執着(しゅうちゃく)野郎っていうことに気付いてしまったのか?……。



昨日の会話を思い出す。


『ハハッ、 ストーカーみたいだったよね』

『そうそう、 俺はハナのストーカー歴13年…… って、 ストーカーちゃうわっ! 』



ノリツッコミの空手チョップで誤魔化したけれど、 あのとき本当は、 結構、 かなり傷ついていたんだ。


だって、 俺って本当にストーカーみたいじゃね?


13年とまではいかないまでも、 少なくとも5歳の歯科受診の時以来、 俺はずっとハナ一筋なわけで……。


なのにアイツは俺を弟みたいに思っていて、 俺のインデックスは『便利で使えるやつ』になっていて……。



ーー だからか…… もう口にキスしないって言ったのは。



「ハハッ…… なんか不毛(ふもう)すぎて笑えるな」



それでも俺はキモい執着野郎だから、 やっぱりハナのために必死になってしまうんだ。


だから今日も俺は、 チョコの入ったガラスボウルの写真を撮りに行く。




ギシッと音を立てて椅子から立ち上がったら、 階下から母親の声が聞こえてきた。


虎太郎(こたろう)花名(はな)ちゃんがそっちに上がってくからね〜! 」


ーー ええっ?!



噂をすれば…… だな。



俺は今立ち上がったばかりの椅子に慌てて腰を下ろして、 机の上の本を適当に開いて読むフリをする。



トントン


ノックと同時に開くドア。


俺は呼吸を整えて、 なんでもないよって顔をして、 椅子ごと振り返る。



「おっ、 ハナ、 どうしたんだよ」



「ん〜…… チョコレートを貰いに来た。…… あと、 昼間はドタキャンして…… ごめんなさい」


目線を足元に落としてモジモジしながら呟いている。



ーー く〜〜っ、 可愛いな、 このツンデレ娘!



俺は机の引き出しから、 ハナご所望(しょもう)のミルク味のチョコレートを取り出して手渡す。



「ん〜っ、 濃厚なミルククリームが最高! やっぱり定番はハズレなしだね」


「…… 美味しい? ハナ」

「うん、 めちゃくちゃ美味しい。 ありがとうコタロー」



俺はコイツの笑顔を見ながら、 今日もコイツの幼馴染であることに感謝する。



家族ぐるみで付き合いが長いことの特権(とっけん)


親がストッパーにならない。 出入り自由。 居留守を使われない。


徒歩1分のドアツードアで、 コイツの笑顔に会える。



うん、 そうそう、 この感じ。

今はまだ、 俺とコイツは、 こんな感じでいい。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ