27、 ライバル宣言 (4)
「あのっ、 待って! 」
急に呼び止められて振り返ると、 そこにはつい今しがたまでコタローとウフフ、 アハハと青春していた色葉先輩がいた。
「急に呼び止めてごめんなさいね。 体育館を出て行く後ろ姿を見て、 もしかしたら…… って思って」
「はあ」
「あの…… 天野くんの幼馴染のハナさん…… だよね? 」
「…… はい」
「ただの『幼馴染』で、『彼女』ではないんだよね? 」
「…… はい」
ーー あっ、 なんかこの流れ…… 漫画とかドラマで良くあるヤツだ。 この次に先輩が言うセリフ、 私、 知ってる……。
「私、 天野くんのことが好きなんだ。 だったら私が天野くんを貰ってもいいよね? 」
貰うも何も、 コタローが私のモノだった事なんてかつて一度だって無いんですけど。
私はコタローの幼馴染でお隣さんで同級生で、 ただそれだけで……。
「…… はい、 私は関係ないんで」
「そっか〜良かった! だって天野くん、 部活が無い日はあなたと帰っちゃうし、 部活がある日でもあなたと家で約束してるからってとっとと帰っちゃうしで、 ゆっくり話す時間が無かったんだ。 じゃあ、 これからはもっと天野くんを誘ってもいいんだよね? 」
「はあ…… はい」
「ハナちゃんがライバルだと思ってたけど、 違って良かった〜! 」
胸の前で手の指を組んで、 ニッコリ微笑んでみせる。
こんなに綺麗な人なら、 別にコタローじゃなくてもいいだろうに……。
「今からコンビニ? お弁当を買いに行くの? 」
「いえ、 あの…… もう帰ります」
「そっか〜、 午後は天野くん試合に出ないしね」
「えっ、 そうなんですか? 」
「あらっ、 知らなかった? 天野くん今回は団体メンバーに入ってないの。 いつもは副将で出てるんだけど、 今は足があんな状態でしょ? みんなに迷惑をかけるからって自分から辞退したのよ」
「辞退…… そうだったんだ…… 」
「そう。 だから今日は個人戦だけだったんだけど、 それも2回戦で負けちゃったから、 午後からの決勝戦にも出れないしね。 天野くん優勝候補だったのに残念! 」
「優勝候補…… コタローはそんなに強いんですか? 」
「えっ?! それも知らないの?! 天野くん、 この辺りの中学生の中では断トツだよ。 来年はたぶんうちの部長になるんじゃない? 」
色葉先輩はアーモンド型の瞳を大げさに見開いてみせた。
ーー 断トツ……。
そう言えば、 コタローの家の居間にはいくつかのメダルやトロフィーが飾ってあるのに、 私は試合の結果にもそれらの戦利品にも興味を示そうとしなかった。
だって、 コタローが私に剣道するなって言ったから…… だから私は意地になって……。
「良かった〜! 幼馴染って言ってもその程度だったんだね、 安心した。 呼び止めちゃってごめんね。 気をつけて帰って! 」
後ろで結んだ髪をピョンピョン揺らしながらコタローの元へと軽やかに走っていく後ろ姿を、 私は黙って見送った。
色葉先輩…… でもね、 その『ただの幼馴染』と、 アイツは毎日キスしてるんですよ。
まあ、 チョコレートの対価なんですけどね。
な〜んの意味も無いんですけどね……。
その『何の意味もないキス』で色葉先輩に優越感を持とうとしている自分が、 なんだか惨めで情けなかった。
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