25、 ライバル宣言 (2)
何人かの退屈な挨拶のあとで開会宣言があって、 ようやく試合が始まった。
入り口のテーブルで貰った対戦表によると、 午前中に個人の部があって、 午後から団体戦が行われるらしい。
しまった! リサーチ不足だった。
昼食の準備をしてきていない。
近くにコンビニあったっけ…… 後で検索してみよう。
コタローはBコートの第4試合。
同じ中学の応援団が陣取っている方だ。
こちらからだと少し遠くなるけれど、 それは致し方ない。
目の前のAコートの試合をチラ見しつつ、 Bコートの進捗具合を気にかける。
まだ2試合目、 コタローはもうちょい後。
ーー あっ、 風子さんと哲太さん! お祖父さんの宗次郎先生も一緒だ。
コレはヤバイ。 目立たないように大人しくしておかなくちゃ……。
あまり意味がないとは思いつつ、 微妙に体を縮こませておく。
スマホで近くのコンビニを検索してから顔を上げたら、 コタローがBコートの傍らで面を付けていた。
同中の応援団が手すりから身を乗り出し、 カメラを構え始める。 いよいよか。
コタローの名前が呼ばれ、 コートに立って竹刀を構える。
『始め! 』の声と同時に大きな声を出して打ち合いが始まった。
ダン! ダンッ! と床を踏み込む音。 そして勢いよく相手の面へと飛び込んでいく。
「面あり、 一本! 」
審判の旗が上がり、 風子さんたちが拍手している。
そうか、 今のは面に当たってコタローが勝ったんだな。
続いてもう一本取って試合終了。
どうやらコタローが勝ったらしい。
ーー うわっ、 なんだコレ……。
初めて観た剣道の試合は、 想像以上に激しくて迫力があった。
そしてコタローの試合姿は、 想像以上に男らしくて…… カッコよかった。
ーー もっと前から観に来とけば良かったな……。
コタローのことは何でも知っている気になっていたけれど、 ここ数日で気付いてしまった。
今まで自分が見逃してきたコタローの顔がいっぱいあったんだって事に。
コタローになんと言われようと、 試合を観に来れば良かった。
もっと剣道に興味を持てば良かった。
そしたら『試合を観に来るな』なんて言われなかったかも知れない。
あっちの席で堂々と応援出来ていたのかも知れない。
テーピングの仕方だって…… とっくに覚えていたかも知れない。
そんな風にボヤッと考えていたら、 再びコタローの名前が呼ばれた。
ーー また試合?! 間隔短いな!
審判の声と共に試合が始まり、 コタローがダンッと床を踏み込んで…… 急にしゃがみ込んだ。
右手を上げて試合を中断すると、 右足首を押さえて顔をしかめ、 ジッとしている。
ーー 痛むんだ! あの日に痛めた…… 私を庇って負傷した右足が……。
コタローはしばらく動けずにいたけれど、 審判に向かって『大丈夫』というように頷き、 試合が再開された。
コタローはやはり右足が痛むのか、 いきなり動きが鈍くなった。
相手の打ち込みをどうにか躱してはいるけれど、 自分からはなかなか打ち込んでいかない。
なかなか決着がつかず、 試合は延長戦にもつれ込んだ。
そして同時に打ち込んで…… 相手側の旗が上がった。
コタローが負けた。