24、 ライバル宣言 (1)
日曜日の朝だというのに、 隣町の中学校は剣道関係者の車や自転車で賑わっていた。
駐輪場に自転車を置いてスマートフォンを見ると、 液晶画面に8:48の表示。
大丈夫、 午前9時からの開会式にはまだ余裕がある。
人の流れについていくと迷わず体育館に辿り着けた。
あとはコタローに見つからないようにコッソリ試合を観戦するだけだ。
昨日喧嘩別れみたいになってそのまま家に帰ってきた私は、 腹立ち紛れにその後のコタローからのメールもことごとく無視してやった。
『ハナ、 なんなんだよ、 勝手に帰ってんじゃねえよ! 』
『ハナ、 なんだよ、 なに怒ってんだよ』
『まだ怒ってんの? 』
『ごめん、 俺が笑ったから怒ったの? 』
『ごめん、 悪かった。 ふざけ過ぎた。 許してよ』
『明日のチョコ選んで(写真添付)』
『チョコいらね〜の? 』
『おい、 ハナ! 』
『チョコ欲しいのがあったら言えよ。 おやすみ』
無視するなんて良くないのは自分でも分かっている。
心の中ではちょっと反省してるけど、 素直に『私もごめんね』と言う気持ちにはまだ至っていない。
風子さんや父親の哲太さんが観戦するのは良くて、 どうして私だけダメなんだ?
女がいると気が散るのか?
だったら風子さんも女だし、 近くにキレイ系女子部員もいるじゃないか。
理由が『来て欲しくないから』だけじゃ納得いかない。
こっちはその『来て欲しくない理由』を知りたいんだよ!
だから勝手に観て、 その『理由』を突き止めてやることにした。
コタローの許可なんかいらない、 必要ない。
2階の観覧席に上がって手すりから下を覗き込むと、 コタローが剣道部のメンバーと一緒に壁に貼られた試合の対戦表を見ていた。
もちろん色葉先輩もいる。
今日も後ろでセミロングの髪を1つ結びにして、 手には竹刀を握りしめている。
ーー 袴姿か…… 女剣士、 カッコいいな。 チクショウ。
他にも何人か女子部員がいるけれど、 やっぱり断トツで色葉先輩が美人だと思う。
コタローもそう思っているのだろうか……。
ーー さて、 どこに座ろうかな。
なるべくコタローから見えにくい所に座りたい。
周囲をキョロキョロ見回すと、 左の方の一画に見覚えのある顔が何人かいるグループを見つけた。
先輩や後輩もいるっぽいから知らない顔もあるけれど、 たぶんアレは同じ中学の人たちとその関係者だろう。
ーー とすると…… 。
真ん中あたりとこっち側、 あと向こう側の塊はそれぞれ違う中学の人たちか。
どうやら今日は近隣の中学4校で試合をするらしい。
私はどこぞの中学の応援団が陣取っている方へと歩いて行き、 そこの一番端っこの席に何食わぬ顔で腰掛けた。