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22、 バカヤロウ!


「今度さ…… 試合観に行こうかな」


京ちゃんお手製の抹茶ロールケーキを口に運びながらポツリと(つぶや)いたら、 マグカップを持つコタローの手がピタリと止まった。



「はあ?! 試合? 剣道の? 」

「そう。 コタローの剣道の試合」


「なんで? 」

「このまえ風子(ふうこ)さんに聞いたよ、 日曜日に隣町の中学で試合があるんでしょ? あそこなら私も自転車で行けるかな……って…… 」



「ダメだ! 」


思いっきり速攻で拒否された。

しかも(かぶ)せ気味に。



「なんでダメなのよ」

「来て欲しくないから」


「1回くらいいいじゃん」

「嫌だって言ってんだろ! 絶対来んなよ」



しばし無言で(にら)み合う。




私が剣道の試合を()に行ったことは一度も無い。


コタローの初めての試合の日に応援に行くと約束してたのに、 風邪で発熱して行けなくなって以来、 誘ってもらえなくなった。



試合後お見舞いに来てくれたコタローに試合結果を聞いたら、「負けた」と唇を(とが)らせて目を伏せたのを覚えている。



「次はきっと勝てるよ、 今度は絶対に応援に行くからさ」


そう言った途端、「お前、 もう試合を観に来なくていいよ。 絶対に来るなよ! 」

そう言い残して帰っていった。



それまで私の(あし)に頭を預けて甘えていたくせに…… 。

指で髪を()かれて気持ち良さそうに目を閉じていたくせに……。


そう思って腹を立てたものだ。



私がドタキャンした事に腹を立てたのかも知れないし、 ただ単に試合中に気を散らされたくなかったのかも知れない。


いずれにせよ、 本人にそう言われてしまったし、 剣道にさほど興味が無かったこともあって、 試合観戦の機会を失って今に至っているのだ。



その代わり…… と言うのも変だけど、 コタローは試合が終わると、 必ず私に会いに来るようになった。


疲れているからか、 そんな時のコタローは、 なんだかとても甘えん坊になる。


「疲れた…… 癒してよ」



そう言って肩にもたれてくると、 なんだか私が姉貴ぶっていた幼い頃に戻ったみたい。



試合に勝った時には『褒めてよ』、 負けた時には『慰めてよ』。


どちらにしても、 結局は私の膝に頭を乗せて、 ゆっくりと目を閉じるのだ。



なのに……




「なんだよお前、 今まで剣道に興味なんて無かっただろ。 なんで急にそんなこと言うんだよ」

「なんでって…… 」


正直言うと、 今だって別に剣道に興味なんて無い。

汗臭いのもうるさいのも勘弁(かんべん)だ。



ーー ん? はて? …… どうして私は剣道の試合を観たいと思ったんだ?



「あっ…… ほら、 あれだ、 テーピング! 私が試合前にテーピングしてあげるよ。 まだ必要でしょ? 」

「はあ? ハナが? テーピング? 」


そう口にした途端、 コタローがもたれていたベッドに後頭部を押し付ける勢いで体を()らし、 大笑いした。



「ハハハッ! ハナにテーピングなんか無理だろ、 やったこと無いくせに」

「やったこと無いけど…… 覚えればいいじゃん」


「そんなん自分で出来るし、 必要なら部員同士で手伝うし…… ハナ?! 」



気がついたら、 すっくと立ち上がって、足をドアへと向けていた。


悔しい、 恥ずかしい! 腹が立つ!


顔が異様に熱い。 たぶん真っ赤になっているだろう。

こんな顔をコタローに見られたくないし、 今はコタローの顔も見たくない。



「おいっ、 ハナ?! 」


コタローが立ち上がる気配がしたから、 「来るな! バカヤロウ! 」

そう言って勢いよくドアを閉めて帰ってやった。


何にそんなに腹を立ててるのかって?



そんなの私にも分からないよ、 バカヤロウ!



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