21、 そういうんじゃないから!
「ねえ、 さっきの女子部員さんと約束があったんじゃないの? 」
門の方へ歩いていく剣道部のみんなを見送って、 後ろからゆっくり歩きながら、 気になっていたことを聞いてみた。
「えっ? 」
「だって、 ほら、 コタローが私と帰るって言って、 あの人が『分かったわ』って…… 」
「ああ…… 色葉先輩…… あの人、 色葉舞っていう3年生の先輩なんだけど、 俺の足を心配して、 家まで付き添うって言ってくれてたんだよ。 大丈夫だって断ったんだけどな」
「ふ〜ん…… 私が来ちゃってごめんね。 ってか、 だったらあの先輩と帰れば良かったのに」
ーー あっ、 なんかまたモヤッとしてきた。
「帰らねえよ! 」
コタローが急に大声を出したので、 私はビクッとして思わず立ち止まった。
「なんでそうなるんだよ。 だから、 断ったって言ってんじゃん! 大体さ、 お前が勝手に消えるから…… そうだ、 お前、 さっきはなんで逃げたんだよ」
コタローが拗ねたような顔で見つめてきた。
「えっ?! …… 別に…… 逃げてないし」
「嘘つくな。 俺と目があった途端に全力で走り出しやがって」
「いや、 全力じゃないし…… 」
「お前なあ〜、 全力か半力か知らねえけど、 理由も分からず背中を向けられたらこっちは凹むっつの」
「だって、 あれは…… 」
迎えに行ったらコタローがパイプ椅子に座っていて、 あの先輩が足を持ってテーピングしていて……。
ーー あれ? それで、 なんで私は逃げたんだ?
モヤモヤしたから…… 違うな。
イラッときたから…… 何に?
「えっと…… ああ、 あれだ。 コタローが生意気にニヤけてたから、 なんかムカついたんだ」
「はあ?! オレがいつニヤけたっていうんだよ」
「あの色葉先輩に足を触られてヘラヘラしてたじゃん」
「してね〜し! …… って、 待って、 あれ、 お前にはそんな風に見えてたの?! 」
コタローがまた立ち止まって愕然とした顔をした。
「おい、 ハナ! あれは違うからな! あの人はただの部活の先輩で、 俺のテーピングが緩んでたのを見かねて直してくれただけで、 そういうんじゃないから! 」
私の両肩をガッシリ掴み、 必死の形相で訴えてくる。
「マジで違うからな! そういうんじゃないから! 信じろよ! 」
「コタローのことは信じてるけどさ…… そういうんじゃないって…… 何が? 」
「そういうって言うのは…… 」
コタローはそこで言葉を切って、 苦笑しながら私の髪をクシャッと乱暴に撫でた。
「まあいいや。 とにかく、 俺はお前と帰りたいんだよ。 だからもう、 勝手に逃げるなよ」
「…… うん」
ーー あっ、 なんか胸やけが治ったかも。
「あっ、 そうだ! 京ちゃんがロールケーキをくれたからあげるよ」
「ロールケーキ? 」
「うん、 抹茶とイチゴの2種類。 帰ったらコタローの部屋に行くから一緒に食べようよ」
「お前も食うんかよ」
「いや、 さっきまでは胸焼けがしてたから全然欲しくなかったんだけどさ、 なんか治ったっぽい」
「そんじゃ母さんに内緒でハチミツ入りの紅茶を淹れてやるよ」
「やった〜! 」
「ハハッ、 ついでに塾で明日のチョコも選んでけよ」
うん、 そうそう、 この感じ。
やっぱりコタローと私は、 こんな感じがいい。