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2、 なに言ってんの? コイツ


私、桜井花名(さくらいはな)天野虎太朗(あまのこたろう)は、 お隣同士の幼馴染(おさななじみ)



私たちの母親が元々幼馴染で、 それぞれ婿養子(むこようし)を貰って家業を継いだから、 私たちは生まれた時から…… いや、 母親のお腹にいた時からの、 筋金(すじがね)入りの幼馴染というわけだ。




「ねえ、 コタロー、 ちょっと話があるんだけど」

「うん」


「今日帰ったらすぐにあんたん()に行くわ」

「いいけど、 話なら今でも聞くよ」


「いや、 誰にも聞かれたくないから、 後でいい」


集団下校の列に並んで歩きながらそう告げると、 コタローはちょっと不思議そうに首を(かし)げたけれど、 そのまま黙って頷いた。




家に帰ってランドセルから必要な物だけを手提(てさ)げ袋に詰め替えると、 私は勝手口から外に出て、 隣のクリニックに向かった。


『桜井歯科クリニック』と書かれた自動ドアが開くと同時に中を覗き込んで、 母を探す。



「あっ、 お母さん、 コタローん家に行ってくるね! 」

「こらっ、 花名! 裏から入るように言ってるでしょ! 」


受付から叫んだ母を無視してクリニックを出ると、 今度はそのままコタローの家へと向かう。



コタローの家は学習塾をしていて、 コタローのお祖父(じい)さんとお母さん、 それにバイトの大学生講師の3人で、 小学校3年生から6年生までの子供達に国語と算数を教えている。

私も小4クラスの生徒の1人だ。


塾と家はドア一枚で行き来出来るので、 どちらから入っても同じようなものだけど、 私は昔からの習慣で、 大抵は普通に玄関からお邪魔するようにしている。




「コタロー、 塾からチョコを取ってきてくれない? 」


コタローの部屋でコタローのベッドに腰掛けながらそう言ったら、 勉強机の椅子ごとクルリと振り返ったコタローが、 ぶっきらぼうに言い放った。


「ダメだ、 お前にはチョコを渡すなってお母さんに言われてる」



やっぱりか……。


家族ぐるみの付き合いだと、 情報が漏れるのも瞬速(しゅんそく)だ。


ちなみにうちは仕事柄ご近所づきあいも密なので、 クリニックに来る患者さんも商店街のみんなも大抵顔見知り。


多分そっち方面にも私の『甘いもの禁止令』は知れ渡っているに違いない。




私は塾で(もら)えるチョコが大好きだ。

勉強を終えて帰る時に、 その日頑張ったご褒美(ほうび)として貰えるチョコレート。


それはどこのお菓子売り場でも10円とか20円で売られているキャラメルサイズの四角いチョコで、 透明なガラスボウルに入った何種類もの中から好きな1個を選ぶのが、 塾に通う生徒たちの楽しみでもあるのだ。



「お願い、 内緒で1個だけ! 」

「嫌だよ。 バレたら俺が両方の親から叱られるじゃん」


「バレなきゃいいんだよ」

「バレたらどうすんだよ」


「絶対にバレないって! 」

「そんなの分かんねえじゃん! 俺ばっかリスク(たけ)えよ」


「強情なやつだな」

「お前こそ(あきら)めろよ、 また虫歯になるぞ」


ググっ…… コタローのくせになかなか(ゆず)らない。生意気だ。


くっそ〜……。



「それじゃ、 条件をつけよう。 もしもあんたが毎日チョコをくれるなら、 私もあんたに欲しいものを与える。 物じゃなくてもいいよ。 例えば勉強を教えるとか、 掃除当番を変わるとか…… 」



私の思いっきり譲歩(じょうほ)した申し出に、 コタローは何かしら考えているようだった。


お願い、 コタロー。 この申し出を受けて!



「…… キスだな」



「へっ? 」



へっ? なに言ってんの? コイツ。



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