19、 キレイなお姉さんは先輩部員?
ホームルームが終わってすぐに隣の教室に行ったら、 そこには既にコタローの姿は無かった。
「京ちゃん、 コタローは? 」
「ああ、 ホームルームが終わってすぐに出てったから、 部活に行ったんじゃない? 」
「くそっ、 アイツ、 裏切ったな」
「なに、 約束してたの? 」
「足がまだ本調子じゃなさそうだから、 今日は部活を休んで一緒に帰ろうって言ってたんだけどさ」
私たちの家から中学校までは自転車で5分ほどの距離。
コタローはもう大丈夫って言ってたけど、 自転車のペダルを漕ぐと痛みがあるということで、 今朝は2人で20分ちょいかけてゆっくり徒歩通学してきた。
帰りも一緒に帰ろうって約束してたのに……。
んっ? 約束したか?
昼休みに階段を下りてから2人とも無言で、 教室の前まで来た時に立ち止まって……。
『コタロー、 今日は部活休むでしょ、 一緒に帰ろうよ。 あとで迎えに来るね』
『大丈夫だよ』
『大丈夫じゃないって。 さっきも右足を引きずってたし。 いい? 教室で待っててよ! 』
ーー 約束できてなかった!
頬へのキスで動揺したのがいけなかった。
第一、 なんで急にコタローからキスしてくるんだよ。
最初の時にコタローが『お前がしろ』って言ったから、 ずっとそうしてきたのに。
いつもの唇のキスよりも、 コタローからされた頬へのキスの方がドギマギしちゃうってどういうこと?!
大体さ、 顔を真っ赤にしてたコタローも悪い。
なんかコタローがいつもと違ったから、 こっちまで照れてしまったんだ……。
そんな事を考えながら武道場に向かうと、 今日も扉は全開されていて、 私は容易く中を覗き込むことが出来た。
ヒョイっと顔だけ入れて見渡すと、 コタローは武道場の片隅でパイプ椅子に座って右足を投げ出していた…… と思ったら、 そうじゃなかった。
ーー んっ? んんっ?!
コタローの前に膝まづいた道着姿の女の人が、 コタローの右足を持って、 肌色のテープをグルグルと巻いている。
これは足首を保護するためのテーピングというやつだろう。
うん、 おかしくない、 別に。
でも誰? あの人……。
道着を着ているということは、 剣道部員なんだろう。
綺麗な人だ…… お姉さんっぽい雰囲気で…… 先輩なのかな?
コタローを見上げて微笑む女子部員と、 それに応えるように笑顔で何か話し掛けているコタロー。
なんかモヤッとする。
何が?…… 何か分からないけど。
私が何故か近付くこともできずぼ〜っと眺めていたら、 その視線に気付いた女子部員がこちらにペコリと会釈した。
私もペコリと会釈し返してたら、 そのやり取りに気付いて顔を上げたコタローと目が合った。
コタローがガタッとパイプ椅子から立ち上がって、 その口が『ハナ』と動いた。
でも私は、 ジッと見ていたことを知られたのが恥ずかしくて、 なんでかその場にいたくなくて、 クルリと回れ右してダッシュした。
今度は大きな声で『ハナ! 』と呼ぶ声が聞こえたけど、 私は立ち止まらなかった。