表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/94

17、 ピリ辛い1日 (3)


「コタロー、 キスしよう」

「へっ?! 」


コタローが慌てて周囲をキョロキョロ見回す。



「今日のぶん…… チョコの対価を支払ってない。 だから今から…… 」


「バカっ! こっち来い! 」



コタローは私が言い終わらないうちに手首を(つか)んでヒョコヒョコ歩き出す。


そのまま武道場の裏に回って、 裏口のドアの前で立ち止まった。



「アホかお前は! あんな所で不用心なことを言うなよ! 」

「ごめん…… でも私、 チョコをもらったのに対価を払ってないし、 おまけに迷惑かけたし…… 」



「だから、 足は俺の不注意だからお前が気にすることないし、 こんなのは湿布(しっぷ)を貼っとけば明日には(なお)るし」

「でも…… 」


「お前も今日は(のど)がピリピリして大変だったろ。 もういいよ。 気にすんな」

「だけど…… 」



「『でも』とか『だけど』とか、 うるさいよ、 お前。 まあ、 お前がキスしたいっつーのなら(こば)みはしないけどな」



ハハッと笑った顔を私がジッと見つめていたら、 コタローが笑顔を引っ込めて黙り込む。



「お前は…… したいのかよ」



私がコクリと頷くと、 コタローは一瞬目を見開いて、 (つば)をゴクリと飲み込んだ。



「…… するよ、 キス」

「おっ…… おう」


「…… (かが)んでよ」

「…………おう」



そっか、 いつもは言わなくてもコタローが勝手に屈んでくれてたから気にしてなかったけど……。

コタローがこんなに屈んでくれないと届かないほど、 私とコイツとの身長差はついちゃってるんだ……。


今更ながらそんなことに気付いて、 何故(なぜ)かちょっと取り残されたような、 切ないような気持ちになった。



いつもと同じようにそっと唇に当てるだけのキス。


だけどそこには、 いつもの対価とは別の、 違う感情があるような気がした。



これは感謝? 感動? 謝罪の気持ち? …… 自分でもよく分からない。



だけどこれは、 小4の時からずっとしてきたのとは違う、 初めて自分から自分の意思でした口づけだ。



コタローが裏口の前のコンクリートの階段に座ったから、 私も隣に並んで座った。



「…… ハナも、一緒に車に乗ってけよ。 明日の朝も車で送ってくし」

「うん…… そうする」



「風子さん、 遅いね」

「あっ、 部活が終わる時間で頼んであったから、 来るのまだだわ」


「…… そうなんだ」

「うん…… 」


「電話してみたら? 」

「うん…… まあ、 いいじゃん」


「うん…… まあ、 いいか」

「うん、 まだいいよ」



もう(のど)のピリピリはとっくにおさまったはずなのに、 何故(なぜ)か唇だけがピリピリしている気がした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ