16、 ピリ辛い1日 (2)
「アレっ、 ハナ、 コタローは? 一緒に帰らないの? 」
放課後に1人で帰ろうとしていたら、 靴箱のところで京ちゃんに呼び止められた。
京ちゃんとは今年になってクラスが別々になってしまったけれど、 今も大事な親友だ。
ちなみに京ちゃんとコタローは同じ2-Bのクラスで、 私は2-Aなので、 教室は隣同士。
「あっ、 京ちゃん。 今日は水曜日だからコタローは部活だよ」
「えっ、 だって足を怪我してるじゃん」
「えっ、 どういうこと? 」
お互いに『えっ?!』と言って顔を見つめ合う。
「ちょっと待って、 コタロー怪我したの? 」
「えっ、 だって、 コタローはいつもみたいにお昼休みにハナに会いに行って…… 帰ってきた時には足にテーピングして戻ってきたよ。 めっちゃ湿布の匂いさせながら」
ーー 湿布? テーピング?! それって……。
「京ちゃん、 私行かなきゃ! 」
そのまま体育館の隣にある武道場へと走り出す。
私が武道場に着くと、 扉は開いたままになっており、 中の練習風景が丸見えになっていた。
入り口から体を半分突っ込んで覗き込んだら、 みんなが練習してる後ろで、 1人だけ壁にもたれて座っているコタローを発見した。
左足はかろうじて内側に曲げているけれど、 右足は伸ばして前に投げ出している。
その右足首から甲にかけて肌色のテープが巻かれているのが遠目にもハッキリ分かった。
他の生徒を見習って入り口で靴を脱ぎ、 四つ這いになって壁沿いにスススと進んでいく。
もう少しのところでコタローが気配に気付き、 何気なくこちらに顔を向けて、「えっ?! 」と二度見した。
「おわっ! お前何やってんだよ! 壁沿いにカサコソ近付いてくるからゴキかと思ってビビったわ! 」
「コタローこそ何やってんのよ! 足を怪我したって本当? 」
私の言葉にコタローはチラッと自分の右足に目をやって、 それから私の顔を見た。
「…… なんで知ってるんだよ? 」
「さっき京ちゃんに聞いた」
「…… チッ…… 口止めしとけばよかった」
「馬鹿コタ! なんで私に内緒にしてたんだよ。それって私のせいだよね? 私が階段で…… うぐっ」
途中まで言いかけたところでコタローに口を塞がれる。
「馬鹿ハナ、 うるさい。 練習の邪魔になる。 外に出てろ」
「…… プハッ。 だけど、 まだ話が…… 」
「いいから外で待ってて。 俺も顧問の先生と部長に挨拶だけして外に出るから。 元々、 こんな足じゃ練習出来ないから帰ってもいいって言われてたんだ」
コタローに言われるまま、 また四つ這いでコソコソと戻って外に出た。
5分くらいしたら約束どおりコタローが出てきたけど、 右足だけ引きずってカクンカクンと体を傾けながらゆっくり歩いてくる。
「コタロー! 」
すぐに駆け寄って肩を貸したら、 「カッコ悪いな…… 俺」と悔しそうに顔をしかめた。
「馬鹿っ! こんな足でどうして部活に出ようとするのよ! 」
「お前がこうやって騒ぐと思ったから、 帰る時間をズラしたかったんだよ。 今日は竹刀は振らずに見取り稽古だけのつもりにしてた」
「帰りは? こんなんじゃ自転車に乗れないよね」
「母さんが授業をバイトに任せて迎えに来てくれることになってる」
「私、 風子さんに謝らなきゃ…… コタローも、 ごめん。 私を庇ったせいだ。 本当にごめん」
「違うって、 お前は悪くない。 俺が勝手に足を捻っただけだし。…… ったく、 こうなるからバレたくなかったのに…… 」
ーー それって、 私が気にすると思って?
そう思ったら、 何かが胸にブワッと湧き上がってきて、 なんだかこのまま帰りたくないと思った。
私はコタローに正面から向き合うと、 両手を取って言った。
「コタロー、 キスしよう」